二十話『引きこもりにも才能がいるんだよ』
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翌日。光太郎はぼーっとテレビを眺める。
「普通に如月市外の特集やってるけどなぁ」と耳をほじりながら言う光太郎に、江藤は「でも如月市から出ようとしたおじいさんが消えたのも確かに見たんです」と答える。
光太郎は、「んで状況を調べるために奴らのアジトに突っ込んだらこてんぱんにやられたと」と江藤をバカにする。
江藤は、「僕の力不足です」と学生服を洗いながら悲しげな顔をした。
「まあそう落ち込むなって。いいじゃねえか。お前らも俺も生きて帰ってこれたんだから」
光太郎が言うが、ハツネは「なんでなん」とまだ怒っているのか声を震わせる。
終いには、バンッと両手で光太郎の机を叩いた。
「なんで敵に土下座なんかしたん!?!?」
ハツネが怒鳴る。江藤は、「土下座…?」と首を傾げる。
ハツネは、「こいつアホなんやで!!いきなり降参やってダークマスターに土下座したんや!!!江藤を助けるためとは言わせへんで光太郎!!!なんであの場で逃げたんや、なんであの場で戦う選択肢が無かったんや!」と感情的になる。
「え」と目を見開き立ち止まる江藤。江藤は、「光太郎さんに限ってそんな」と呟く。
二人の会話を聞いた光太郎は「るッせぇよ。じゃあ死ねば良かったの?俺も、テメェらも」とハツネに問いかける。
「俺が恥かくだけで全て解決したんだ」と怠そうに言う光太郎に、ハツネは「あかん…ホンマにアホや」と呆れる。
「代案も言えねえやつが一方的に人が考えてやったことに突っ込むな」
光太郎はそう言うと、「江藤にはこの意味わかるよな」と江藤に視線を向ける。
江藤は「…」と下を向いたまま拳を握った。
「まッ、一人前のヒーローになれるように頑張れよ、テメェら。」
光太郎は立ち上がりながら言うと、一階の喫茶へ向かう。
階段途中で「俺ァちょっと下ごしらえでもしようかね」扉を閉める音と同時に、光太郎の声が二人にも聞こえる。だが、二人は言葉を返さない。
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「光太郎さんが土下座までしたなんて」と少しショックを受ける江藤に、ハツネは「アイツ…頭が軽すぎるやろ」と毒を吐く。
「でも光太郎さんのおかげで助かったのは事実…僕がそもそも行こうなんて言わなければこんなことにならなかったんだ。僕たちが相手にしようとしてる敵はあまりにも強大だ」
悲観的になる江藤。
「黒いブレザー…」ハツネは呟いた後、「これじゃどこの学校まで特定できひんわ…。
ボタンにはSって頭文字が入ってるけど」と椅子にかけられているブレザーを手に取る。
「ジャケットの裏に名前ない?」と問いかける江藤。
ハツネは、ジャケットの裏の名前を確認するが、「なんか縫われてるけど…使い古した痕があって読めへん」と答える。
「そっか」江藤はそう言うと、「時が来たら、返さないとね。」と微笑む。
「持ち主が必ずいるはずだから」江藤の言葉に、ハツネは、「せせやな」と返した。
江藤は「ハツネちゃん行くよ、光太郎さん手伝わないと」と階段を降りていく。
ハツネも、江藤の後に続く。
喫茶キュアミラージュの一階へやってくると、黒い長髪の美青年が、「モーニングサンドイッチをひとつ」と光太郎に注文していた。
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光太郎は、「はいモーニングサンドイッチね」と調理をはじめる。
「ヒーローがいると聞いてやって来たんだが。変身サービスは無いのか」と問いかける長髪の男に、光太郎は「その声…」と目を見開く。
光太郎の反応に口角をあげた長髪の男は「ご存知の通り、俺は白龍小次郎。お前の幼なじみだ」と笑みを浮かべる。
「…お前は、ブルーアイズホワイトドラゴン!」
