王家の過ち
ウィレイは久しぶりにみっちり磨き込まれた。
黙って為すがままにされているだけだが、結構疲れるものである。
(アリストス、大丈夫かしら)
アリストスは、ちっとも大丈夫ではなかった。
風呂に入ろうとしたところ、3人の侍従たちがやってきた。
「失礼します」
アリストスは、基本自分で入浴する。が、今日は困ったことに、風呂の中までついてこられた。そして、頭から体まで全身洗われると、風呂場の隣の部屋に連れて行かれた。そこにあったベッドにうつ伏せに置かれ、エステが始まったのである。
(やめてくれ!……と叫びたい!)
他人に全身を洗われたり触られたり。非常に嫌だ。
今度は仰向けにされて、顔のエステが始まった。
(まじやめてほしい……)
そう思っていたが、声に出して言う訳にはいかなかった。
明日は王家に行く。
つまり、品定めされるのである。
少しでもマシに磨いておかないと、ウィレイをはじめ皆に迷惑がかかるのだ。磨いたところで、さほど変わりないとは思うのだが。
ヒゲをあたられ、眉を整えられる。
「明日も、出かけられる前にお手入れをいたしますので」
「はい」
はいとしか言えなかった。
手入れから部屋に戻ると、採寸のメジャーを首にかけたユーリが待っていた。
「失礼します」
そういうと、弟子らしき男と一緒に、アリストスの体を採寸していく。
「いい体ですねぇ。細身なのに筋肉質だ。近衛になれますよ、貴方」
「はぁ」
アリストスは間の抜けた返事しかできなかった。
「では、また明日に。おやすみなさいませ」
そう言うと、二人は出て行った。入れ違いで、マナーの教師がやってきた。
「初めまして、モレスと申します」
「アリストスです」
モレスは首を振った。
「いやいや。アリストス様、それではいけません。右手を胸にこう当てて……はい、それからお名前をおっしゃってください。その際、背筋は真っ直ぐのまま腰から約10°ほど上半身を曲げ、目をやや伏してです」
「……面倒ですね」
「貴方様のためです。覚えてください」
「わかりました」
アリストスは、言われたようにやってみた。
「角度が深すぎます。それは、余程悪いことをしたときの角度です。例え王様相手でも、この位置で止めてください」
そういうと、体を少しだけ上げたところで止めた。
それから、歩くときの視線の置き方やエスコートの仕方、拝謁時の挨拶から面前を辞するための挨拶など、一気に詰め込まれた。
(疲れた……)
せっかく入浴したのに、嫌な汗をかいてしまった。
マナー教師が帰って行き、そろそろ寝ようかと思ったとき、控えめなノックの音がした。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
サイモンだった。
「アリストス様、ウィレイお嬢様からの差し入れでございます」
「ありがとうございます」
サイモンが引いてきたワゴンには、細身の小さなグラスとつまみが載せられていた。
「今日は、これ一杯でとのことです」
「はぁ」
「明日のために」
「わかりました」
渡された細身のグラスには、透明な液体が入っていた。
一口飲むと、アリストスは目を大きく見開いた。
「これは……!」
サイモンが微笑んだ。
「お嬢様が、下つ国から持っていらした『酒』とやらでございます」
「日本酒です、確かに。しかも、とても良いものだ」
「おつまみも、お嬢様のご指示です……というか、お嬢様が手ずからご用意なさいました」
つまみは、まさかの枝豆と、塩辛のようなもの。それから、豆腐の味噌田楽。
(味噌田楽は、舞……ウィレイの好物だな)
ちびちびと飲みながら、枝豆をつまんだり塩辛を食べたりした。味噌の香りが身に沁みた。ウィレイの心遣いが、とても嬉しかった。
