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秋に咲く華  作者: 風花月
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8/24

帰還

 周りの光が、薄らいできた。


 足元に、ふわっとした感触がある。

 久々の、我が家だ。


 しゅるしゅると消えていく光。やがて、ウィレイの目に、懐かしの庭が見えてきた。


「おかえり、ウィレイ」

「ただいま帰りました、お母様」


 そう言うと、荷物を置いて母の胸に飛び込んだ。


「あらあら、レディが何をしているの?」


 うふふ、と母が笑う。そう言いながら、頭を撫でているのは誰かしら?


「お母様こそ」


 久しぶりの、母の香り。

 花のような、甘く優しい香りだ。


「さ、皆貴女を待っていますよ。中に入りましょう」

「お父様は?」

「残念ながら、王宮に。急ぎのお仕事とかで呼ばれて行ったわ。べそかきながら」

「まあ」


 人前では峻厳な父。子に甘々とは、誰も思わないだろう。


「お茶にしましょう」

「はい」


 ガゼボを出ると、家の皆が待っていた。


「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」


「ただいま戻りました」

「お変わりないようですね」

「カルラ!」


 カルラの姿を見ると、ウィレイは駆け寄って抱きついた。

「あらあら、お嬢様。レディはそんなことしませんよ」

「カルラまで『レディは』なんて。ひどいわ」

 ふふっとカルラは笑った。

「本当に変わりませんね」

「ひどーい!少しは大人になってます!」

「どれくらいなられたか、拝見しましょうね」

「ん、もう!」


 他の皆に挨拶をしながら、中へ入った。


「ふぅ」


 サロンのお気に入りだった椅子に座ると、帰ってきたのだとしみじみ感じた。


「紅茶になさいますか?それとも、コーヒーかハーブティーになさいますか?」

「そうね、久しぶりだからハーブティーをお願いするわ」

「かしこまりました」


 コポコポとやわらかい音が聞こえてくる。

 優しい香りが、辺りを包む。


「失礼します」


 目の前に置かれた、ティーカップ。ウィレイはそっと持ち上げ、香りを楽しんだ。

「いい香り」

「ありがとうございます」


 一口、ゆっくりと味わって飲む。

 体中に良い香りが染み渡る気がする。


「ずいぶんと香り高いカモミールね」

 カルラが微笑んだ。

「はい。ちょうど今咲いたのです」

「初物ね」

「そうですね」

「ラベンダーは?」

「去年のものですが、真空保存しておりましたので、香りはそのまま残っているかと」

「なるほど……確かに。あとは何をブレンドしてるの?」

「そうですね……エルダーフラワーと、レモンバームです。あと、ほんの少しオレンジを」

「安らぐわ、ホントに……ありがとう」

「お気に召していただけましたか」

「ええ」

「良かったです」


 ウィレイは、ゆっくりと味わいながら飲み干した。

「もう一杯お願い」

「かしこまりました」


 母が微笑んだ。

「気に入ったのね」

「はい」

「もう少し何か足す?」

「いいえ、これで充分ですわ」

「そう」


 母も、ゆっくりと飲んでいた。


「下つ国は、どうだったの?」

 母が尋ねてきた。


「そうですね……おもしろいところではありましたよ。多くの人が、自分の欲を優先させようとしておりました」

「欲を」

「はい」


 ウィレイは、カップを置いた。


「何というか……声高に言った者勝ちみたいな感じでした。それがぶつかり合って、揉めるというか。真っ当な人が少数派なのです」

「まぁ」

「よく、崩壊しないものだと思いました。少数派ではありますが、真っ当な人たちの存在のおかげで保っているのでしょう」

「ずいぶんね」

「そうです。こちらとは全く違います」

「何かためになることは見つけられたの?」

「はい。『反面教師』という言葉を学びました。駄目なものを見て、そうならないようにする、という」

「何とも残念な学びね」

「全くです。でも、真っ当な方々とも出会えました。それは、財産であると思います」

「そうね。それを糧とできるのは良いことね」

「はい」


 そうだ。こちらにいると、そういう人がほとんどだが、下つ国は逆であった。ただ、逆だからこそ、さらに価値が高い気がした。


「こちらでは、変わったことはありました?」

「そうねぇ……」

 母は、顔に手を当てた。

「オルフェのお嫁さん選びが難航していることこしら。あと、北部州で冬の御方が決まったことかしらね」

「冬の御方。どなたになったのですか?」

「ヒーベルネイト家のお嬢様よ。一昨月に生まれた、ブランシュ様とおっしゃる」

「あら……私はてっきり、グラキエス家のアンジュリー様かと思ってましたわ」

 母は、ああという顔をした。

「アンジュリー様ね……途中まではその予定であったそうだけど」

「何かありましたか?」

「ええ……その……どなたに似たのか、我が強くて。これでは公平に物事を進められないと判断されたようよ」

「なるほど」

「ま、上の判断ですからね。私たちは従うだけです」

「そうですね」


 いろいろ思うところはあるけれど、ま、いいか。


 ノックの音が聞こえた。


「はい」

「失礼します」

「どうしたの?」

「旦那様がもう少ししたら戻られるとのことです。先触れが参りました」

「わかったわ」


 ウィレイは立ち上がった。

「お迎えに出ますわ、私」

「ええ。お父様もお喜びになるわ」


 ウィレイはサロンを出ると、玄関へと向かった。

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