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秋に咲く華  作者: 風花月
2/11

下つ国への旅立ち 2

 庭の一角に、転移用のガゼボがある。

 それは大理石のような模様なのだが、半透明な不思議な石でできている。


 ウィレイは荷物を持ち、その中心に立っていた。


 周りには、父と母、兄。それから屋敷のほとんどの者たちがいる。 


 転移の布陣は自分で事足りるため、大掛かりな術をお願いしているマーロンには声をかけなかった。


「それでは、行って来ます」


 寂しい気持ちを飲み込んで、ウィレイは明るく言った。

 母はすでに泣いている。父も目を赤くしているが、どうにか堪えているようだった。兄のオルフェは、にこにこ笑っていた。


「あまりお転婆するなよ。歳がバレるからな」


 ウィレイはプーッとふくれた。


「ひどいわ!もうそんな歳じゃないもの!」


 オルフェは、仕方ないとでも言いたげに首を振った。


「そんな心配がなけりゃ、言わないさ私も」


 カルラが視線を逸らした。


(あ、笑うの堪えてるわね!)


「ひどい!」


 父母はさすがに別れを惜しんでくれているけれど、何だか他の皆は別の心配をしている気がする……


「くっ」


 我慢だ我慢。ちゃんとやり切ってみせる。

 そして、見返してやるんだから!


 ウィレイは顔を上げると、優雅に微笑んだ。


「ご心配いただきありがとうございます、お兄様」


 オルフェはギョッとした。これ、何かし返す気だな。


「2年間のうちに、素敵な婚約者様を見つけてくださいませ。私、お会いするのを楽しみにしておりますわ」


 仕事に没頭し、数々の申し込みを見ないフリしているオルフェだけに、すぐには言い返す言葉が見つからなかった。今度はオルフェが「くっ!」と言う番だった。


 母がガゼボのそばぎりぎりまで進み出た。


「くれぐれも、体には気をつけてね。そして、危ない目に遭ったり怖い思いをしたときは、すぐにこちらに戻ってらっしゃい」

「お母様……ありがとうございます」

「いつでも待っているからな」

「はい、お父様」


 やはりお父様とお母様は、心から心配してくれている。お兄様は本当に腹が立つこと。


 ウィレイは皆の顔を、ゆっくり見回した。


「では、行ってまいります」


 そういうと、転移の布陣に取り掛かった。


「ちょっと待ったー!!」


 大きな声が響いた。


 一陣の風と共に、マーロンが現れた。


「マーロン様」


 マーロンはガゼボの中にズカズカ入って来ると、ウィレイの手を取り、小さな指輪を渡した。


「私からのお守りだ」


 そう言って、無精髭を生やした顔でくしゃっと笑った。


「ありがとうございます」

 ウィレイは頭を下げて礼を述べた。マーロンは続けた。


「それは、どのような言葉も操ることができる指輪だ。下つ国なら、大概の国の者と話すことができるぞ」

「それは……すごいですね!ありがとうございます!」


(その効能は、百人力だわ!)


 貴重な指輪だ。それにしても、これ、どうやって作るんだろう……?


 マーロンはにやりと笑った。

「それは企業秘密だ」


 企業秘密って……


 マーロンの読心術に驚きながらも、受け取った指輪をしっかり握りしめた。そして、再び転移の布陣を始めた。


 ウィレイの周りが薄く光りだした。


 光はやがて、全身を包んでいく。


「行ってまいります」


 全身を包んだ光が、パッと散った。次の瞬間には、もうウィレイの姿は消えていた。



 


 

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