「美味しかったです」
「それはようございました。お嬢様にお伝えします」
「ありがとうと伝えてください」
「かしこまりました。おやすみなさいませ」
「おやすみなさい」
アリストスは、布団に入った。
(明日は、頑張ろう。ウィレイの隣にこれからもずっといるために)
ウィレイは、カーテンを開けて夜空を眺めていた。
(明日はいよいよね)
いつかは対峙することになるとわかっていたが、まさかこんなに早くこうなるとは。
ウィレイは、一つため息をついた。
(即位式まで、あと1ヶ月と少しだわ。そこまで何とか彼を守らないと)
婚約の誓約をしたときは、ただただ幸せだった。
相手を選べるとはいえ、下つ国の人間を好きになることを許されるとは思ってもみなかった。
しかし、私はそれでは済まないのだ。
でも、アリストスのいうように、一度きりの人生で後悔はしたくない。
「頑張らなきゃね」
口に出して言うと、カーテンを閉めた。
ベッドの布団は、少し冷たかった。
*
明くる日の朝は、快晴だった。
「おはようございます、お嬢様」
カルラがカーテンを開けた。
「おはよう、カルラ」
ウィレイが応えた。
「今日はお目覚めもよろしいようですね」
「そうね、決戦の日だから」
「なるほど……では、私どもも、気合いを入れてお支度をさせていただきます」
「よろしくね」
朝食を済ませると、二人の準備が始まった。
念入りな入浴と肌の手入れ。爪の先までぴかぴかに磨かれた。
「さ、お召し替えを」
入浴後のガウンを脱ぎ、ウィレイはドレスを纏う。美しい刺繍の入った、濃紅のドレスだ。
淡い色のドレスが着たかったのだが、「秋の御方」としての登城のため、秋の色を纏わねばならなかった。
「お美しい」
カルラが褒めてくれた。
「ありがとう」
濃紅のドレスは、ウィレイのクリーム色の肌によく映った。襟ぐりの広いそれは、首にかけられたルビーとインペリアルトパーズの嵌められた繊細なネックレスを引き立てている。
髪は編み込まれ、アップに結い上げられていた。 細い首とくっきり浮き上がった鎖骨も美しい。
「アリストス様も、惚れ直しますよ」
「な……!!」
ウィレイは恥ずかしさにあわあわとなった。
「お嬢様、顔!顔戻してください!」
化粧を施していた侍女のエレンに叱られてしまった。
「ごめんなさい……」
「あと少しですから、我慢してください」
「はい……」
ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「入るよ」
オウトゥクスが入ってきた。
「おはようございます、お父様」
「おはよう。ああ、綺麗だな」
父がふわりと笑った。
「ありがとうございます」
ウィレイはまだ化粧中のため、目礼した。
オウトゥクスはソファーに腰掛けた。
「その……大丈夫か」
彼は娘を心配していた。
これから、王城へ行く。
帰国の挨拶と、婚約の報告に。
確約していたわけではないが、何となくそういう方向でとなっていたことに、黒白をつけるために。
王家に横槍を入れられるとは思わないが、……入れさせはしないが、あちらの気持ちを考えると、面倒な予感しかしない。
「大丈夫ですわ、お父様。私たちは、正式に誓約しました。これを覆すと言われたら、間もなく始まる『秋』を、私は与えません。例え王家であったとしても。それだけは、譲る訳にはいかないので」
「うむ……それはわかっているのだが」
「傲慢な振る舞いはいたしません。が、あちらがどうしても捩じ込んでくるときは、容赦しません」
「そうか」
「はい」
オウトゥクスは立ち上がった。
「馬車に乗っているよ、先に」
「はい。間もなく参ります」
