第33話 テスト週間スタート
「今日からテスト週間になります。それに伴い部活動・委員会活動が中止となります。皆さん、この期間でしっかりと勉強してください」
担任の田宮先生が帰りのホームルームでそう告げると、クラスに緊張感が漂う。
ついに始まってしまった、中間テストウィーク。
勉強すらも平凡なモブキャラの俺の目標はとりあえず赤点を取らないことだ。辛うじて平均点前後をウロウロしているため、幸いにも赤点を取ったことはない。
「つーか、全然勉強してねえんだけど、終わったわ」
「もう開き直って、カラオケオールしね?」
「こいつヤバいわ。マジで終わってるわ~」
陽キャ達の阿鼻叫喚が聞こえてくる。
うちの学校は偏差値がそれほど高くないため、このように陽キャ中心に勉強が苦手な人が揃っているため、テスト及びテスト期間はわりと地獄だ。
そんな学校で平均点な俺も大概だけど……。
動物園みたいに騒がしくなり始めた教室を、息をひそめて荷物をまとめ帰ろうとすると、
「ちょっと平谷。用があるんだけど、来てもらえるか?」
後ろから俺を呼ぶ声がした。
陰キャモブの俺に用があるなんて、今日日名月さんくらいしかいないだろう。
だが、俺はある違和感に気づいた。
名月さんは『平谷』ではなく『平谷君』呼びである。
で、あるならば、心当たりがあるのは一人しかいない。
先日、歴史的和解を果たしたカーストトップの黒ギャル様、槇原マキ。
振り返ると、予想通りの褐色の肌が色っぽい黒ギャルが立っていた。
「うげっ。ま、槇原さん……!」
「んだよ、そのリアクション。相変わらず変な奴だな、あんた」
「う、うう……」
そりゃあ、カースト最底辺の陰キャモブが、カーストトップの黒ギャル様と話したら、変な感じになりますって。
……というか、俺に用があるって言ったよな、槇原さんは。
まさか、カツアゲか……!
令和のこの時代にギャルが陰キャ君にカツアゲって、時代錯誤甚だしいぞ。
といっても、陰キャモブに拒否権なんてないんですけどね。
「屋上に来な」
「えっ……」
おおお、屋上⁉
放課後に屋上……。
ま、まさか……!
こ、告白かああああああ⁉⁉
落ち着け、勘違いウジ虫陰キャモブ。そんなはずないだろ!
いや、図書室で「良い奴」的なこと言っていたし、見直して、惚れられた可能性も無きにしも非ず。
第一印象は最悪だったけど、結果的に最高のパートナーになった、なんてのはよくある話なわけで……。
でも、俺には名月さんという最愛なるドスケベフレンドが居る訳で……。
いや、別に恋人ではないから、俺がどう答えるのも自由なのか。
どーしよっかな。ただ槇原さんのことはよう知らないし。まずはデートからとか……。
槇原さん、カーストトップ黒ギャルだけあって、ビジュも相当良いし……。
う~ん、迷っちゃうな~。
なんて考えている間に、屋上に到着する。
俺と槇原さんはちょうど対面に立っている。
なんだか雰囲気が出てきたぞ。
「それで話ってのは」
「うん」
ドキドキドキドキ――。
「名月ちゃんと仲いいだろ? その……私に勉強を教えてって頼んでほしいんだ!」
はい、解散。
まあ、そんなことだろうと思ったけね。
コホン。恋愛モードはこれでおしまい。通常モードに切り替えよう。
槇原さんは祈るように、手を合わせ懇願している。どうやら本気みたいだ。
「別に構わないけど、俺を介す必要なんてなくないか」
「いやさ、多分なんだけど、名月ちゃんって私たちのような黒ギャルを心底見下してそうじゃん?」
「そうか?」
「絶対気にしているね。いつも本読んでいるカシコは、クラスでぎゃあぎゃあ騒いでいる黒ギャルを猿と思われているだろうさ」
「それはないと思うけどなあ」
「いや、ある!」
譲らない槇原さん。
槇原さんって案外、繊細案ところがあるんだな。
カーストトップの意外な一面を見ることが出来た。
「槇原さんに勉強を教える? 別に良いわよ」
まだ教室に残っていた名月さんに、先ほどの提案をするとあっさりと承諾してくれた。
名月さんは優しいから、こうなることは容易に想定できたが。
槇原さんにとっては僥倖だったようで、
「本当か! ありがとうな! 私さ、ガチで赤点、ヤバいんだよ! 助かるぜ!」
その目は真剣そのもの。
本当に中間テストが危うかったんだな。まあ、見た目的にも勉強は苦手そうだしな。
「といっても、私そこまで頭良くないわよ」
「いや、普段から本読んでいる奴は絶対に賢い!」
「そんなことは……」
名月さんが普段読んでいる本が、ドスケベな本であると知ったら、槇原さんは卒倒しそうだ。
「本当に私、多分皆が思っているよりも賢くないわよ」
謙遜する名月さん。
「じゃあ、去年の期末テスト、何位だった?」
「学年で二十位とか、そんな感じだったかしら」
「「それが俺(私)にとっては頭が良いって言うんだよ!」」
まさか槇原さんと声が重なる日が来るとは思わなかった。
さっきも言った通り、うちの高校は偏差値がそこまで高くないから、全国的に見れば名月さんはそこまで賢くはないのかもしれないが、平均ウロウロな俺と赤点危機の槇原さんからすれば、十分に賢い分類に入る。
「平谷君も一緒に来てほしいわ」
「えっ、俺も? 全然、問題ないけど」
俺もしっかり勉強しないと落ちぶれるくらいには、危ういところに居るので、賢い名月さんと勉強できるのは有り難い他ないのだが。
「それじゃあ、三人でやりましょう」
「おう。よろしく頼むな、名月ちゃん」
「待て待て待て。場所は決まっているのか?」
「それならとっておきの場所があるわ」
名月さんが案内した先は……、
「さあ、勉強を始めましょう」
……ここ、俺の家なんだけど。




