冒険者としての第一歩
王都冒険者ギルド。
登録を終えた悠真は、手の中にあるカードをじっと見つめていた。
そこには自分の名前と、冒険者ランク――F。
昨日までの自分なら、ゲームの中でしか見ることのなかったもの。
それが今、自分の手の中にある。
「……本当に冒険者になったんだな。」
小さく呟く。
「悠真。」
声に振り返る。
そこにはリシェルが立っていた。
表情もいつものように凛としている。
「これで王都内で活動するための身分証明はできました。」
「ありがとう。リシェルがいなかったら、たぶん王都にも入れてなかった。」
「当然のことをしたまでです。」
リシェルは淡々と答える。
しかし、少しだけ視線を柔らかくした。
「ですが……冒険者になったからといって、無理な行動は慎んでください。」
「無理?」
「はい。」
リシェルは真っ直ぐ悠真を見る。
「あなたは、自分の危険を顧みず行動する傾向があります。」
「……。」
「力があることと、戦いに慣れていることは別です。」
厳しい言葉。
でも、それは心配から出たものだと悠真には分かった。
「気をつけるよ。」
「約束してください。」
「ああ。」
悠真が頷く。
リシェルは小さく頷き返した。
「それでは、私は騎士団へ戻ります。」
「任務?」
「はい。王都周辺の警備がありますので。」
少しの沈黙。
まだ出会って数日。
それでも、この世界で初めて信頼できる相手だった。
「また会えるよな?」
悠真が聞く。
リシェルは一瞬だけ驚いた顔をする。
「……はい。」
「私は王都にいます。」
「何かあれば、冒険者ギルドへ相談してください。」
最後まで騎士らしい言葉。
でも。
「無事でいてください。」
最後の一言だけは、少しだけ優しかった。
⸻
一人になった悠真は、冒険者ギルドの掲示板を見る。
依頼書が並んでいる。
討伐。
護衛。
採取。
どれも、この世界で生きる冒険者の仕事だ。
「まずは簡単なものからだな。」
一枚の依頼書を取る。
⸻
【薬草採取】
場所:王都東の森
内容:薬草を10本採取
報酬:銀貨5枚
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依頼書に触れた瞬間。
視界に青い光が浮かぶ。
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【クエスト発生】
薬草を10本採取せよ。
報酬:???
⸻
「……またこれか。」
悠真は苦笑する。
最初は驚いた。
でも今は違う。
この表示が出ると、少しだけ期待してしまう。
「今回は何がもらえるんだろうな。」
見切り。
気配察知。
アイテムBOX。
今まで自分を助けてくれた力。
「まあ、まずは依頼達成だ。」
悠真は森へ向かった。
⸻
王都東の森。
薬草探しは順調だった。
自然の中を歩くことには慣れている。
キャンプやアウトドアが趣味だった経験が、こんな場所で役に立つとは思わなかった。
「あと二本。」
その時。
茂みが揺れた。
「……。」
腰の短剣に手を伸ばす。
次の瞬間。
灰色の影が飛び出した。
「狼……!?」
一匹。
いや。
もう一匹いる。
二方向から迫る。
「速い……!」
ゴブリンとは違う。
力も速さも上だ。
牙が迫る。
その瞬間。
《見切り》
わずかな未来が見える。
悠真は体をひねる。
攻撃が空を切る。
「今だ!」
一匹を斬る。
しかし。
もう一匹が背後から迫る。
「しまっ――」
間に合わない。
そう思った瞬間。
身体が軽く動いた。
以前より速い。
ぎりぎりで避ける。
「……?」
自分でも驚く。
そして。
反撃。
最後の一匹が倒れる。
⸻
森に静けさが戻る。
悠真は息を整える。
「勝った……。」
でも分かっている。
楽勝ではなかった。
まだまだ経験不足。
もっと強くならなければならない。
⸻
ギルドへ戻り、依頼を報告する。
「薬草、確認しました。」
受付嬢が頷く。
「依頼達成です。」
その横に置いたウルフの素材。
受付嬢の表情が変わる。
「……ウルフ?」
「途中で襲われました。」
「一人で討伐を?」
周囲の冒険者が振り向く。
「Fランクだろ?」
「初依頼で?」
ざわめきが広がる。
悠真は困ったように笑った。
「必死だっただけです。」
⸻
その時。
青い光が浮かぶ。
⸻
【クエスト達成】
薬草を10本採取せよ。
報酬:
スキルを獲得。
⸻
【身体強化】
⸻
「身体強化……。」
拳を握る。
確かに分かる。
ほんの少し。
でも、自分の身体が変わった。
「今の俺には……これが必要だったのか。」
⸻
「お疲れ様です。」
聞き覚えのある声。
振り向く。
リシェルだった。
「初依頼を終えましたか?」
「うん。」
リシェルはウルフの素材を見る。
「……無茶をしましたね。」
「そんなに?」
「はい。」
即答。
悠真は苦笑する。
しかし。
「ですが。」
リシェルは続ける。
「以前より動きは良くなっています。」
「成長しているようですね。」
初めて認められた気がした。
⸻
夜。
二人で宿を探す。
しかし。
「満室です。」
「こちらも空きがありません。」
何軒回っても見つからない。
「今日は野宿かな。」
悠真が言う。
「許可できません。」
リシェルが即答する。
「え?」
「疲労した状態での野営は危険です。」
少し考える。
「私の家へ来てください。」
「でも……。」
「客室があります。」
騎士らしい真っ直ぐな声。
「これは判断です。」
「分かった。」
悠真は笑った。
⸻
リシェルの家。
静かで落ち着く場所だった。
剣は丁寧に手入れされている。
本棚には古い書物。
騎士らしい、整った部屋。
ソファに座った瞬間。
疲れが一気に押し寄せる。
「今日は休んでください。」
リシェルの声。
「……ありがとう。」
瞼が重くなる。
すると。
淡い光が現れた。
「また……時間か。」
リシェルを見る。
「また来るよ。」
「はい。」
リシェルは静かに頷く。
「その時は、無事な姿を見せてください。」
その言葉を最後に。
悠真の身体は光に包まれた。
⸻
目を開ける。
見慣れた天井。
「……戻ってきた。」
いつもの部屋。
いつもの日常。
夢だった。
そう思いたい。
しかし。
「……。」
枕元に何かがある。
手を伸ばす。
そこにあったのは――
王都冒険者ギルドカード。
「……なんで。」
悠真は言葉を失う。
夢の中のものが。
現実世界に存在している。
カードの裏。
読めない文字が、ほんの一瞬だけ光った。