父と入れ替わりでアリストスが入ってきた。
「支度終わった?」
そう言ってウィレイを見たアリストスが、固まった。
(綺麗だ)
そこにすかさずカルラが突っ込んだ。
「アリストス様、ちゃんと言葉になさった方がよろしいかと」
「え?!何でわかったんですか?」
「わかりますよ」
ウィレイが振り向いた。
「なあに?何が言いたかったの?」
「いや……」
「?」
(言えるか恥ずかしい)
アリストスは心で呟いた。
「そ、そろそろ行くようじゃないのか」
「ええ。では、行きましょう」
アリストスは、エスコートのため手をそっと出した。ウィレイは微笑むと、その手を取った。
「では、行ってきます」
馬車は、いつものよりも広めのものだった。
王城の正面には、大きな通りがある。
その通りを中心にして、左右に碁盤の目のように道が整備されている。
シャルトランジェ家は、王城の西側にあった。
焦茶色に金で装飾された馬車は、粛々と大きな通りを目指して進んだ。
王城の正面には、巨大な門構えがあった。
白い大理石でできたそれは、繊細な彫刻が施されていた。
衛兵に確認をとり、馬車のまま奥まで進んでいく。
正面手前の馬車寄せが見えてきた。
(いよいよね)
馬車の中では、皆無言であった。
何か話せばよかったのかもしれないが、何となくそれぞれが想いに耽り、口を開かないまま来てしまった。
馬車が止まった。
御者が扉を開けて、ステップを置いた。
先に、オウトゥクスが降りた。続いて、アリストスが。アリストスは振り向いて、ウィレイに手を差し伸べた。
ウィレイは微笑むと、その手を取って降りた。
アリストスの正装は、焦茶色の上下に金糸の葡萄蔓の刺繍が入ったもので、夏だけに薄手の絹地で作られていた。シャツは半袖で、白地に襟のところに金糸の刺繍の入ったものである。ウィレイと並ぶと、美しい一対であった。
「行きましょう」
三人は、出迎えの王家の侍従に先導されて中へと向かった。
長い回廊を過ぎ、謁見の間に着いた。
そこには、宰相であるウィンザー卿と、王家の教育係であるレスター卿、そしてマーロン師が待っていた。
オウトゥクスは一歩前に踏み出し、挨拶を述べた。若い二人は、その後ろで礼の形をとった。
「ご多忙のところ、ありがとうございます。オウトゥクス・シャルトランジェ、娘のウィレイ、そして娘の婚約者となりましたアリストス、参上いたしました」
ウィンザー卿が、応じた。
「ご無沙汰いたしておりました。シャルトランジェ侯爵。お待ちしておりました」
「ありがとうございます」
「ウィレイ嬢、ずいぶんと美しくなられましたな」
「ありがとうございます」
ウィレイは再び淑女の礼をした。
「宰相閣下には、ご機嫌麗しく」
「はっはっは。マーロン殿。お弟子様は何とも素晴らしい女性になられましたな」
マーロンがニヤッと笑った。
「我が弟子ですからな」
と、鐘の音が鳴った。
「王様の出御にございます」
皆、最敬礼をして迎えた。
王に続いて王妃、皇太子、一の姫。第二王子と第三王子が入ってきた。
「皆、楽にせよ」
王がそう言うと、皆さらに一礼して顔を上げた。
「侯爵、久々だな」
「ご無沙汰いたしておりました」
「今日は、秋の御方の帰国挨拶とか」
「左様でございます。二年の見聞を経て、帰国いたしました。そのご報告に参りました」
「そうか……ウィレイ嬢、息災であったか」
ウィレイは微笑んだ。
「長らく不在にし、失礼いたしました。王様におかれましては、ご健勝のご様子。配下といたしましては、幸甚のいたりでございます」
「元気そうであるな」
「恐れ入ります」
王は目を細めると、続けた。
「つかぬことを訊くが、そなたの隣にいる者は、誰なのだ?」
(来たー!!)
