今できること
朝日が宿の窓から差し込んでいた。
悠真はベッドの上で目を覚ますと、しばらく天井を見つめていた。
頭に浮かんでいるのは、昨日、風の神龍から聞かされた話だった。
千年前の真実。
古代種。
そして、夢渡りである自分に与えられた選択。
(選択は出来るとはいえ、もう大切な人たちが出来たこの世界を滅ぼす事なんて出来ない……)
リシェル、フィル、ツバキ、ゼノン。
これまで旅をしてきた仲間たち。
この世界で出会った人たちの顔が、次々と頭に浮かぶ。
(でも、僕はまだ未熟だ……)
悠真がそんなことを考えていると――。
「可愛いです〜!」
宿の下から、聞き慣れたフィルの声が響いてきた。
「……?」
悠真は身体を起こすと、ベッドから降り、一階へと向かった。
階段を下りていくと、そこにはフィル、ミリア、ツバキの三人がいた。
三人は何かを囲むようにして、その中心を見つめている。
悠真もそちらへ目を向ける。
そこには――鳥のような姿をしたものがいた。
「悠真さん。おはようございます」
「おはようございます」
「悠真さん、おはよう」
三人がそれぞれ悠真へ声をかける。
「おはようございます。それは、何ですか?」
悠真が鳥のようなものを見ながら尋ねると、フィルが嬉しそうに答えた。
「これは、ツバキさんに錬成してもらった私の龍核兵です〜。可愛いです〜」
「朝からフィルにどうしてもって言われてね。風の龍核と風鉱石で《古代錬成》してみたら、鷲型の龍核兵が出来上がったのよ」
「そうだったんですね〜」
「だって、楽しみにしてたんですよ〜。いてもたってもいられなくて」
フィルは龍核兵を眺めながら、満足そうに笑っている。
その隣で、ミリアが少し眠そうな顔をしていた。
「自分は、フィルちゃんに起こされまして……」
「はは」
悠真は思わず笑った。
しばらくすると、リシェルやゼノンたちも一階へと集まり始めた。
せっかく全員揃ったこともあり、そのまま宿の食堂で朝食をとることにした。
料理が並ぶテーブルを囲みながら、昨日の帰り道の話になる。
「まったく、昨日のはもうこりごりだな」
ゼノンが顔をしかめながら言った。
「あら、楽が出来ていいじゃない」
ツバキが楽しそうに返す。
「はいです〜。でも、さすがにみなさんを運ぶのは疲れました〜」
フィルはそう言いながら、少し困ったように笑った。
「次からは緊急時の方がいいかもね」
悠真も苦笑しながら答える。
すると、リシェルが昨日のことを思い返すようにつぶやいた。
「空を飛ぶなんて、二回目……」
その言葉を聞いたフィルが、ぴくりと反応する。
「あれ〜? 何を思い出したんですか〜?」
「な、何でもない!」
リシェルは慌てたように答えると、すぐに話題を変えた。
「それより、悠真。今日はこのあと族長のところに行くんだろ? 私も騎士団として一緒に行くからな」
「自分も、一緒にお供します」
ミリアがそう言うと、フィルがすぐに口を挟んだ。
「え〜、ミリアちゃんは私と一緒に街でも周りましょうよ〜」
「ああ、大丈夫だ。フィルと一緒に居てくれてかまわない」
「わかりましたであります」
ミリアが頷く。
「俺は、また鍛冶場にいく」
今度はゼノンが口を開いた。
「新しい逆鱗を使って、悠真の剣を鍛え直す」
「よろしくお願いします」
悠真が頭を下げると、ツバキが少し考えるように声を漏らした。
「私は〜」
そう言いながら、ちらりとリシェルの方を見る。
「街で薬草の買出しをして、薬品を錬成してるわ」
「わかりました。では、お昼も各自でお願いします」
それぞれ今日の予定が決まり、悠真たちは朝食を続けた。
朝食を終えたあと、悠真とリシェルは宿を出て、族長の館へと向かった。
館へ到着すると、悠真は入口に立つ門番へ声をかける。
「おはようございます。族長はおられますか?」
「はい。今日はまだ居ますので、ご案内します」
「ありがとうございます」
門番に案内され、悠真とリシェルは館の中へと入っていった。
応接室まで案内すると、門番は一礼して戻っていった。
悠真は扉の前に立ち、軽くノックする。
コンコン。
「悠真です」
「おう。入れ」
中からナディアの声が聞こえ、悠真とリシェルは応接室へ入った。
「おはようございます」
「おはようございます。風の神殿の報告に参りました」
「ま、座ってくれ」
「はい」
二人はナディアの向かいに腰を下ろした。
それからリシェルは、風の神殿で起きたことを順番に報告していった。
五階層にあった巨大な扉。
その先に続いていた、これまで誰も知らなかった階層。
九階層で出会った風の神龍。
そして神龍から聞かされた、千年前の出来事。
古代種の存在と、その封印が少しずつ弱まり始めていること。
千年前、夢渡りと共に古代種へ立ち向かった七英雄のこと。
さらに、神龍の力を受け継ぐことが出来る適合者について。
すべてを聞き終えたナディアは、腕を組みながらゆっくりと頷いた。
「そうか。適合者とは、七英雄の子孫のことだったのか」
「はい。でも、ただ血が繋がっていればいいわけではないようです」
「残り四人は、結局わからないということか」
ナディアは少し考えたあと、悠真へ視線を向ける。
「でも、夢渡りである悠真は、そのうちの一人なんだろ?」
「おそらく。でも、なぜ僕が夢渡りになったのかまでは分かりませんでした」
「ま〜、分からないものはしょうがないな。封印もすぐに解けるわけではないのだろう?」
「はい」
リシェルが頷く。
「なら、私たちがすることは、その時に備えて国の防衛を強化することくらいしか出来なさそうだな」
「そうかもしれません。それなら、七つの国全体で協力していきましょう」
リシェルは真剣な表情で続ける。
「私は国に戻り、国王に報告します。そして、他の国とも連携するよう進言いたします。私にも王族の血は流れていますので」
「ああ。よろしく頼む」
ナディアは頷くと、今度は悠真を見る。
「悠真も何かあれば何でも言ってくれ。出来る限りの協力はする」
「わかりました。ありがとうございます」
風の神殿についての報告を終え、悠真とリシェルはナディアに一礼すると、館をあとにした。
族長の館をあとにした悠真とリシェルは、並んで街を歩いていた。
しばらく歩いたところで、悠真がリシェルへ声をかける。
「リシェル、いいのかい?」
「何が?」
「王族の立場を捨てて、騎士団に入ったのに」
リシェルは少しだけ悠真を見つめると、迷うことなく答えた。
「ええ。世界が危機に陥る時に、そんなこと言ってられないでしょ」
そして、どこか誇らしげに続ける。
「それに、私は騎士団なんですから。当たり前です」
「はは。そうだね」
悠真は笑うと、今度は少し寂しそうに尋ねた。
「リシェルは、このまますぐに王都へ戻るの?」
「うん。もう少しゆっくりしたかったけど、報告はなるべく早くした方がいいと思うから」
「わかった。なら、今日の夕飯はご馳走にしよう〜」
その言葉に、リシェルは柔らかく微笑んだ。
「ふふ。ありがとう」




