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第22話 ドスケベ人物デッサン

 同じクラスの地味子、名月さんとドスケベフレンドになってから一週間余りが経過した。


 母さんが名月さんに、俺の知らないところで合鍵を手渡していたらしい。そのせいで、名月さんは俺の部屋に侵入してきて、勝手に着替える、シコティッシュの捜索を始める等、色々暴走して、俺のプライベート空間は完全に消滅した。

 日に日にラッキースケベもエスカレートして、俺の心臓はいくつあっても持たない。


 とはいえ、砂漠のような性事情にオアシスを与えてくれた、名月さんは俺にとっては女神であることには変わりはない。


今日は丁度、二年生になって初めての選択教科の日だ。

 美術・書道・音楽の中から一つを選択する。

 俺が選択したのは美術。


 選んだ理由は一人で黙々と作業するイメージがあり、余り目立たなそうだから。なんとも負け犬根性が備わった、モブキャラの俺らしい。

 そのおかげで波風立たずに、ぼっちのまま一年間、美術の授業を乗り切った。


 だが、今年から、その状況が変わった。


「平谷君も美術だったのね。一年間同じだったはずなのに、気づかなかったわ」

「俺、空気だから。というか俺も名月さんが居るの知らなった……」

「私も空気みたいなものだからね」


 なんと、俺の唯一の友達(ドスケベ)である名月さんも一緒だったことが判明。

 というか、一年間気づかないなんて、お互い陰キャすぎるだろ。


 ということで、二人で美術室に向かう。

 ぼっちは気楽でいいが、知り合いがいる安心感もまたいいな。


「え~、皆さん、今年もよろしく。美術担当の吉永じゃ」


 目の前にいる白ひげを蓄えた初老の人が、去年同様美術を担当する吉永先生だ。

 温厚でマイペースなタイプの先生で、俺とは水が合う。だからこそ、美術の授業は好きだったりする。全然、得意ではないけれど。


「それでは、早速授業を始めるぞ。本日はデッサンじゃ。二人組を作って、相手をデッサンするのじゃ」


 心臓が止まるかと思った。


 『二人組作って』は、ぼっちにとっては死刑宣告と同義である。

 一年次は一度もこんなことが起こらなかったのに。吉永先生はぼっちの味方だと思っていたのに、二年になった途端、裏切られた。これが二年生の洗礼なのだろうか。

 いつもの癖でそのワードを聞いた瞬間、心臓が止まりかけたが、今回は違う。

 なぜならば、この場にはドスケベフレンドがいる。


 ……いや、待てよ。

 名月さんには他に知り合いがいて、その人とペアになってしまったら……。

 結局、俺はぼっちである。

 俺には名月さんしかペアになりえる人は居ないが、向こうはそうではないかもしれない。

 いくら、いつも一人でいる陰キャだとしても、俺みたいに友達が全くいないとは限らない。

 そんなことを考えていると、凄く寂しい気持ちになってきた。


「平谷君。ペアは決まったのかしら? もし、居なかったら私とペアになってくれないかしら?」


 女神は俺に微笑んでくれたらしい。

 名月さんが俺を誘ってくれた。

 こんなことで、嬉しくて思わず涙が零れそうになる。


「あ……ありがとう、名月さん……」

「どうして、ちょっと涙声なのよ……」

「誘われなかったらどうしよう、って。またぼっちになるの怖くて」


 ぼっちは楽な時もあるけど、やっぱり不安になることも大きい。

 やはり人間は孤独になると、生きていけないらしい。


「平谷君はめんどくさい彼女か何かなのかしら? しかし、私も平谷君が居て良かったわ。居なかったら詰んでいたわ」

「俺もだよ……」

「まさか美術の授業で呪いの言葉『はーい、二人組作ってー』が、あるなんて思わなかったわ」

「本当だよ。美術の授業だけは平和だと思ったのに……」


 俺たちが、そんなネガティブな会話をしていると、


「コホン。何か私のやり方に文句があるのかい?」


 背後から吉永先生の怒気を孕んだ声が聞こえてきた。


「「な、無いです……」」


 人物デッサン。


 美術の授業の定番といえるが、一年の時には案外、やっていなかったな。

 鉛筆を右手で持ち、スケッチブックを左腕で抱える。

 デッサンの対象は勿論、名月さんだ。


 最初こそ被写体に相応しく姿勢正しく座っていたが、次第におふざけが始まる。

 「ちょっと暑いわね」なんて言いながら(普通に涼しいけど)、ワイシャツの第二ボタンを開け始める。胸元が露出され、奥から谷間が覗いている。


「ちょ、ちょっと……名月さん! 書いている途中に態勢変えないでよ!」

「デッサンってなんかドスケベよね」

「聞いちゃいねえ」


 更に名月さんはエスカレートする。

 自分のデカパイを強調するように第二ボタンを開襟したまま前かがみになったり、ペロリと出した舌に人差し指を付けてみたり、ミニスカートのまま足を広げたり。


 デッサンというよりも、グラビアアイドルの撮影会みたいになっている。

 心頭滅却。これはただのデッサン。これはただのデッサン。

 そう心に言い聞かせるが、次々に繰り出される悩殺ポーズに、見事にノックアウトしたのだった。


「どうだった? デッサンは上手にできたかしら?」

「ごちそうさまでした」


 動き回るせいで、全くデッサンが上手くできなかったけど……。


「被写体は動かない!」

「きゃうっ」


 暴走した名月さんに、吉永先生は軽くチョップをされて咎められたようだ。

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