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旅立ち
「忘れ物はない?」
下つ国での母が言った。
「うん。大丈夫かな」
部屋の中は、空っぽになった。
母には見えないだろうが、術式が施されている。
「じゃ、行くね」
「体に気をつけてね」
「うん。お母さんも」
「ええ」
優しい母だった。父も、祖母も、弟も。
良い家族だった。
2年間の御礼として、この家の繁栄を贈ろう。
色んな意味で、豊かな生活を。
さあ、"家族ごっこ"は、終わりだ。
両手で玉を包むように、魔力を丸める。
次第に光を増すそれを、そっと整えながら、ゆっくり部屋の中央に敷いた術式の上に下ろす。
光を飲み込んだ術式は、じわじわと広がり始め、やがて一気に周囲を囲んだ。
(さよなら、下つ国の皆さん)
出会った人たちの顔が、浮かんでは消えていく。
舞は、ウィレイに戻るのだ。
ウィレイとしての日々が、また、始まる。
光に包まれ薄くなっていく姿を、じっと見つめていた。
やがて、顔を包まれると、光の流れに身を任せた。




