第24話 準備運動は接触がつきもの
今日の体育は男女合同でバレーボールの授業らしい。
運動が不得意な俺にとって、体育の授業は苦痛でしかない。
モブキャラらしく、誰にも迷惑が掛からないように空気に徹しよう。
「全員揃ったかー。ボチボチ始めるぞー」
目の前に立っている強面の安田先生が、俺たちの体育を担当する教師だ。
怖いし、身体がごつくて、いかにもな体育会系だから苦手なんだよなあ。
「二人組作って、体操から始めろ」
こう平然と、『二人組作って』とかいう即死呪文を唱えてくるところも苦手だし、体育の授業が苦手な要因の一つでもある。
しかし、今日は美術といい、即死呪文が跋扈する危険な日だ。
こういう時、俺は存在感を消して、二人でやっている風を装って一人で体操をする。
そうすると、怒られもせず、なんだかんだやり過ごせるんだよな。
まあ、ガチガチの体育会系教師にとって、俺なんて眼中にないだろうし。
いつものように一人で体操をしていると、後ろから声がかかる。
「平谷君、二人組で体操する、という指示が出ているのに、どうして一人で体操しているのかしら」
俺に声をかけてくれる人なんて一人しかいない。
名月さんだ。
「見たらわかるだろ。相手が居ないんだよ」
「そうなのね、可哀そうだわ」
「そういう名月さんは?」
「いつも一緒にやってくれる人が居るのだけど、今日はお休みみたい」
「そ……そうなのか。へー、いつも一緒にやってくれる人が居るんだ。ふーん」
その微妙なリアクションに、名月さんは悪戯っぽく笑った。
「なに? 嫉妬しているのかしら?」
「し、嫉妬なんてしてないから!」
このモヤモヤした気持ちは嫉妬なのか……?
「おい、そこ! 何しているんだ! 早く体操しろ!」
流石に二人で無駄なおしゃべりを続けていると、安田先生の逆鱗に触れてしまう。
一人だと認識されずにやり過ごせることが出来るが、二人でいるとこうして怒られてしまうようだ。
それは悲しいような、嬉しいような……。
「仕方ないから一緒にやってあげましょうか?」
「うん、やろう」
今日は二度も即死呪文を聞いたはずなのに、名月さんのおかげでこうして生きていることが出来る。
名月さんには本当に頭が上がらない。
しかし、女子と二人で体操するのって、色々マズいような……。
だって、肉体的な接触もあるわけで……。
「背中、押してもらえる?」
まずは柔軟体操だ。
一人が正座して、もう一人が背中を押す、よくあるアレだ。
「うん、行くよ。せーの」
名月さんの背中を軽く押すと、すぅーと前に倒れる。
名月さん、めちゃくちゃ身体柔らかいな。
そんなことを感心していると……、
「もっと、押して♡」
なぜかイヤらしい声で懇願してくる名月さん。
「お、押すよ……」
先ほどよりも若干力を入れて、背中を押す。
地面につきそうなくらい、腰がぐにゃんと曲がる。
「もっと、強くっ♡」
「わ、分かった」
「もっと、激しくっ♡」
「お、おう」
「ああん……!」
言われた通りぐいっと力強く押すと、名月さんが悶える。
冷静に考えて、何をやっているんだ、これは。
「攻守交代。次は平谷君の番よ」
「お手柔らかにお願いします」
今度は俺が柔軟体操をする番だ。そして名月さんが俺の背中を押す係。
「押すわよ」
「うん……いってえ!」
悲しいが、俺の身体がガチガチだ。
柔軟体操をするときの俺の身体はてこでも動かない。
「力が足りないのかしら」
名月さんはぐっと、より力を入れる。
「うぎゃああああ!」
背中、腰に激痛が走る。
運動神経が悪いとかそういうレベルじゃなくて、俺ってもう老化が始まっているの?
「だ、大丈夫かしら」
「大丈夫。ごめん俺、身体固くて」
すると名月さんは、俺の耳元に顔を近づけてくる。
「本当にガッチガチね♡」
「ひげっ!」
そんなことを耳元で囁かれたら、別の部分もガッチガチになっちゃうだろ!
そんな初心な俺を嘲笑うようにして、後ろにいる名月さんは自分の身体を覆いかぶせるように寄せてくる。
背中に、ぽにょんと柔らかいものが押し付けられる。
あっ、本当にガッチガチになってきた……。
しかも、体育着だから、余計目立ってしまう。
「平谷君のアソコもガッチガチね♡」
「~~~~ッッッ⁉」
名月さんにはかなわないよ、本当に……。




