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秋に咲く華  作者: 風花月
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9/24

久しぶりの晩餐

 馬車が止まった。


 扉が開くやいなや、父が飛び出してきた。


「ウィレイ!!お帰り!!」

「ただいま戻りました、お父様」


 父は、娘をギュッと抱きしめた。


 お父様、お髭が痛いですわ。


「どうして一度も便りを寄越さないんだ」

「申し訳ありません。毎日本当に忙しくて」


 見つからないように送るのも手間なんですよ。


「そうか……」


 父の目からは大量の涙が出ている。

 やれやれ。


 母が、キョロキョロと辺りを見回した。

「ときに旦那様。オルフェはどうしたのですか?」

「はっっ!!しまった!!置いてきた!!」

「あなた……」


 母は呆れ顔である。

 全く、"鬼"侯爵って、誰のことかしら……


「いかん、リューク!すまぬが、オルフェを迎えに行ってくれ」

「かしこまりました」


 リュークが馬車に乗って馬の方向を変えた。

 鞭を入れようとしたそのとき、バサバサと羽の音が聞こえてきた。

「「オルフェ!」」


 オルフェが、天馬単騎で降りてきた。


「全く、父上ったら酷いのだから。置いていかないでくださいよ、もう」


 軽やかに降り立つと、オルフェは髪と服を直した。

「お帰り、ウィレイ」

「ただいま戻りました、お兄様」


 ウィレイは微笑んだ。

 久しぶりの兄だが、変わらない。


「ん?変わらないのは、お前もだろう」

「少しは大人になりましてよ」

「そうか?見た目は全く変わらないが」

「くっ」


(この残念兄め)


 悪態は腹の底に収めて、ウィレイは笑顔を作った。


「そういえば、お兄様はもうご婚約なさいましたの?」

「……嫌な奴め。まだでございますよ」

「あら、どうしてでしょう?こんなに男前なのに」

「この男前がわかる女性となかなか出会わないからですよ、ご令嬢」

「まあ、大変ですわね」

「はい、そこまで」


 父が割って入った。


「さあ、久しぶりの再会なのに、のっけから喧嘩するんじゃない。リューク、馬車をしまってきてくれ。それから、サイモン、晩餐の準備を」

「「かしこまりました」」

「さ、まずは中に入ろう」

「「はい」」


 戦いは、一時休止となった。


「晩餐の準備が整いました」


 カルラが迎えにきた。


「うむ」


 皆でサロンを出ると、食堂へ向かった。


 久々の食堂は、煌びやかに飾られていた。

 クリスタルの大シャンデリア、金の燭台。燭台の飾りには、クリスタルの細工物。シャラシャラと揺れて、光を散らしている。卓上の花は、薔薇とラナンキュラスを主としたゴージャスなアレンジである。手元のナプキンには、金の枝にガラス細工の花があしらわれている。テーブルクロスは、白絹地に金のオベリスク模様の刺繍がなされたもの。食前酒のグラスは、繊細な葡萄の立体細工に色が施されたものである。中には、貴腐ワインだろうか……とろみのある黄金色の液体が見えている。


「まあ、綺麗」

 母が微笑んだ。

「ウィレイの帰宅祝いですからね」

「ありがとうございます」


 やがて、父が上座についた。皆が座り始めた。

 それぞれ定位置につくと、晩餐の始まりである。


 前菜は、野菜のジュレカクテルと自家製生ハムの焼き栗添え。小蕪とパプリカのマリネ。それから、人参ムースと甘エビに岩塩ジュレである。

「嬉しい、私の好物ばかり」

 父は、にこにこと頷いている。

 母も、もちろんとでも言いたげに微笑んでいる。


 久しぶりの人参ムースは、口の中で蕩けた。人参の甘味に岩塩ジュレの塩味がたまらない。生ハムでくるまれた栗の焼き加減も、絶妙である。


「美味しい……!」


 カルラが嬉しそうに見ている。


 スープが運ばれてきた。

 マッシュルームとソラマメのポタージュである。フライドオニオンがのっている。

「バターのこくがいいねぇ」

 兄も嬉しそうだ。さすがはコッテリ派。


 いよいよメイン。

 子羊の香草焼きに、キッシュが添えられている。


(キッシュ、キノコがたくさん入ってるわ)