驚く光太郎に、階段から降りてきた江藤とハツネは、「なんですか?」「なんや?」と話しかける。光太郎の反応を見て口角を上げる小次郎。
「どうやら、過去の記憶は俺もお前も少し残ってるみたいだな」
長髪の男を見て江藤は、「なんだ。光太郎さんの知り合いですか。」と安堵する。ハツネは、「デカイ声出して脅かすなや」とツッコミを入れた。
小次郎は、「ついに光太郎も子を栄えたのか。」と光太郎を揶揄う。
光太郎は、「んなわけねぇだろ。まだ俺ァ二十七。絶賛彼女募集中だよ」とサンドイッチになる具材をひとつひとつ丁寧に切りながら答える。
「そうだったな」と呟く小次郎。
「んで?テメェが来るって事は、金を貸してくれ。か、また新たな問題持ってくるかの二択だろ。」
答えを聞く前に呆れる光太郎に、小次郎は、「待ってくれ。」とそう言って小次郎は、店内をゆっくりと見渡しながら静かに息を吐いた。
「今回はどっちでもない。如月市が閉じてる理由を知ってるのは、たぶん俺と、クロウサギ(やつら)だけだ。」
小次郎の言葉に、江藤は「あなた…もしかして」と瞳を震わせる。
「クロウサギの奴らに負けた後、長らく実家を出て宇宙警察ステーションにいたのだが、未明の便で地球に来た。マナやカーガと少し議論したんだが、この世界は何者かによって創られた偽の世界である可能性が高い。その可能性が正しければ、何らかの目的で何度も何度も俺たちは同じ時間を繰り返している事になる。」
小次郎は説明する。江藤は、「やっぱり…戦士」と瞳を震わせる。ハツネは、ゴ●ゴ13の漫画を読みながら「ふーん。光太郎と戦ってたんや」と興味無さげに鼻をほじった。
光太郎は、「確かに、テメェの事も覚えてるし。何故かクロウサギの監視と言う名目で知らん間に喫茶が建ってるし。抜け落ちてんのは最後の戦いの前後だけかもしれねぇな」と小次郎に答える。
小次郎は、「そこで俺は最後に誰と戦ったかを訊ねるために、事が済むまで出られない覚悟でお前の所へきた。後朝食食べに。」と説明を終える。「はいよ」光太郎は小次郎にモーニングサンドイッチを差し出す。
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小次郎は、「お前は俺と同じ学校で育った事とか覚えてるのか?」とサンドイッチに手をつけながら光太郎に問いかける。光太郎は、「創られた偽の世界だってんなら、そんな事考える必要ももうねぇだろ。うるせぇと下げるぞ皿」とめんどくさそうに答えた。
「んで。それでどーすんの。」死んでいるのかと思うほど真顔になる光太郎に小次郎は、「誰と戦ったかを俺は知りたい。俺たちが引退する前、誰と最後に戦ったのかを。」と言いながら美味しそうにサンドイッチを頬張る。
江藤は、「どうやらクロウサギの連中、狙ってるのは僕の命らしいんですよ。」と横から割って入る。江藤の言葉に小次郎は「どういう事だ」と首を傾げる。
「……ダークマスター」光太郎は名前を呟く。
「知ってたんじゃねえの。あの気味の悪い仮面の男。俺がレッド…江藤をヒーローに誘うって。知ってたんじゃねえの。だから先回りで俺たちと戦おうとした。俺たちが最後に戦ったのは、ダークマスター」
仮説を作る光太郎を小次郎は、「そんな預言者みたいな事あるか」と馬鹿にする。
「あーもう訳わかんなくなって来ちゃったよ俺」と片手で頭を抱える仕草を取る光太郎。
小次郎は「俺も如月市を出られないうちは地球に残る。共にこの状況を打開しようじゃないか!」とどこか楽しげに言う。
「…ダークマスターってだれだ」直後とぼける小次郎。
思わず江藤とハツネは頭をガックリ下げる。光太郎は、「俺だって最後に戦ったのがダークマスターかどうかは分かんねえけど!なんかあの黒の仮面に黒のマントに厨二病みたいな格好をして長い杖を持ってる奴だよ!!!」と叫んだ。
江藤が横から、「声をボイスチェンジャーで犯人の声みたいに加工しているんですよ」と説明する。小次郎は「全く思い出せん!」と頭を抱える。
