第26話 献身的なドスケベ美少女
「骨に異常はないみたいだけれど、念のため病院へ受診することをオススメするわ。とりあえず、これ以降の授業は休みなさい」
「はい」
「担任は誰? 言っておくから」
「田宮先生です」
「ベッド、空いているから好きに使っていいわよ」
保健室へ向かった俺は、保健室の先生に症状を診てもらった。
幸いにも大事には至らなかったようだが、顔が若干腫れていて、ジンジンとした痛みがある。
貰った氷嚢を患部に当て、先生の言いつけを守り、ベッドに寝転がる。
保健室のベッド、初めて使ったな。なんかすげえ、フカフカしていて気持ち良い。あれ、なんだか眠くなってきた……。
ゆるやかに、意識が無くなっていく。
目が覚めると、視線の先には見知らぬ天井があった。
一瞬、どこにいるのか分からなかったが、程なくして、記憶のインストールが完了する。
そうか、俺、体育の授業で、顔にボールが……。
顔周りには新しい氷嚢が置かれている。
保健室の先生がやってくれたのかな……。
「ようやく目が覚めたのね、平谷君」
身体を起こすと、ベッドの横に置いてある椅子に名月さんが座っていた。
「名月さん⁉ どうして……」
「どうしてって、心配だから来たに決まっているじゃない」
「授業は……?」
「田宮先生に様子を見に行っていい、って許可を貰ったわ」
「そうなんだ。もしかして、名月さんが新しい氷嚢を変えてくれたの?」
「ええ。要らないお節介だったかしら?」
「いや、凄い助かったよ、ありがとう」
「それなら良かったわ。痛みとかは大丈夫?」
「うん、だいぶ良くなったよ」
「それなら良かったわ。ちなみに、保健の先生は別件で出ているみたいよ」
「分かった」
暫く無言の時間を共有する。
名月さんはいつものように何かを仕掛けるでもなく、静かに俺を見守ってくれている。
「先生、遅いわね」
「そうだね。ねえ、名月さん」
「なにかしら?」
「なんかいつもと違くない? ほら、いつもだったら『保健室はドスケベの聖地!』とか、なんとかいって、いつもみたく俺を骨抜きにするようにラッキースケベの数々を仕掛けてきそうなものなのに」
「確かに、私ならそんなこと言いそうね。一緒に居ることで、私に対する解像度高くなったじゃない」
「おかげさまで」
「けが人にそんなこと出来る訳ないじゃない」
それを聞いた俺の胸は自然と熱くなる。
や、優しすぎるだろ……!
名月さんはただドスケベなだけではなくて、こういう気遣いもできる、いい女だ……。
名月さんに彼氏がいたとしたならば、その彼氏さんはさぞかし幸せなのだろうな……。
というか、授業を抜けてまで、俺を看病しに行く時点で優しすぎるのだけれど。
すると、名月さんは俺の手を優しくなでる。
……なんて、優しくて温かい手だ。
いつもはイヤらしくドスケベな手なのに、今回に限っては聖母の如く慈愛さを持っている。
「はやく元気になってね、平谷君」
「~~~~ッッッ⁉⁉」
今はどんな過激なドスケベよりも、この優しい言葉が俺にとって一番の特効薬だ。
嫌われ者で誰も味方がいない俺にとっては、寄り添ってくれるだけで、本当にありがたい。
名月さんは俺の身体だけではない。
俺の心も満たしてくれる、聖母のような存在だ。
「氷、新しいのに変える?」
「いや、大丈夫だよ。そこまでさせるのは申し訳なさすぎる」
「遠慮してはダメよ。変えてくるから、待っていてね」
「名月さん」
「何かしら?」
「本当にありがとう」
「それで、どうするの? 痛みがあったら病院に行った方が良いと思うけど」
放課後。
保健の先生が帰ってきて、助言をもらっている。保健室ともおさらばだ。居心地良かっただけに、少し寂しい気分になる。
ちなみに、名月さんはあの後もずっと保健室に居て、俺の看病を付きっきりでしていた。
余りにも面倒見がよすぎる。
これだけだったら、絶対に良いお嫁さんになると確信できるが、それを帳消しできそうな度が過ぎたドスケベがあるところが、何とも彼女の恐ろしいところだ。
「いや、だいぶ痛みが引いてきたんで、大丈夫です。あとは家に帰って寝れば、完治するでしょう」
その判断に、苦言を呈したのは名月さんだった。
「推測でモノを言うのはダメよ、平谷君。特に怪我は、怖いし」
「いや、心配性すぎるって。ボールが顔にぶつかったくらいで大げさな」
保健の先生は名月さんの意見に同調する。
「彼女さんの言うとおりね。平谷君、一応病院の診察を受けましょう。親御さんには田宮先生を通して、こちらから伝えるから。病院にも連絡しておくから」
「……分かりました」
ぶっちゃけ、ちょっと面倒くさいな、と思ってしまったが、保健の先生の指示なら仕方ない。というか、普通に彼女だと思われているし。
まあ、名月さんが献身的すぎて、そう思われても仕方がないが……。
保健の先生に病院の名前と地図が記された紙きれを渡され、陽が暮れた通学路を歩きながら目的地へと向かった。




