第27話 病院にて
「ここが病院みたいね」
「そこまでしなくていいのに……」
なぜか病院にまで同行する名月さん。
流石に、献身的がすぎやしませんかねえ……。
「うん、うん、特に異常は見られないね。骨折や打撲ではない。念のため、痛み止めを一週間分、処方しておくから。まあ、しばらくたてば痛みも引いて、治ると思うよ。もし、なんかあったら、またきて」
「診察、ありがとうございます」
診察を終え、待合室に戻った俺はようやく肩の荷が下りた。
やっぱり、病院の診断は受けておくべきだな。
「異常なし」と言われた時の安心感が違う。
病は気から、ということわざを証明するかのように、診察を終えた瞬間から、痛みがほとんど無くなった。
「良かったわね」
「うん」
名月さんは病院の受診までついてきてくれた。
これ彼女通り越して、もう母親だろ。
とにもかくにも、名月さんのおかげだ。
看病にとどまらず、病院の同行まで。今日だけで、どれだけ俺のために時間を費やしてくれたのだろう。
何かお礼をしないと、流石に申し訳なさすぎる。
「その……本当にありがとう、俺のためにわざわざここまで」
「何を言っているのかしら。友達が怪我したのだから、これくらいはして当然でしょう」
「その当たり前ことを出来る人がこの世にどのくらいいるんだよ。本当に……ありがとう」
「ちょっと何泣いているのよ」
「こんなに優しくされたの、生まれて初めてで……」
また彼女の優しさに触れて泣いてしまった。
俺、どれだけ情けないんだよ。
ドスケベなことをさせてくれる、という以前に、彼女は人として余りにも広く深い。
こんな顔も性格も超Sランクの美少女を、ドスケベフレンドなどという最低な関係にさせていいのだろうか。
途端に罪悪感がこみあげてくる。
「あの、さ、今日のお礼、絶対するから」
「じゃあ、期待しているわね。とびっきりのドスケベを」
「えっ……?」
「ん……? そういうことじゃないの?」
どれだけドスケベに染まっているんだ、この人は。
それじゃあ、俺のご褒美になっちゃうじゃないか。
「違うって。普通にささやかなお礼がしたいんだ」
「別に恋人同士じゃないんだから、そういうことしなくていいのに。ドスケベフレンドなんだから、気楽にドスケベなことしあいましょう」
「そう……だよな。でも、いつか、ちゃんとしてお礼は……その、したいと思っているから。なんか欲しいものや、したいことがあったら、言ってほしい」
もごもごと言う俺に、名月さんは視線を合わせて、にこやかに笑った。
「そう。じゃあ、色々考えておくわね」
「う、うん……」
か、可愛すぎる……。
最近、よく思うことがある。
俺は長い夢を見ているのではないのだろうか。
名月夏輝という人は俺の妄想で作りだした虚像なのかもしれない……。
あれ、なんか本当に意識が朦朧としてきた……。
怪我したことにより、体力が低下しているらしく、ふらふらし始める。
名月さんは、フラフラする俺の頭を、自分の太ももにあてがった。
「ほら“ココ”が一番柔らかいんだから、枕代わりにしなさい」
「~~~~ッッッ⁉⁉」
ミニスカートによって生み出された、絶対領域から降誕する生太ももが、俺の後頭部が当てがわれる。
幸せが一気に頭を包み込んでいく。
忘れてはならないのは、ここは病院の待合室。がっつり、公共機関だ。
そんな場で出来るギリギリのドスケベをここでお見舞いされた。
なんたる、温かさと優しさが詰まったドスケベなんだ。
俺の家の枕を遥かに凌駕する気持ち良さで、本当に寝そうになってしまう。
さっき、寝たばっかりなのに……。
意識を取り戻すと、圧迫感が妙にあることに気づいた。
「ッッッ⁉⁉」
気づけば、名月さんの太ももに顔をうずめるような態勢になっていた。
な、なんと、ドスケベな……!
大慌てで、身体を起こす。
先ほど俺が顔を埋めていた太ももには、ぎっとりと唾液がこびりついていた。
エッロ……じゃなくて!
花園に汚物があるようなものだ。早急に拭き取らねば。
「ごめん、名月さん」
ポケットに入っていたハンカチで、拭き取るも、なぜか彼女からの反応はない。
変だと思い、名月さんの顔を見る。
「すぅ」と綺麗な吐息を立て、彼女は目を閉じていた。
初めて見る名月さんの寝顔。
しかも、眼鏡がずれているせいで、素顔が見え隠れする。それは人形と呼ぶべきか、はたまた天使と呼ぶべきか……とにかく、めちゃくちゃ可愛い。
というか、寝てしまうほど、彼女は疲れていたということだ。
つまり、それだけ俺は彼女に負担をかけさせてしまったということだ。
その申し訳なさと労いの気持ちから、自然と言葉が出てしまった。
「名月さん……俺と出会ってくれてありがとう。ドスケベなこと出来て幸せだし……いや、それだけじゃなくて、委員会の仕事親切に教えてくれるし、二人組作るとき俺のパートナーになってくれるし、自分の時間削ってまで俺の看病をしてくれるし。君の底抜けの優しさにずっと助けられている気がする。
陰キャでドスケベで何の取り柄も無いモブでクズな俺だけど、今後ともドスケベフレンド……いや、普通に友達で居てくれるだけでも嬉しいので、よろしくお願いします」
かああああああ!
何言っちゃっているの、俺……。
本人が寝ていることを良いことに、好き勝手言っちゃって。
これセクハラにならないよね? 大丈夫だよね?
「平谷さん。平谷並介さん。準備が出来ましたので、受付に来てください」
「は、はい……!」
受付の人に呼ばれたので、一旦その場を離れる。
「(寝てないわよ……。全部、聞こえちゃっているわよ、平谷君……!)」
会計をする俺の後ろで、顔を真っ赤にしている名月さんを最後まで気づくことはなかった。




