第19話 母親の取り調べ
一旦、濡れた制服を脱いで、部屋着に着替えた俺は、名月の風呂を待っている間、リビングにて母さんと対面していた。さながら、取調室の様相だ。
「さて、どこから聞こうかしらね」
「お、お手柔らかに……」
「まずは、おめでとう! まさか本当に彼女が出来るなんて、夢みたいよ……!」
「ど、どうも……」
母さんは嬉々とした目で俺の手を握ってくる。
嘘をついているのが、なんだか心苦しい。
「ねえ、いつ付き合ったの? 全然、分からなかったわ」
「いや、最近……」
とりあえず、ドスケベフレンドになった日と、付き合った日と置き換えよう。
そうすれば、大きな矛盾は起きないはず。
「へー、具体的には?」
「き、昨日……」
「き、きのう⁉」
「う、うん」
「付き合い立てほやほや……! なんて初々しいのかしら……!」
「は、はあ……」
なんだ、このおかしなテンションは……。
うちの母さんは大概変人だけど、ここまでテンションがおかしくなるのも珍しい。
……そんなに、俺が彼女出来るのが、ありえないことなのか?
実際問題、彼女出来ていないのだけれど。
「ということは、セックスはまだね」
「ぶはっ! だから母親が息子の前でセックスとか言うな!」
「キスはしたの?」
「しているわけないだろ! 昨日、付き合ったばかりだぞ!」
付き合っていないんですけどね。
「ふーん、奥手なのね、並介は。母さんなんて、大抵、付き合ったら一時間くらいでキスしちゃうわね。ちなみにセックスは三日くらいで」
「うわあああ! 母親の性事情なんて聞きたくねええええ!」
「……それで、どこで知り合ったのかしら?」
「図書委員で一緒になって」
「図書委員って、始めたの昨日からでしょ?」
「そ、そうかも……」
ヤバい……。
早速、矛盾が……。
これじゃあ、委員会活動初日にいきなり告白したヤバい奴になるじゃん……!
「そ、そうなんだけど……! 名月さんとは、その前からクラスでちょくちょく話していて」
ここは矛盾を解消するために、少しばかりの嘘を混ぜるしかない。
「そうなのね。デートは行ったのっかしら?」
「そ、それは……」
マズいぞ……。
これも慎重に答えないと……。
正直にデートに行っていないと答えるべきか、さっきみたく嘘を混ぜてデートに行ったと嘘をつくか。
「行ってないかな……」
迷った挙句、前者に。
後者だと「どこに行ったの?」とか深掘りされて、答えられなくなってしまうのが目に見えてしまうからな。
「えっ、行っていないの? それで、付き合うなんてあるのね……」
「さ、最近の若い子はデートか行かないんじゃないかな……」
すみません、適当なこと言っています。
流石に今の若者もデートすると思われます。
彼女いない歴=年齢のモブキャラだから分からないけど。
「そうなのね。進んでいるわね。しっかし、あんなに可愛い子が、並介の彼女だなんてねえ」
「ははは」
「おっぱいとお尻、大きいし、安産型ね。良い子が生まれると思うわ。母さんにも孫が出来るのね。なんだか感慨深いわぁ」
「ぶほわっ! ななな、何言っているんだ、母さん……!」
「だって、付き合っているのでしょ? そのまま順調に付き合い続ければ、いずれするわよね…………子作り」
「はああああああ! 何言っちゃっているの⁉」
俺と名月さんが……子作り?
た、種付け……。名月さんに……。
うわあ!
なんて最悪なドスケベな妄想しているんだ、俺は……!
つーか、息子に向かって子作りするとか、頭湧いているのかよ、この母親。
「あ、良いこと考えたわ!」
「な、なんだよ、今度は……」
「今日、これからセックスすればいいじゃない! そうよ、その作戦があったわ!」
「発想がヤバすぎる……! どういう思考回路すれば、息子を今日セックスさせるという考えに辿り着くんだよ!」
「あっ、今はまだ高校生だから、ちゃんと避妊はするのよ。というか、ゴム、持っているの? あなたのことだからどうせ用意していないのでしょ。仕方ないわね、これからゴム買ってくるから、待っていなさい」
「あああああああ‼ 話、飛躍しすぎだろ! つーか、息子のセックスのためにゴム買いに行く母親とか、どうなっているんだよ!」
もうダメだ、この母親と話していると、俺まで頭がおかしくなってくる。
まあ、この母親だからこその、この俺が生まれたということはあるけれども……。
「とりあえず、今日は祝杯よ。予め言ってくれれば、もっと豪勢にできたのに。これから用意するから待っていなさい」
「別にそこまでしなくていいのに。まあ、でも、ありがとう」
「夏輝ちゃんがお風呂から上がったら、言っておくから。あなたは部屋で待っていなさい」
「分かった」
ということで、名月さんは俺の家で夕飯を食べることに。
いつの間にか、相当凄いことになっている気がするが。
「しっかし、この現実にまだ頭が追い付いていないな」
自分の部屋に戻って、ようやく一人になって俺は、冷静になって今の状況を考える。
実質、名月さんとドスケベフレンドになった初日というわけだが。
放課後、彼女と一緒に帰り、コンビニ行って、ボーリングに行って、相合傘して、今、俺の家にいる。
しかも、どのイベントでも、名月さんが俺の操縦桿を握りながら、極上のドスケベを堪能できた。
名月夏輝……今日ではっきりわかった。
あの人は、とんでもないドスケベの怪物だ。
当然嬉しいが、逆に心配になるほどだ。
こんなことをやって、彼女はちゃんとした恋愛が出来るのだろうか?
もし名月さんにちゃんとした彼氏が出来て、過去にこんなことがあったことが判明したら、どうなってしまうのだろうか?
自分の欲を優先してあんな契約をしてしまったが、彼女の人生に大きな傷を付けているのではなかろうか?
そう考えると、申し訳なくなってきたが。
いやいやいや。彼女から提案してきたんだ。
俺がそんなことを考えてどうする。
今はこの契約を何も考えずに堪能しよう。
全力でドスケベを楽しむことが、彼女のためでもある。
――トントントン。
不意に、扉がノックされた。
おそらく夕食が出来て、母さんが呼びに来たのだろう。
「今行く」
あれ、普段、母さんって俺の部屋をノックするっけ?
そんな一抹の疑問を抱えながら、扉を開ける。
「夕飯出来たの? かあさ――」
俺はフリーズしてしまった。
なぜなら、目の前に、“天使”が立っていたからだ。




