↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋に咲く華  作者: 風花月
PR
6/24

浅き春に

「……本当にありがとうございました!」


 拍手が鳴り響く。


 送別会の挨拶が、終わった。

 

 席に戻ると、同僚が早速お酌に寄ってきた。

「寂しくなるよー」

「私もです」


 優しい人が多かったなぁと思う。中規模校なのでそれなりに働かない人もいたけれど、多くは馬車馬のように働く人たちだった。


「住む場所決まったの?」

「はい。この前、アパート決めてきました。28日に空くそうなので、30日あたりに入ろうと思ってました」


 真っ赤な嘘である。


(そのあたりに、記憶の操作をお願いしよう)


 持ち帰る物の準備は整った。

 あとは、少しずつ術を組み立てて、発動するだけとしなければ。


「寂しくなりますね」


 同じく転勤者の席にいる洋樹先生が呟いた。


「それは、ケンカ相手がいなくなるから?」

「いえ」


 真顔でそう言うと、ジョッキをカプカプ飲んだ。


「日本酒、ください」


「大丈夫?ちゃんぽんすると悪酔いするよ。まあ最後だからだけど……」

「いいんです。酔いたいので」

「何でまた」

「……いいじゃないですか、酔いたいんですよ」

「わかった」


 そう言うと、彼は一気にジョッキを飲み干した。


「飲むねぇ」

「そうですか?」

「でも、強いからね」

「そんなでもないですよ」

「そうかなぁ」

「それより、飲んでないんじゃないですか?飲んでくださいよ。ほらほら」

「自分のペースで飲ませてよ」

「いや、飲みましょうよ」

「アルハラだ!」

「違います。気遣いです」

「いやいやいや、強要してるじゃん」

「日本酒きましたよ。飲みましょう」

「あぁ……」


 何があったんだろう。いつもの冷静な彼じゃない。さすがに別れは寂しいのかな……


 ふぅ……と一息つくと、舞は日本酒を飲んだ。


「あの」

「なぁに?」

「美味しいですか」

「うん。辛めでスッキリしてるね。美味しい」

「良かったです」


 よくわからない絡み方だな。ま、いいか。


 それからしばらくは、お酒を注ぎに来た人たちと話していた。


(少し酔ってきたな)


 舞は顔にグラスを当てて冷やした。

 隣の洋樹先生は、珍しく顔を赤くしている。

「大丈夫?」

「酔ってきむした」

「『きました』でしょ。舌回ってないよ」

「きむしたです」

「臍曲がり」


 全く、最後まで臍曲がりなんだから。


 だが、このやりとりも、もう少しでしなくなる日がくる。それは……今まで考えることを避けてきたが、寂しくなるだろう。


「二次会はどうするの?」

「舞先生はどうするんですか?」

「行くわよ」

「じゃあ行きます」

「私で決めるの?」


 おちょくったつもりだった。


「はい」


 真顔で返された。


「…………」


 しまった、言葉が紡げない。


「普通、そう言われたら何か返してきませんか」

「何それ。強制?」

「いえ。常識的に」

「いやいやいや、求めないでしょ普通」

「返しますよ普通」

「おかしいって」

「コミュニケーションの常識です」

「意味わかんない」

「国語の先生なのに?」

「数学の先生は、無理くり答えを出したがるんだね」

「教科は関係ないです」

「ちょっと、自分が言い出したんじゃない!」


 また試合開始のゴングが鳴った。


「また始めたよ、この二人」

「何で洋樹先生は絡みたがるんだろうね」

「そりゃあ」

「「「好きなんでしょ」」」


 あちらで、こちらを見ながら笑っている。

 ネタにされている気がする。

 舞は、ぐいっと酒を飲み干した。


           ✴︎


 二次会は、スナックだった。

 名残りを惜しむ人たちと一緒に、歌ったり笑ったりしていた。

 何故かまた、洋樹先生が隣にいる。

 

(何で隣にくるかな)


 これ以上やりとりをすると、離れがたくなる……きっと。


 「舞」としてはいいかもしれない。しかし、「ウィレイ」としては、駄目だ。

 ウィレイは、中つ国に帰るのだ。

 あちらで、秋の御方の配偶者として相応しいという人を当てがわれる。それなりの家から。


「舞先生、歌ってください」


 後輩が勝手にリクエスト曲を入れ、マイクを渡してきた。

「はいよ」


 独女の設定で「先輩」顔をしているが、彼女たちの方が実は年上である。


 歌唱力の必要なアーティストの歌を歌い切ると、隣の洋樹先生は、舟を漕ぎ始めていた。


「大丈夫?ほら、水飲んで」

「あーあ、珍しく酔ってるねぇ」


 いつもの憎まれ口を発揮せず、半目でゆらゆら揺れている。

(仕方ない、送るか)


「ほら、起きるよ。送るから」

 

 こくん、と頷いた。そして、財布を出そうとした。


「今日は、要らないっすよ」


 若者が言った。


「送別会ですから」

「でも」

「いや、またいつか一緒に飲んでください」

「……うん。わかった。ありがとう」


 舞は頭を下げた。「いつか」は、来ない。


「じゃあ、お先に失礼します」

「お疲れ様でした!」

「ありがとうございました!」

「また今度!」

「はーい」


 自分より30cmはでかい男を支えながら、舞は店を出た。


(やれやれ)


 タクシーを拾い、洋樹先生の家に向かう。


(お家の方、起きてるといいなぁ……)


 玄関先にタクシーをつけると、中から母親らしき人が出てきた。


「あらあら、申し訳ありません。ご迷惑をおかけしてしまって」


 頭を下げ、しきりに恐縮している。


「いえいえ。送別会ですもの。さすがに、別れるのが寂しかったようです。いつもよりハイペースで飲んでらしたので」

「そうですか……ありがとうございます。お父さん!洋樹を運んでちょうだい!」


 奥から父親が出てきた。

「珍しいな、こんなになるなんて」

「そうね。でも、飲んでもいいけど、いい大人なんだから、人様にご迷惑をおかけしないようにしないと」

「そうだな……ありがとうございました」


 また、頭を下げられた。

 何て礼儀正しい御両親だこと。


「いえ。では、失礼します」


 舞も頭を下げると、タクシーに戻った。

 

 窓ガラスに映る自分の顔を見ながら、自分の「家」に帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。