ウィレイは最上級の笑顔を貼り付け、応えた。
「こちらは、私の婚約者。アリストスと申します」
「婚約者……?」
「左様でございます」
「どういうことですか、ウィレイ嬢?」
王妃が硬い声で訊いてきた。
「どういうことかと仰いますと……?」
王妃は、持っていた扇をパシッと閉じた。
「そなたの御配には、我が第三王子をと前々から申し入れていたものを」
王妃の目が吊り上がっている。第三王子も、青ざめて固まっている。
空気がピリッとする中で、一の姫だけは、目を輝かせていた。
「お心遣い、感謝いたします。されど、このアリストスと出会い、私は初めて人を好きになるということを知りました」
「そなたは『秋の御方』。この中つ国でも上位の者ですよ。それなのに、その者……下つ国の人間ではないか。そなたには相応しくない」
「王妃様。お言葉を返すようですが、私は確かに『秋の御方』です。秋の御方には、御配を自由に選べるという特権がございます」
「そのようなこと、あってないようなものではないか。それが許されるとでも思っておるのか」
「はい」
静まり返った。
「……侯爵、そなた、娘の育て方を間違えたようじゃな」
「恐れ入ります」
「我が第三王子を、どうしてくれるのじゃ?!」
「何故私が申し込んだというのに、そんな下つ国の下賤な者にウィレイ嬢を取られなければならないのか」
第三王子も屈辱を感じているらしく、わなわなと震えながら言った。
王は無表情だが、ウィンザー卿とレスター卿は、真っ青になっている。マーロン師は、顔が強張っている。
皇太子と第二王子は、困った顔をして母の顔を見ていた。皇太子が、口を開いた。
「母上、権利は権利でございますよ。『秋の御方』は大役にありますれば」
王妃は息子を睨め付けた。
「王家が申し入れたというのに。不届であろう。そなたはどちらの味方なのじゃ?」
「……事実を述べたまでです。それが決まりですし」
ウィレイは、レスター卿の方を向いた。
「王家の皆様は、四季の御方々のお役目と権利をご存じのはずですよね」
レスター卿は、ハンカチで汗を拭った。
「はぁ……まぁ……」
そのとき、マーロン師が空気を断ち切った。
「もういい。帰るぞ」
侯爵とウィレイ、アリストスは姿勢を正すと、深々と礼をした。
王妃は、扇で手を叩いた。
「待ちやれ!まだ話は済んでおらぬ!」
すると、マーロンがつかつかと三人のところへ向かってきた。そして侯爵の前に立つと、王家の人々に向き直った。
「王家といえども、守るべき則はある。それを越してくることを、如何お考えか」
マーロンは、王を真っ直ぐ見て言った。
王はマーロンから視線を逸らした。
「それは……」
「陛下!中つ国の王として、ここはしっかり線引きをなさってくださいませ!」
「うむ……」
「父上……陛下。上に立つ者が私情を挟んでは、上つ国の皇家の方々からお叱りを受けます」
「そなたは黙っておれ!」
「母上。貴女の感情のために約定を違える訳にはいきません」
マーロンはしばらく王を睨め付けていたが、一つ息を吐くと目を閉じた。
「もうよい。それがそなたらの答えであるのだな」
「魔術師ごときがが何を言う」
王妃はマーロンを睨んだ。
マーロンは目を細めて王を見た。
「王よ、そなた、先程から自分の妻を止めようともせなんだな。それは、……覚悟があるということだな」
「そんな……!私はただ……!」
王は玉座から立ち上がって、マーロンの方に歩み寄った。
マーロンは、それを手で制した。
「もうよい。わかった。これまでだ」
そういうと、周りをぐるっと見回した。
「皆の者、聞くがよい。我マーロンは、このアリストスを養子とした。弟子として鍛え上げ、秋の御方の御配とする。この決定に異論は聞かぬ。王よ、そなたのその日和見。我はほとほと失望した。もう少しマシかと思ったが、気のせいだった。これより先、我の加護はないと思え。そして、もう一つ。秋の御方がそなたらの領地に秋をもたらすことはあるまい。それが、この不快な状況に対する我らの答えだ」
王は、真っ青になって謝った。
「マーロン師、それだけは……何卒それだけはお許しください!」
「ならぬ。我は許さぬ」
マーロンは、王を睨みつけた。
王妃はまだ状況を把握せず、マーロンに頭を下げている王に腹を立てた。
「不敬な!」
王が慌てて叫んだ。
「止めよ、カトリーヌ!不敬なのは、そなたの方だ!」
皇太子が、その言葉を聞き咎めた。
「陛下、『不敬』とは……?」
マーロンが皇太子の方を向いた。
