王家の失態
(やってしまった……)
王・アレクサンドルは、頭を抱えて崩れ落ちた。
「陛下……」
レスター卿が駆け寄った。
「申し訳ございません。私の至らなさで……」
「いや、私の甘さが招いたことだ。この甘さ故、王妃の教育も舵取りできなんだ……」
ウィンザー卿が口を開いた。
「陛下。これからどうなさるおつもりですか」
アレクサンドルは、頭を抱えたまま言った。
「どうもできん。……恐らく、上つ国の皇家の方々から更迭されるであろう。良くて蟄居、悪ければ下つ国送りだな」
「そんな……!」
「いや、この国の王としての驕りが引き起こした状況だ。王妃によくよく言って聞かせておくべきだったのだ……第三王子の申し入れをしたいと言ったときに。たかだか『御方』ではないのだ、と。そして、マーロン師がただの魔術師ではないことも」
「恐れながら、陛下。それでも王妃様はお聞き入れなさらないかと」
「そうかもな。気位の高い女だからな。……せめて、皇太子に王位を継がせたいが、それも厳しかろう」
「そこまでなのですか」
「そこまでのことだ」
まずは、解呪された結界をどうするか。
残った王宮魔術師で賄えるのは、良くてこれまでの範囲の半分くらいであろう。あとは、そこの領主に自力でどうにかしてもらうしかない。
それよりも、秋の「種」を回収されると、どうなるのか。
夏までの分は収穫できるが、初秋からこの先ずっと、実りが無くなるのだ。その影響の大きさが計り知れない。
(何故私は……)
アレクサンドルは、いつまでたっても頭を上げることができなかった。
私室に軟禁となった王妃は、まだ承服しかねていた。
(何故私が……この中つ国の王妃である私が、このような目に)
怒りしか湧いてこない。
マーロンという男は、配下ではない?
王家からの申し入れなのに受けない侯爵家は、不敬でない?
四季の御方とは、王の下に四季を統治する者ではない?
……わからぬ。
この国では一番上であり、上つ国の貴族と同等であると思っていたが。
そう言えば、あのマーロンという男は、上つ国からの客人とか言っていたが、この国に結界を張るための客人だというなら、王のために働く者の一人に過ぎぬのではないか。何故王家よりも上なのだ?
「……それにしても、腹立たしい。たかが侯爵家の娘のくせに。我が一の姫の方が、四季の御方として相応しかろうに」
「左様でございますとも」
侍女しかいないはずの部屋に、相槌を打つ者がいた。正装した女が一人、部屋の真ん中に立っていた。
「!何者じゃ!誰かある!」
衛士が聞きつけて入ってきた。
女は、衛士に向かって手を翳した。
すると、衛士らは何事もなかったかのように扉を閉めて出て行った。
「そなた……!」
侍女たちは、昏倒していた。
女は、ニヤっと笑った。
「お初にお目にかかります、王妃様。私、マルームと申します」
「何者じゃ!」
「王妃様の味方にございます」
「味方?」
「はい」
「……何が目的じゃ?」
「滅相もない。私は、この王国に下賤な者が入っていることを、非常に不快に思っているのです。そう、例えば、下つ国の者とか」
「そなた……何者じゃ?」
「ですから、お味方ですと。お困りのようでしたから、何かお助けできることがあればと思って参上いたしました」
「フン!胡散臭いのぅ。そなたのような者に、私の悩みなぞわかるまい」
「マーロンとやらがご自分よりも上位かもしれないとか」
「!」
「第三王子の輿入れ先からお断りされたとか」
「その方、無礼であろう!」
ホホホ……とマルームは優雅に笑った。
「無礼なのは、貴女様の申し入れを蹴った者たちではありませんか?」
「…………」
「このままであれば、王家の皆様は、蟄居か下つ国送り。高貴な方々がそのような目に遭うなぞ、以ての外です」
「何故私がそんな目に遭わねばならぬ?」
「マーロンの怒りで、恐らく結界は解呪。秋の御方の怒りで、これから先の王領の実りはなくなる。その責を負わねばならぬからです」
「それくらいで、この国の王たる者がその座から退かねばならぬと?」
「そうです」
「……四季の御方なぞ、たかが高位貴族の一つに過ぎぬものが。それほど高い位だというなら、我が一の姫の方が相応しい」
「左様でございますとも。この機に、秋の御方の位を姫に替わっていただくのは如何でしょうか」
「そのようなことができると?」
「はい。秋の御方の中にある宝玉を取り出し、姫様に取り入れていただけばよいこと」
「ほう……どのようにして取り出すのじゃ?」
「それは、もちろん御身を害するしかありませんね」
「な……!それは、いかぬ!さすがにそこまでしては!」
マルームは、王妃の顔に、掌を翳した。
「大丈夫でございますよ。私が上手にいたしますから。王妃様は、必要な準備のお手伝いをしてくださればよいのです」
王妃は、一瞬白目を剥いたかと思うと、くらくらする頭を抱えてソファーに座った。
「何を……手伝えばよいか」
マルームは微笑んだ。
「そうですね……とりあえずは、腕の立つ者を2〜3人、私に預けてくださいませ。その者たちに、仕込みます」
「わかった。……して、そなたとはどのように連絡を取ればよいのじゃ?」
「これを」
マルームは、黒い鉄で作られた鈴を渡した。
「この鈴を鳴らしていただけば、参ります。昼でも夜でも」
「ふむ。……そなたの報酬は、どのようなものを望む?」
マルームはニヤッと笑った。
「貴女様のお側にいさせていただきたく。お話し相手として」
「それだけでよいのか?」
「はい」
「無欲じゃの。わかった。頼みます」
「ありがたくお受けいたします」
マルームはそういうと、扉から出て行った。
彼女の姿が見えなくなると、昏倒していた侍女たちが目を覚ました。
「王妃様、申し訳ございません!」
「よい。茶をもて」
「「かしこまりました」」
王妃は、今あったことへの不信を抱くことなく、黙ってお茶を飲んで休んだ。




