第32話 黒ギャルと歴史的和解
槇原マキの予想外の行動に俺は思わず固まってしまった。
ど……どういうこと?
「か、顔を上げてくれ……。どうして、俺になんかに謝るんだ……?」
頭を上げた槇原マキは説明を始める。
「あの一件に決まっているだろ」
「ああ、そうか……」
カーストトップの陽キャ様が、陰キャモブの俺に謝るなんて、ありえなさすぎて混乱していた。
俺と槇原マキのトラブルなんて、あの一件しかないだろうに。
つまり、ビンタしたことに対しての謝罪ということか。
「確かに平谷、あんたは救いようのないドスケベ人間だ」
「うぐっ……それは本当にごめん……」
「だが、ビンタは流石にやりすぎた。何事も手を出すのは良くない。本当に申し訳なかった」
そう言って、再び頭を下げる槇原マキ。
案外良い奴なんだな。
陽キャの黒ギャルというだけで、危険視していたけれど、こうして素直に謝れるあたり、根はちゃんとした人なのだろう。
これに関しては、俺にも非はある。
男として、ここは俺からも謝ろう。
「こちらこそすまん。男に身体を見られたら不快に思う、という考えに至らなかった俺の思慮不足だった」
「じゃあ……仲直りということで、いいか?」
「お願いします」
そうして、俺は槇原マキ……いや槇原さんと仲直りの握手を交わした。
まさか、槇原さんと和解できる日なんて来るとは思わなかった。
カーストトップの黒ギャルとカースト最底辺の陰キャモブ。正反対の二人ではあるが、同じ人間であることには変わりない。分かり合うことだってできる。
槇原さんは、それに、と言葉を続ける。
「別にあんただけじゃねえ」
「うん?」
「私の身体をジロジロ見てくるのは、何もあんたに限った話じゃねえんだよ。いつもつるんでいるグループの男も、普通にイヤらしい目で見てくるし。男ってそういうもんだからな。仕方ねえよ。あの時の私は子どもだったんだ」
「そ、そうか。まあ、俺が悪いことしたのは変わりないから」
「あんた、案外、良い奴なんだな」
「えっ……俺が?」
ドスケベなことしか考えられないクズ陰キャモブの俺が、善人なわけないだろ。
「ヒョロい奴だと思っていたが、案外芯のある奴なんだな」
確かに芯はあるかもしれないが……。
「買い被りすぎだよ。現に俺はドスケベだし」
「ふはっ! やっぱりキモいわ、あんた!」
そう言いながらも、ゲラゲラと心から笑っているようだ。
蔑みから生まれる笑いではなくて、俺の発言がストレートにウケているみたいだ。
対等な関係になれた証左とも取れるだろう。
「といっても、改善できるだけマシってことだ」
「改善?」
「最近、あんたから全然、イヤらしい視線、感じないし。行動を改められるだけで偉いってことじゃね? 知らんけど」
「ああ……そう……かもしれない」
行動を改めたというか、ドスケベの供給がありすぎて、槇原さんをはじめ、他の女子を見る必要すらないというか……。
その供給主である、隣に座る名月さんを一瞥する。
「良かったわね、平谷君。わだかまりが解けて」
「だな」
俺と名月さんの会話を、槇原さんがじぃー、と見つめている。
ま、まさか……俺たちの関係がバレたとか⁉
もし、バレたら、せっかく仲直りできたのに、また嫌われてしまう……!
「二人はどういう関係なんだ?」
うぐっ……!
踏み込まれた……!
俺の母親には「付き合っています」と言ったが、槇原さんに同じことをすればややこしくなる。
「ただ委員会で一緒ってだけよ」
しどろもどろする俺の代わりに、名月さんが百点満点の解答をしてくれた。
ナイスアシスト。
それでこそ、俺のパートナー(意味深)だ。
「そうか……とりあえず、私はこれで失礼するよ。今後、一切、平谷に意地悪しないように、と連れに言っておくから」
「うん、分かった。ありがとう」
槇原さんは陽キャらしく、颯爽と去っていった。
その後ろ姿は、なんとも頼もしかった。
結局残ったのは、俺と名月さんの二人だ。
「思っていたよりも、ずっと良い人だったわね、槇原さん」
「だな。ダメなものはダメって言う、正義感が強い人なんだろうな。陰口言われるより、よっぽど健康的だ」
「そうね、我々、陰キャは時折、必要以上に陽キャに対して敵対視してしまう悪い癖があるものね」
槇原さんとの和解。俺にとって歴史的な日となった。
俺の学校での生活が前進したのは間違いない。