 感無量である。


「お嬢様、メインディッシュですが、魚料理はどうなさいますか?」

「そうね……」

 さすがに入らない気がする。


「やめておくわ。ありがとう」

「私はもらおう」

「私も」


 父と兄は、まだ入るらしい。これまたさすがである。


「デザートは、皆様お揃いになってからになさいますか」

「そうね。そうしてくださいな」

「かしこまりました」


 それまでは、ちびちびとワインを飲んでいよう。


「よろしければ、ナッツをお持ちしますか」

「ええ、お願い」


 その後、ナッツというか、ナッツもありの軽いおつまみが運ばれてきた。魚のメインと共に。


 小さなクラッカーに、ハチミツをかけたヤギのチーズ。厚切りベーコンの表面をカリッと焼いたものを賽の目に切ったものにドライフルーツをピンで止めた、カラフルなピンチョス。ナッツは塩味のものとキャラメリゼしたものを。そして、フムスにレモン。皆、一口サイズなのが何とも素敵である。


「お魚、美味しそうですわね」

「食べるか?」

「いえ」


 白身魚の上に、卵白のようなものがのっている。ふわふわしている。ソースは何やら爽やかな匂いがする。


「美味いな、このソースは」

「ですね」

「何のソースですか?」


 ウィレイが尋ねた。

「お嬢様がいらした下つ国の『味噌』とやらを使っておるそうです。白ワインのアルコールを飛ばし、それを使ってのばしたとのことです」

「味噌!それは美味しいでしょうね」

「ああ」


 ピンチョスを喰みながら、ワインを飲んだ。父と兄のメインディッシュが終わるのを、母と二人待っていた。


 と、ようやく、デザートが運ばれてきた。

 何故か照明が暗くなった。


「あら?」


 母が微笑んだ。

「見てらっしゃいな」

「はい」


 サイモンが、ワゴンを引いてきた。

 ワゴンに載せられた皿には、クレープらしきものと桃らしきものがある。そのわきに、瓶が一本。


(瓶……?)


「失礼します」


 サイモンが、瓶の蓋を開けて皿にかけた。そして、火をつけたのである。


 ボウッと炎が上がる。


 炎が静まったあと、アイスが載せられた。


「美味しそう!」

「さあ、召し上がれ」

「はい」


 フランベされた桃が、とても香り高く美味しい。


「幸せです」

「良かった、喜んでもらえて」

「はい。ありがとうございます。デリクにも御礼を言わないと」

「そうね。腕によりをかけて作ってくれたのですものね」

「はい」


 うちの料理長、最高です。


 晩餐の後、またサロンに移って食後のお茶を飲んだ。男性陣は、蒸留酒を持ち込んでいる。


「いや、改めて、お帰りウィレイ。2年間、得たものはあるかい?」

「はい、お父様。ここにいては経験できないことを、たくさん経験することができました」

「そうか」


 父は、酒を一口飲むと、大きくため息をついた。


「いよいよ、即位の準備が始まるのだな」

「そうね」

 母が頷いた。


「ウィレイ、何日か休んだら、夜の種まきを手伝ってね。そろそろ慣れていくようですから」

「はい、お母様」

「種まき用のドレスはあるかい?」

「もちろん準備してますわ」


 夜の種まき。

 それは、秋の御方の仕事の一つである。


 星の道を通って、夜の地域に実りを促す"種"を蒔いて歩くのである。春から夏にかけての仕事だ。そしてそれは、「夜」の間にする作業なのである。秋を司る御方ではあるものの、実際秋になる前に一仕事やらねばならないのだ。


 ウィレイは、夜の種まきが好きであった。

 光の粉を撒いたような星の道を見ながら、種を蒔いて歩く。その星空のような、ドレスを身に纏って。


 中つ国が豊かに実ることは、下つ国の作物にも影響がある。中つ国で実りが悪いと、下つ国ではもっと悪くなるのである。上つ国には、さほど影響はないのだが。

 何とも不思議な世界の流れに、いつも疑問が湧くウィレイであった。

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