旅の始まり、思わぬ出会い
宿の一階には、旅支度を終えた悠真たちが集まっていた。
荷物を確認した悠真は、みんなの顔を見回す。
「それじゃ、出発しますか?」
それぞれが頷き、宿を出る。
悠真たちは馬車へ乗り込み、リシェルとミリアはそれぞれ馬に乗った。
御者台ではフィルが手綱を握る。
「では、出発します〜。」
フィルの声とともに、馬車がゆっくりと動き始めた。
まだ朝早いソレイアの街では、店先を掃除する者や、商品を並べ始める商人たちの姿が見える。
そんな一日の始まりを迎えた街並みを抜け、悠真たちは中継都市へ向けて出発した。
ソレイアを出た悠真たちは、来た時と同じように、半島の海岸線に沿って回り込むように進んでいた。
朝の海は穏やかだった。
昇ったばかりの朝日が海面に反射し、きらきらと光の帯を作っている。
悠真は御者台で手綱を握るフィルの隣に座り、その景色を眺めていた。
海から吹いてくる朝の風が頬を撫でる。
風に乗って運ばれてくる潮の香りに、悠真はゆっくりと息を吸い込んだ。
「気持ちいいな。」
「ですね〜。」
フィルも気持ちよさそうに目を細める。
馬車は波の音を聞きながら、海岸沿いの道を進んでいった。
しばらく進むと、小さな村が見えてきた。
そのまま村の近くを通りかかった時、悠真は海辺に何人もの獣人たちが集まっていることに気づいた。
何かを話し合っているようだった。
悠真は少し離れたところを馬で進んでいたリシェルへ声をかける。
「リシェル、少しいいか?」
リシェルも海辺へ視線を向ける。
「分かった。行ってみよう。」
「みんなは、ここで待っていてくれ。」
「はいです〜。」
リシェルもミリアへ声をかける。
「ミリアも待機していてくれ。」
「分かりましたであります。」
悠真とリシェルは海辺へ向かい、集まっている村人たちへ近づいていった。
「どうしたんですか?」
悠真が声をかけると、一人の獣人が困ったように海を見る。
「いや〜、漁に出たいんだが、魔物が出ちまってな〜。どうするか悩んでいたんだ。」
リシェルが尋ねる。
「ギルドには依頼しましたか?」
「ああ、出したよ。でも、まだ出したばかりだからな〜。いつ来てもらえるか分からないんだ。」
「どんな魔物なんですか?」
「グランガヴラスってやつなんだがな。普段は一メートルを超える前に獲っちまうんだ。」
獣人は海の方を指さした。
「どうも、ずっと隠れてたやつがいたみたいでな。五メートルくらいまで大きくなっちまって、俺たちじゃ手に負えないんだよ。」
「五メートル……。」
悠真は隣にいるリシェルを見る。
リシェルは悠真の視線を受けると、静かに頷いた。
それだけで十分だった。
悠真は村人へ向き直る。
「それなら、僕たちがその魔物を討伐しますよ。」
「ホントかい? そりゃ〜助かるが……いいのかい?」
「ええ。もちろんです。」
その瞬間――。
⸻
【クエスト発生】
グランガヴラスを討伐せよ。
報酬:???
⸻
(ま〜、出るよね。)
悠真は目の前に現れた表示を見ながら、心の中でそう呟いた。
悠真は、もう一度海へ目を向けた。
「グランガヴラスは、どういう魔物なんですか?」
「手がデッカいハサミになっててな。身体は硬い甲羅で覆われてるんだ。」
獣人は自分の手を大きく広げながら説明する。
「だから、大きくなると刃が通らなくて困ってんだ。」
「なるほど……。」
悠真は少し考える。
(それって〜。)
頭の中に、ある生き物の姿が浮かんだ。
「それは、食べられますか?」
「食べる?」
獣人は意外そうな顔をした。
「どうかな〜。毒はないから食べられるかもしれないが、小さい時に狩っちまうから身はほとんどないんだ。だから、いつも捨てちまうよ。」
「それは、もったいない。」
即答する悠真に、リシェルが不思議そうな顔を向ける。
「食べるのか?」
「え? 食べないの? めちゃくちゃ美味いと思うぞ。」
「ホントか?」
リシェルは少し考えてから、海へ視線を向けた。
「なら、討伐の仕方も考えないとな。」
「ん〜、フィル先生に頼むしかないかな〜。」
「ふふ、そうだな。」
二人は顔を見合わせて笑う。
悠真は、待っている仲間たちを呼びに戻った。
悠真が仲間たちを連れて戻り、事情を説明すると、フィルは自信満々に胸を張った。
「分かりました〜。それでは、この魔術師がグランガヴラスを討伐しましょう〜。」
フィルは肩の上にいた風の龍核兵へ視線を向ける。
「お願いです〜。」
風の龍核兵はフィルの肩から飛び立つと、そのまま空高く舞い上がった。
海上を旋回しながら、グランガヴラスの姿を探していく。
やがて――。
「見つけました〜。」
フィルが海へ向かって杖を構えた。
「《ウォーターウェーブ》!」
海面が大きくうねり、強烈な波がグランガヴラスを下から押し上げる。
巨大な身体が海面へ姿を現した。
「おお……!」
その姿を見た獣人たちから声が上がる。
だが、フィルはすぐに次の魔法へ移っていた。
「《アイスフィールド》!」
グランガヴラスの足元から海面が凍りつき、巨大な氷の足場が作られていく。
海の中とは違い、氷の上ではグランガヴラスも思うように動くことができない。
巨大なハサミを振り上げながら、もがくように身体を動かしていた。
フィルが杖を構える。
「《アイスショット》ー!!」
フィルのそばに、巨大な氷の槍が作り出された。
次の瞬間――。
空気が弾けるような音とともに、氷の槍が猛烈な勢いで発射される。
「おお……今までは多重魔法でやってたのに」
悠真が驚きの声を漏らす。
氷の槍は激しく回転しながら一直線にグランガヴラスへ迫り、そのまま腹部を貫いた。
グランガヴラスの巨体が力を失い、氷の上へ倒れ込む。
一瞬の静寂のあと――。
「やったぞ〜!」
「これで漁に出られるぞ〜!」
海辺に集まっていた獣人たちから、大きな歓声が上がった。
その時、悠真の目の前に表示が現れる。
⸻
【クエスト達成】
グランガヴラスを討伐せよ。
報酬:カニ
⸻
「…………。」
悠真は表示を見つめる。
(ぷっ、カニって。)
思わず吹き出しそうになった。




