王都の門
リーフ村の朝は、昨日までの不安が嘘のように穏やかだった。
朝日を浴びた畑では、村人たちが笑顔で倒れた柵を直し始めている。
広場では子どもたちの笑い声が響き、昨日泣いていた男の子が悠真を見つけると、元気よく駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!」
「おはよう。」
「魔物、もう来ない?」
悠真は優しく頭を撫でる。
「しばらくは大丈夫だと思う。でも、危ないと思ったら無理はしちゃダメだよ。」
「うん!」
男の子は満面の笑みで頷いた。
その姿を見ていた村長が、深々と頭を下げる。
「この村を救っていただき、本当にありがとうございました。」
「僕一人の力じゃありません。運も良かっただけです。」
「それでも救われた命があります。」
村長は小さな袋を差し出した。
「どうか受け取ってください。」
中には銀貨と保存食、傷薬が入っていた。
さらに村の女性たちが、焼きたてのパンや干し肉、干した果物を持ってくる。
「旅のお供に。」
「ありがとうございます。」
その時、悠真の視界に青いウィンドウが浮かび上がった。
⸻
《アイテムBOX》
収納可能です。
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「……試してみるか。」
悠真がパンに触れ、収納を意識する。
すると、パンは淡い光に包まれ、一瞬で姿を消した。
「き、消えた!?」
村人たちが目を丸くする。
悠真も慌ててアイテムBOXを開く。
中には先ほど収納したパンが、きちんと並んでいた。
「本当に入ってる……。」
干し肉、傷薬、銀貨も順番に収納する。
村人たちは驚きながらも拍手を送った。
「便利な魔法ですねぇ。」
「……たぶん、そんな感じです。」
説明できない以上、そう答えるしかなかった。
⸻
昼前。
悠真は村人たちに見送られながらリーフ村を後にした。
「また来てねー!」
子どもたちが大きく手を振る。
悠真も笑顔で振り返す。
「ああ、今度はゆっくり遊びに来るよ。」
街道を歩きながら、リシェルの置き手紙を取り出す。
「約束、守れそうだな。」
悠真は手紙を大切にしまい、王都への道を歩き始めた。
⸻
三日後。
遠くに巨大な城壁が見えてきた。
「……でかい。」
見上げるほど高い城壁。
その中央には巨大な門。
人や馬車が次々と出入りしている。
「ここが……王都。」
期待を胸に門へ近づく。
「止まれ。」
低い声が響いた。
門番の兵士が槍を交差させ、悠真の前に立つ。
「身分証の提示を。」
「身分証……?」
「冒険者証、商人証、市民証、どれでも構わん。」
悠真は言葉に詰まる。
「持ってません。」
門番の表情が厳しくなった。
「では、入城は認められない。」
「でも……。」
「規則だ。」
周囲の視線が集まる。
悠真が困り果てていると、聞き覚えのある声が背後から響いた。
「その者は、私の知人です。」
兵士たちが一斉に振り向く。
「リシェル隊長!」
銀色の鎧をまとった女性が、堂々と歩いてくる。
悠真は思わず笑みを浮かべた。
「リシェル!」
彼女は表情を崩さないまま近づき、小さく微笑む。
「無事に来られたようですね。」
「何とか。」
「村にも立ち寄ったそうですね。報告は受けています。」
「え?」
「リーフ村の村長から、騎士団へ感謝の連絡が届いていました。」
悠真は少し照れくさそうに頭をかく。
「大したことじゃないよ。」
「あなたらしいですね。」
リシェルは門番へ向き直る。
「彼の身元は、私が保証します。」
「承知しました!」
兵士たちはすぐに槍を下ろした。
門がゆっくりと開く。
「ようこそ、王都へ。」
また、悠真の視界に青いウィンドウが浮かび上がった。
【メインクエスト達成】
「王都アルディアへ向かえ」
《マップ》
周辺地形を表示します。
「…地図要らないじゃん」
と、頭の中でつぶやいた。
⸻
石畳の大通り。
立ち並ぶ店。
行き交う人々。
大道芸人の歓声。
香ばしいパンの香り。
「すごい……。」
悠真は辺りを見回し、思わず足を止める。
リシェルが小さく笑う。
「王都は初めてですか?」
「こんな街、見たことない。」
「ふふっ。少し案内したいところですが、その前に済ませることがあります。」
「済ませること?」
「冒険者ギルドです。」
⸻
しばらく歩くと、大きな剣と盾の紋章を掲げた建物が見えてきた。
「ここが冒険者ギルド。」
中へ入ると、多くの冒険者たちが依頼書を眺め、酒を飲み、談笑していた。
受付へ向かったリシェルは、一人の受付嬢に声をかける。
「彼の冒険者登録をお願いします。」
「かしこまりました。」
受付嬢は微笑み、奥から黒い石板を運んできた。
「こちらは《登録石板》です。」
「この上に手を置いてください。」
悠真が手を置くと、石板は淡い青い光を放ち始める。
静かな空気の中、光がゆっくりと収まっていく。
すると石板の横から、一枚のカードが現れた。
受付嬢はカードを手に取り、内容を確認する。
しかし、その手が一瞬止まった。
「……あら?」
「どうかしましたか?」
「いえ……少し珍しい表示がありまして。」
カードの下部には、誰にも読めない古い文字が刻まれていた。
受付嬢は首を傾げる。
「古い登録石板では、ごく稀に判読できない文字が記録されることがあるんです。」
「登録には問題ありませんので、ご安心ください。」
そう言ってカードを悠真へ手渡す。
悠真は気にすることなく受け取った。
「これが……冒険者カード。」
表には名前とランク。
そして、読めない文字が静かに刻まれている。
その意味を知る者は、この場には誰一人いなかった。




