帰国に向けて
時の経つのは早い。
ウィレイが「舞」として下つ国に降り立ってから、間もなく2年を迎えようとしていた。
毎日仕事に明け暮れてはいたが、それなりに下つ国の世状については知識を得ていた。
中つ国から「下」と呼ばれる理由も、何とはなしに理解できたように感じられた。
この国……この世界は、人間の欲望に満ちている。そこから脱却できないから「下」なのだろう。
隙あらば、人の足を引っ張る。
義務より権利を主張する。
自分の利益を優先する。
心ある人も多くいるのに、そうでない者たちの声高な主張が罷り通る。「言った者勝ち」である。
真っ当な少数派があるからこそ、辛うじて崩壊を免れているのだろう。さもなくば、いつ世界規模の戦争が起きて自滅してもおかしくないのだ。
(でもそれは)
ウィレイは知っている。中つ国であっても、自益を優先する輩は存在しているのである。ただ、中つ国では、そういった人は限りなく少数派であり、多数派の真っ当な人たちによって淘汰されていくのだ。
上つ国では、そういった「負」の要素は全く存在しない。だからこそ、ウィレイは下に降りることを望んだ。ぬるま湯に浸かっていては、自国の綻びを見極めることができないからである。
間もなく、中つ国に戻る日がくる。
身を粉にして働く世界から、秋を司る仕事へとシフトチェンジするのだ。
戻ったなら、中つ国の市井に紛れてみよう。
何が不足しているのか。
何を必要とするのか。
削るべきものは何か。
考えることは、為すべきことは、中つ国でも山ほどある。
(とりあえず、私の領地の管理からだな……)
今は両親が代行してくれている。
「秋の御方」として、実り豊かな地とし、中つ国を豊穣の地とせねばならない。
「ま、なるようになるか。『ケセラセラ』だよね」
とりあえずは、帰る算段をしよう。
仕事は、「転勤する」ということにして、引っ越す日に皆の記憶から消えよう。心残りは……たぶんない。
「私は、秋の御方だもの」
自分の思いは、優先してはならない。
僅かな時間、僅かなやりとりが、あった。
ただそれだけで、いい。
「さ、何を持ち帰るかな。とりあえず、本を選ぶか」
ウィレイは、「自分の部屋」としたところの本棚に向かった。