「皇太子よ、そなた教育係から何も聞いておらぬのか?」
「はい」
「レスター」
「は、はい。マーロン様」
「そなた、ろくな仕事をせなんだな」
「!……も、申し訳……ございません。まだそこまではお教えしておりませんでした」
「皇太子だけではない。王妃を見よ。我に向かって何という口のききようか」
「申し訳ございません」
「四季の御方が、この国でどのような立ち位置なのか。見よ、あれは我を自分より下だと思っておるのだろう」
王妃が言い返した。
「当然であろう。私はこの中つ国の王妃。そなたは雇われ魔術師ではないか」
「カトリーヌ、黙るんだ!これ以上罪を重ねてはいかん」
「はあ?罪?」
「マーロン師のお陰でこの国の結界は守られているのたぞ」
「それが何か?」
「マーロン師は……中つ国の人にあらず。上つ国からの客人である。……結界がなくなれば、悪い気が外から入ってくる。これまで何の心配なく暮らしてこられたのは、悪い気が入らぬよう結界が張られていたからだ。この大きな国の全てを覆い尽くすほどの」
「左様でございます、王妃様。この結界がなくなれば、この国は下つ国からの出入りがいとも簡単になります。そして、この国の治安を守りきれない場合には、王家は追放されます……上つ国の皇家の方々によって」
「な……!」
王妃は、口を開けたまま固まった。
王は、柱の近くに控えていた近衛を呼んだ。
「王妃を連れて行け」
「「「はっ」」」
「!陛下!私は……!!」
「もうよい。これ以上マーロン師の怒りを買うわけにはいかぬ」
王妃は、マーロンを睨み、ウィレイを睨んだ。
「おのれ……そなたら……」
「いい加減にわきまえんか!」
王はとうとう怒鳴った。そして、王妃の腕を掴んだ。
「「父上……!」」
「もう遅いわ!」
ダンッ!!っと足を踏み鳴らすと、マーロンが言った。
「!!」
「国王アレクサンドル。王家の者の監督不行届。浅慮甚だしき。王領及び王宮は、これより我が結界の外に在るべし」
王はマーロンの方に向き直ると、両手を広げて許しを乞うた。
「マーロン師!御慈悲を……!!」
「身から出た錆だ!」
マーロンの激昂を黙って見ていたウィレイは、足をスッと引くと、一つ美しい礼をした。
「私も、我が婚約者を侮辱されましたことをそのままにはできません。王領に蒔いた種は、全て回収いたします。そしてこれより、秋の宮に篭ります。即位式は宮で行うことにいたします。王家の皆様には、ご列席いただきません。王弟殿下は、長く可愛がっていただきましたのでお声をかけさせていただきますが」
マーロンは、既に術式を組み立て始めていた。
結界の解呪のようである。
ブツブツと呪文を唱え終えると、
「さ、帰るぞ」
と言って、先に歩き始めた。
ウィレイたちも後に続いて退出しようとすると、
「お待ちください!」
と、皇太子が扉の前に立ち塞がった。
「殿下。御前を失礼いたします」
オウトゥクスが頭を下げた。
「侯爵、今少し時間をください。……私たちの犯した間違いは、どのようにすれば許していただけるのか、教えてほしい」
オウトゥクスは、頭を下げたまま言った。
「恐れながら殿下。私めはただの侯爵にすぎません。マーロン師や娘……秋の御方の考えに従うのみでございます」
「そうですか……では、ウィレイ嬢。教えていただきたい」
「……今ここで行われたことを、ご覧になってらっしゃいましたかと。それが何を示しているのかは、王家の方なればご存じなのではないでしょうか」
皇太子は、首をゆっくりと横に振った。
「……恥ずかしい限りだが、寡聞にして知らぬのだ。四季の御方がどのようにして選ばれるのかや、どのようなお役目なのかは一通り教わった。その権利についても。だが、あくまでも中つ国の王家の下でとの認識であった。今の話を聞くに、四季の御方とは、王家とは別個の……並び立つ存在なのだな?そして、マーロン殿は、単なる王宮魔術師ではなく、上つ国からこの国を守る手助けをする方なのだな?」
「その通りだ」
先に出て行ったはずのマーロンが、いつの間にか戻って来ていた。
「そしてそれを王は知っている。皇太子も、知る立場にあったはずだが」
「……申し訳ありません。まだ不知でございました……」
皇太子は、項垂れた。
「もうよい。我が怒りはしばらく解けぬと思うがよい。義憤ではあるが。ウィレイの怒りは、……身をもって味わうがよい」
そう言うと、マーロンは再び出て行った。
「「「失礼いたします」」」
侯爵家の三人も、後を追った。




