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第12話 私と付き合ってほしいの

 満員電車に揺れる中、名月さんは凄いことを言いだした。


「満員電車ってドスケベよね。痴漢モノの定番」

「満員電車ってだけで、そこまで考えているきみの発想が怖い……」

「不特定多数の人間がありえない密度で集まっている。各々の欲望のリミッターが暴発する禁欲の空間。ああ、ドスケベね」

「名月さんを見ていると、ドスケベを名乗っていた俺が恥ずかしい……」

「しかし、流石は電車ね。揺れがひどいわ」


 名月さんは電車内でゆらゆらし始める。

 ……だが、おかしい。

 車内は別にそこまで揺れていない。

 車内を見渡しても、揺れている人は皆無だ。

 名月さん、一人だけが豪快に揺れている。


「あのー、名月さん。余り揺れていないんですが、それは」

「私の一部分を見なさい。凄く揺れているわよ」


 確かに、名月さんのある部位が物凄く揺れている。


「あ、ああ……。んあ!」


 名月さんは俺に向けて圧し掛かり、その柔らかな部位が俺の身体にクリーンヒット。

 そのまま電車の閉まっている扉と板挟みになり、俺はその未知なる部位に押しつぶされそうになる。

 柔らかいが、確かに弾力がある、そんな魅惑的な部位が俺を押し込みに図る。

 さっき言っていた別の目的ってこれのことか~~~!




「ん……あ♡ 私の身体が男の人の身体に密着してる……ん♡」


 耳元に囁くように聞こえる名月さんの声は、興奮しているように上擦っている。


 ……ここでも、ワザとラッキースケベを仕掛けてくるのか。

 はっきり言って犯罪スレスレのわいせつ行為であるが、身体は悦楽に満たされ、俺の股間がフィーバータイムに入った。

 フィーバータイムを起こしすぎて、太く伸びた股間が名月さんの太ももあたりに触れた。

 その異変に名月さんがいち早く気付いた。


「あれ? あれあれあれ? 平谷君の強く逞しい獣が成長を遂げているわ。欲望のままに雌という名の獲物を食い散らかそうとしているのね」

「はい……もう暴発しちゃいそうです……!」

「ダメよ……ここ電車なんだから♡」


 艶めかしい声で囁く名月さん。

 そんな声で囁かれたら……。


「ヤ、ヤバい……もう無理かも……」


『次は~~、次は~~です』


 アナウンスされたのは、俺の最寄り駅。

 駅につき、扉が開き、逃げるようにホームに降りた。

 たたた、助かったああああああああ! 

 なんとか、一命をとりとめた。

 もし、あのまま暴発しちゃったら、電車を出禁になるところだった。


「じゃ、じゃあね、名月さん」

「ええ、また明日」


 電車が停車しドアが開くと同時に席を立ち駅に降りる。

 しかし、電車に乗っている間の僅かな時間だったとはいえ、濃厚なドスケベ体験が出来た。

 今日はこれをオカズにして、何発イケるだろうか……?


 そんなことを考えていると、


「さて、どこに行きましょうか?」


 なぜか俺の隣には、名月さんが居た。

 いやいや……完全に別れる流れだったじゃん。


「あれ? 名月さんもこの駅が最寄りなの?」

「いいえ、違うわ」

「だよなあ。じゃあ、どうして?」

「平谷君に話があるの」

「話って……?」

「私と付き合ってほしいの」

「ぶほっ!」


 思わず吹き出してしまったじゃねえか!

 つ、つ、つ、つ、付き合う⁉

 それってつまり俺と名月さんが交際するってことぉ⁉


 いや、待て待て待て、ありえるか。

 ドスケベフレンドを自ら所望したということは、少なからず俺に心を赦しているというわけで。

 それは俺に対する好意とも取れるわけで。

 でも、まだ、名月さんのことを良く知らないし。

 しかし、俺と気が合う(主にドスケベな部分で)のも確かだし……。


「どうなのよ?」


 名月さんがぐいっと顔を近づけてくる。

 ドスケベすぎるだろ。

 ……というか、普通に可愛い。

 どうすればいいんだ、俺!


「いや、ちょちょちょ待ってくれ。気持ちは嬉しいけど、突然すぎて心の準備が……」

「それで、どうなのよ? 今日暇だから付き合ってくれるの?」

「ほへ?」


 ようやく俺は我を取り戻した。

 俺が犯してしまった勘違いに、恥ずかしすぎるが余り反射的に顔を覆ってしまった。


 もう嫌だ……お嫁に行けない……。

 名月さんはぷくくと、口を抑え、笑いをこらえている。


 ワザとやったな……!

 まあ、こんな明け透けなトラップに引っかかる俺サイドにも問題があるが。


「これ、一度やってみたかったのよ。ワザと主語を伏せて『付き合って』とだけ言って、男の子を勘違いさせるシチュエーション。流石の平谷君でもひっかからないと思ったけれど、まさかここまでしっかり引っかかってくれるなんて思いもしなかったわ」

「やられた……!」

「『気持ちは嬉しいけど、突然すぎて心の準備が』だって、おかしいわ」 


 珍しく名月さんがゲラゲラと笑っている。

 腹立たしいことこの上ないが、まあ彼女が笑ってくれるならそれでいいか。


「それで、どこに行きたいんだ?」

「ふーん。小腹が空いたからコンビニでも行かないかしら?」

「いいよ」

「ここら辺に『ビッグマート』はあるかしら?」

「コンビニを指定するなんて珍しいな。ポイントカードでも持っているの?」

「そういうのではなくて、私の大好物があるのよ」

「大好物……?」


 コンビニ飯が大好物だなんて珍しいな。


「確かこっちにあったはず」


 名月さんのリクエストに応えるべく、『ビッグマート』に連れて行った。


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