第9話 契約後、家にて
名月さんと別れた俺は、ようやく自宅に辿り着いた。
「ただいま~」
「あら、おかえりなさい。遅かったじゃないの。ごはん出来ているわよ」
「じゃあ、先にご飯食べる」
自宅に帰ると、母さんが出迎えてくれた。
洗面所で手を洗い、バッグを部屋にしまい込み、リビングへ向かう。
リビングのテーブルには既に夕飯が用意されていた。
今日は俺の大好物であるミートソースのようだ。
ミートソースの甘ったるい香りが、鼻腔を擽る。
「いただきま~す」
手を合わせ、フォークで上手に麵を絡ませながら口に運ぶ。
「ところで、どうして遅かったの?」
「委員会活動があったんだよ」
「あら、委員会に入ったのね」
「うん」
「それにしても、遅くないかしら?」
「いや……そうかな……?」
そりゃあ、同じクラスの女子とドスケベフレンドになったとかいう狂言、親に言えるはずない。
だが、この母さんはかなりの曲者で、なかなか降りてくれない。
母さんは首を傾げながら、詮索を始める。
「うーん、なんか怪しいわね……」
「なんもないって!」
母さんは何かを思い浮かんだように、手をポンと叩いた。
「はっ! まさか並介に彼女が……!」
「違う!」
近からず遠からずの回答に、一瞬、ドキッとする。
「うんうんうん。並介にも彼女がねえ……。うん、もう、高校生だものね。彼女の一人や二人、出来て当然よね」
「だから、違うって!」
聞いちゃいねえ。
この男子高校生のナイーブなところを土足でずかずかと踏み込んでくるのが、俺の母さん、平谷花である。
「もしかして、お母さん、邪魔だったかしら?」
「うん? どういうことだ?」
「お母さんが居なかったら、彼女さんをお家に連れ込めたのねえ」
「はい?」
「親が居ない家で二人きり。そりゃあもう、若いんだから、セックスするしかないわよねえ♡」
「ぶほっ! やめてくれ……。親から聞かされる下ネタ程、キツイものはないんだから……」
息子の前にして平気でどぎつい下ネタをぶち込んでくるのも平谷花の特性である。
ある意味俺のドスケベは、この母さん譲りなのかもしれない。
うちの母さんは確かにドスケベだけど、俺とは違いスポーツが得意で頭も良い。
であるのに、なんでそれらは遺伝されず、ドスケベな部分だけ遺伝されたのですかねえ。
神様、少々お戯れがすきます。
「本当に彼女が出来たのなら、必ずうちに連れてくるのよ」
「彼女なんてできる訳ないだろ……」
俺はクラスでの惨状を母さんには伝えてない。
だから母さんは、俺がクラスで馴染んでいるのだと思い込んでいる。
期待に応えられなくてすまない、と心の中で謝っておく。
名月さんは……彼女とか、そういうものではない。
お互いの溜まったドスケベを満たすための関係。
いわば、ビジネスパートナーなのだから。
「ごちそうさまでした」
「あら、ちょっとまだ聞きたいことが――」
夕飯を食べ終わった俺は、リビングから逃げるように去っていった。
あんな感じで質問攻めにあってはたまらないからな。
部屋に入り、お節介な母さんが入ってこないように、しっかり鍵を閉める。
誰にも邪魔されない、最もプライベートな空間、それが自室である。
ゴロンと、そのままベッドに身を預け、
「よっし! 明日からドスケベ三昧だ!」
興奮の余り、意味もなくベッドを左右に転げまわる。
最高だ……。
まさに、夢見心地といっていい。
同級生の可愛いとされている女子と、好き勝手ドスケベできるなんて。
しかも、ドスケベの最高峰であるラッキースケベを堪能できるというおまけ付き。
明日から楽しみで仕方ない。
「名月夏輝さん……まさか、あんなドスケベな女子がうちのクラスに居たなんて」
やはり、脳内に浮かび上がってくるのは、否が応でもあのクラスで大人しい、いかにも真面目ですって殻を被ったドスケベ女子・名月夏輝さんである。
興奮する気持ちを抑えられないでいる俺は、いつの間にかパンツを下ろしていた。
思えば、あの一件以降、俺がドスケベを解放するのは、夜寝る前のこの時間のみ。
だが、明日からは違う。
バラ色のドスケベライフが俺を待っている!
よーし、今日は捗るぞー。
ティッシュをセッティングして、事を致す。
いつもは動画や画像を拝借するが、今日に限っては必要なし。
今日の出来事を思い返すだけで十分だ。
「夏輝ちゃんとドスケベ♡ 夏輝ちゃんとドスケベッ♡ はーあ、捗るっ♡」
快眠だったのは言うまでも無かった。




