第15話 放課後ボーリング!
「ボーリングでも行かない?」
名月さんは唐突に、そんな提案をしてきた。
ボーリングか。
確かに、この近くにボーリング場がある。
しかし、地元ではないはずなのに、どうして彼女はそんな情報を知っているのだろうか?
「ボーリング場がこの近くにあるの、どうして知っているんだ?」
「さっき、調べたのよ」
「調べたって。あー、電車の時か」
電車で座っている時、名月さんは難しい顔でスマホを眺めていた。
遊ぶ場所を調べてくれていたのか……!
「そうよ。平谷君とたっくさん遊びたくって♡」
「たくさん……遊ぶ⁉」
「そうよ。平谷君とたくさん遊びたいの」
「俺と……そんなに、遊びたいの⁉」
「ええ」
そんな含みのあることを言わないでほしい。
チョロ陰キャなんだから、俺に好意があるって勘違いしちゃうだろ……!
「ふへへ」
ほら、童貞陰キャが思わずキモい顔でにやけてしまったではないか。
ああ、学園生活って、こんなに楽しいんだな。
俺たちの場合、生活の生の字が性になりそうだけど。
「やったわ! ストライクよ!」
ボーリング場にやってきた俺たち。
まさか一投目で、ストライクが見られるとは。
フォームが綺麗だし、名月さんって運動神経良いんだな……。
偏見で失礼だが、この見た目で、運動が得意なんて意外だ。
「すげえ……!」
「平谷君、イエーイ」
「イエーイ」
陽キャがやるように、ハイタッチを交わす。
手と手が一瞬触れる、この儚いドスケベもまた良き。
……つーか、普通に女子と放課後、こうして一緒に遊ぶとか夢みたいだな。
しかも、名月さんみたいな可愛くてドスケベな女子と、なんて。
「これはこれで良いわね」と名月さんが自分の手を眺めながら、独り言を呟いている。
どうやら彼女も俺と概ね同じことを考えているようだ。
もしかしたら、名月さんはハイタッチで自然な接触できることを見越して、ボーリングをチョイスしたのか……?
だとしたら……、天才はいる、悔しいが。
「次は平谷君の番ね。平谷君はボーリング、やったことあるの?」
「いや、ほぼない」
正直、ボーリングなんて昔、家族と行ったくらいなんだよなあ。
さっき適当に選んだボーリングの球を持つ。……ボーリングの球ってめちゃくちゃ重いな。
帰宅部のヒョロ陰キャが扱えるレベルを超過している気がする。
重たいボールを何とか持ち、よろけながらも、何とか見よう見まねで投げる態勢を整える。
「平谷君、頑張って~」
首だけ動かして振り返ると、待機スペースで口に両手を当て、一生懸命声援を送る名月さんの姿が。
……な、なんか彼女みたいだな。
というか、ドスケベな部分を除けば、シンプルに可愛くて性格も良い、超優良物件の女の子だよなあ。
って、何を考えているんだ、俺は!
名月さんとは、そういう関係じゃないから!
「えいっ」
一心不乱に球を投じる。
だが、球は大きく右にそれガーターになった。
余りにもダサすぎる……。
普通だったら、ここで名月さんに続きストライクを取るものだと思うけど。
残念、俺は何の取り柄も無いモブキャラ。
この結果が、妥当なのである。
二投目は辛うじて真っすぐに転がったものの、ヒョロヒョロの腕から投じられた球の威力が余りに貧弱で、6ピンしか倒れなかった。
モブ陰キャに相応しい、何とも言い難い結果である。
「かっこ付かないなあ」
「ほとんどやったことないにしては上出来よ」
「ちなみに、名月さんはボーリングよくやるの? 凄く上手かったけど」
「私もほとんどやったことないわ。小学生の時、親に連れて行ってもらったくらい」
「俺と同じなのか……」
なんで経験値は同じなのに、ここまで差がつくのですかねえ……。
神様はいつだって不公平だ。
「しっかし、ボーリングってドスケベよね」
またこの人は、凄いことを言い始めたぞ……。
これが彼女の平常運転なのだから、恐ろしいところだけど。
とりあえず、訊いておこう。
彼女の有り余るドスケベを受け止められるのは、俺だけだからな。
「その心は?」
「だって考えてごらんなさい。まず、ピン。ピンってピンと立っているからピンって名前なのよね。アレを想起させる、何ともドスケベなネーミングじゃない?」
「た、確かに」
「それに球よ。しかも、でっかくて大きい球」
「ピンに球、ボーリングってまさかアレを暗喩した競技なのか……⁉」
「平谷君とボーリング、楽しいわね♡」
「お、おう……」
急にボーリングというワードがいやらしく聞こえてきた。
全国のボーリングファンの皆様、ごめんなさい。




