2人の男の思惑
海サイド ― 報告
夕方。
署の一角。
海は机に肘をつき、報告を聞いていた。
「……で、連絡先を渡されたと?」
「はい」
目の前の男は、昼間陵を尾行していた人物。
少しだけ困惑した表情をしている。
「逃げるどころか、“直接聞け”って」
「……」
海は黙ったまま、視線を落とす。
「正直、気味悪かったっす」
男が苦笑する。
「普通、誰かが尾行してたら戸惑ったり怖がるのに...」
「そうだな」
海は短く答える。
「逃げるか、怒るかだ」
「ですよね」
「それをしないってことは――」
海はゆっくり顔を上げる。
「潔白ゆえの余裕があるか」
間。
「もしくは、最初から隠す気がないか」
男が黙る。
空気が少しだけ重くなる。
「……どっちだと思います?」
海はすぐには答えない。
指で机を軽く叩く。
思考を整理するように。
「"どっちでも"厄介だな」
ぽつりと呟く。
そして。
男からスマホを受け取る。
画面には、陵の連絡先。
迷いのない文字。
隠す気のない提示。
(挑発か)
あるいは。
(誘っている)
どちらにしても。
危険だ。
海は立ち上がる。
「今日はもういい」
「え?」
「ありがとう」
男を下がらせる。
一人になる。
静かな空間。
海はスマホを見つめる。
数秒。
迷いは、ない。
通話ボタンを押す。
⸻
陵サイド ― 着信
夜。
自宅のベランダ。
電気はつけていない。
静寂。
スマホが震える。
画面を見る。
――知らない番号。
だが。
陵は、すぐに理解する。
(来た)
口元がわずかに上がる。
通話ボタンを押す。
「もしもし」
先に口を開く。
数秒の沈黙。
そのあと。
『……三原陵くんだな』
低く、落ち着いた声。
間違いない。
海。
陵は軽く笑う。
「はい」
柔らかい声。
「やっと直接話せましたね。海さん」
電話の向こうで、わずかに空気が変わる。
『俺の名前は聞いたか』
「ええ」
あっさりと答える。
「きよかさんから」
わざと名前を出す。
わずかな揺さぶり。
だが海は乗らない。
『……そうか』
短い返答。
無駄がない。
陵の目が、少しだけ細くなる。
(いいな、この人)
簡単には崩れない。
だからこそ――
壊しがいがある。
「それで」
陵が先に切り出す。
「わざわざ尾行までして、俺に何か用ですか?」
静かな圧。
だが、声色に穏やかさを含ませる。
電話越しに、視線がぶつかるような感覚。
数秒の沈黙。
そして。
『一度、会って話がしたい』
真っ直ぐな言葉。
逃げない。
濁さない。
陵は一瞬、目を閉じる。
楽しい。
そう思ってしまう自分がいる。
「いいですよ」
即答。
迷いはない。
「俺も、そのつもりでした」
ゆっくりと目を開ける。
「場所、指定してもらっていいですか?」
⸻
対峙の予兆
通話を終える。
静かだ。
だが、空気は変わっている。
戦いの前の、静けさ。
陵は視線の先にあるきよかの部屋の光を眺める
(海)
きよかの過去。
警察。
そして――
“邪魔者”。
ゆっくりと笑う。
(来いよ)
きよかさんを悩ませるものも
苦しませるものも
全てを僕が排除します。
そうすればきっと僕ときよかさんは完璧な2人になれる。