「よーし!!!わかった!!!ならもう一度クロウサ…」と血迷う光太郎に、「僕を売る気ですか!!!」と叫ぶ江藤。
「アンタもいっぺんダークマスターに仕留められたらいいんですよ!!!僕がどれだけ苦労した事か!!!」
江藤のツッコミに光太郎は「でも助けたのは俺ですぅーーー。俺がいなかったらお前は死んでましたーーーベロベロバァ!!!」と小学生レベルの煽りを返し火に油を注ぐ。
江藤は「ッこの腐れ黒髪天パ!!!!」と光太郎に怒鳴るが、小次郎が「まあまあ落ち着け。こいつの天パは生まれつきだ、なあ?兄弟。」とサンドイッチの最後を口に入れながら江藤にグッドサインを示す。
江藤は「生まれつきの天パだからなんなんですか」と目を細める。小次郎は、「お前ら仲が悪いのか」と疲れたような表情を見せた。
ハツネは、「はあ~。ヒーローなんかならなかったらこんなことにならんかったかもしれへんなぁ」とため息をつく。
「でも、ヒーローの力が無ければ如月市から出たら消えてたかもしれねえんだぞ。有難く思え」
光太郎の言葉の後、江藤がユニバースカードの振動に気づく。小次郎、光太郎、ハツネもポケットからユニバースカードを手に取る。
「インカムの通知や」
ハツネはそう言うと、ユニバースカードリーダーにインカムのカードを差し込む。
一斉にカードを差し込むヒーローたち。それぞれの力の色を纏うインカムがユニバースカードリーダーから具現化される。
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『光太郎!!小次郎!!』
マナの声だ。「芦●愛菜!」と目を見開く小次郎に、マナは、『違うわよ!ハルカ・マナ!名前ぐらい正しく覚えて!』と怒る。
小次郎は、「あーいとぅいまめーん」と軽く謝った後、マナに『アヤメからの連絡が無いの!!!』と焦りながら叫んだ。
「アヤメ?」と首を傾げる光太郎を見て、小次郎は、「あー、お前が地球に送った記録係の女か。」と静かに頷く。
マナは『そうよ!あの子からの最後の写真が、如月市の市境の写真!』と緊迫した声色で半分パニック状態になりながら説明する。
『如月市の市境!?』と声を揃えて驚く江藤とハツネ。
ハツネは、「まさか…」と声を震わせる。江藤も「…」と俯いて悲しそうな表情を浮かべる。
光太郎は「マナ…落ち着いて聞いてくれ。如月市の市境を超えると…ヒーローの力を持たないやつ以外…消える」と説明する。
マナは、『消えるって…どういうこと』と絶望にひれ伏すような声で呟く。
「江藤が市境を超えたら、来た道に戻ることが出来た。でも、江藤が見たじいさんは粒子になって…消えた。恐らく違いはヒーローの力を持っているか持っていないか。それにお前さんのとこの記録係が消えたってんならほぼ確だ」
光太郎が言うと、マナは『アヤメッ……アヤメ……』と泣き崩れる。
「マナも不用心だよ、江藤に安置にクロウサギのアジトに乗り込めって言ったり。俺のほうがもっと指揮官上手いっての。クロウサギのほーの指揮官はマナよりレベル高ぇぞ。」
光太郎の言葉に、マナは『私が…私が向いてないって言うの!?』と泣き崩れながら発狂する。江藤は、「光太郎さん…!」と光太郎を注意する。
「実際そうだろ。お前らだってこいつのせいで危険な目に遭ったんだぞ。怒るべきところは怒るに決まってんだろ。こっちもいい加減方針決めなきゃなんねえ。マナの指示で動くより江藤の思考で動いたほうがよっぽどいい。テメェら現場にいねえんだから」
光太郎が真剣な声色でそう言うと、『宇宙警察に指示を出すのが我々宇宙警察ステーションの使命…。光太郎の意見はしっかり耳に入ったわ…。でも私は指揮官を辞めない、今まで以上に的確な指示が出せるように務める!!!』
とマナの宣言を聞いた四人は、それぞれ違う表情を浮かべながらも、静かにインカム越しの沈黙に耳を傾けていた。




