神殿の違和感
朝。
悠真たちは、再び風の神殿を目指して歩いていた。
しばらく進み、神殿へと続く巨大な蔓の前までたどり着く。
蔓を見上げながら、フィルが口を開いた。
「今日は何も言いません。」
「いや、言ってるし。」
悠真がすぐに返すと、ミリアがフィルの隣で笑う。
「フィルちゃん、今日も頑張りましょう。」
「はいです〜。」
悠真たちは巨大な蔓の上へと足を踏み出した。
空へ向かって伸びる蔓を、ひたすら歩いていく。
しばらくして――。
ようやく風の神殿の入口までたどり着いた。
「ここで一度、休憩しましょう。」
「はいです〜。」
「分かりました。」
それぞれが足を止め、身体を休める。
ゼノンもその場に腰を下ろし、大きく息を吐いた。
「さすがに疲れたぞ。」
その姿を見て、ツバキが少し意外そうに笑う。
「ゼノンも疲れるのね。」
「当たり前だ。もう少し年寄りをいたわらんか。」
「ふふっ。」
神殿へ入る前の、束の間の休息。
悠真たちはしばらくそこで身体を休めることにした。
◇◇◇
しばらく休憩したあと、悠真は立ち上がった。
「みんな、行きましょう。」
悠真たちは再び神殿の中へと入り、五階層まで何事もなく降りてきた。
そして、前回たどり着いた巨大な扉の前に立つ。
悠真は扉を見上げたあと、隣にいるフィルへ声をかけた。
「フィル、どう? 何か感じる?」
「はい。はっきりと感じます。ただ……」
フィルは巨大な扉を見つめる。
「今は、助けを呼んでる感じがします。」
「え? なら、急いだ方がいいか」
悠真はすぐに扉へ視線を戻した。
「フィル、お願い。」
「はい。」
フィルは巨大な扉へ近づき、その中心にある魔石に手を触れる。
そして、ゆっくりと魔力を流し込んだ。
魔石が淡く輝き始める。
その光は中心から伸びるように、巨大な扉一面へと広がっていった。
やがて――。
ゴゴゴゴゴ……。
重い音を神殿内に響かせながら、巨大な扉がゆっくりと開き始めた。
扉の先へ足を踏み入れた瞬間、悠真たちは今までとは違う、わずかな違和感を覚えた。
これまでの神殿では感じなかった、邪悪な気配。
それは、神龍たちから感じたものとよく似ていた。
「いつも、こんな感じなのか?」
リシェルが周囲を警戒しながら尋ねる。
「いや、今回は違う感じだ」
悠真も表情を引き締める。
「急ごう。」
「分かった。」
「はい。」
悠真たちは足早に階段を降り、六階層へと向かった。
◇◇◇
六階層へ足を踏み入れて間もなく、フィルが前方を見つめる。
「ゲイルリザードです。でも、少し変ですね」
その視線の先には、一体のゲイルリザードがいた。
だが、その身体からは黒い邪悪な霧が立ち昇っている。
ゲイルリザードが悠真たちに気づいた。
次の瞬間――。
地面を蹴り、一気に飛びかかってくる。
「っ!」
悠真はすぐさま《魔力障壁》を展開した。
ガンッ!
ゲイルリザードが障壁へ激突する。
それでも止まらない。
障壁があるにもかかわらず、鋭い爪を振るい、牙を剥き出しにして襲いかかろうとしてくる。
「明らかにおかしいです!」
フィルが叫ぶ。
リシェルとミリアが左右へ分かれた。
二人の斬撃がゲイルリザードの身体を捉える。
だが――。
傷を負っても、ゲイルリザードは二人に見向きもしない。
その視線は、まっすぐフィルへ向けられていた。
その様子を見たツバキが声を上げる。
「フィルは悠真さんの《魔力障壁》の後ろにいて。」
「分かりました。」
そこへゼノンが踏み込んだ。
斧に炎をまとわせ、ゲイルリザードへと斬りかかる。
「これはいい。隙だらけだ。」
ザンッ!
ゼノンの斧が、ゲイルリザードの首を斬り落とした。
その身体が力を失い、地面へと倒れる。
「怖かったです〜。」
フィルがほっとしたように息を吐く。
ツバキは倒れたゲイルリザードを見つめながら、考え込む。
「どうしてかしら。邪悪な霧が出ていたけど、適合者を襲うことと何か関係があるのかしら……」
「フィルは次からも、俺から離れないでいてくれ。」
「分かりました〜。」
悠真は続けてツバキを見る。
「ツバキさんも、念のためフィルと一緒にいてください。」
「分かったわ。」
すると、リシェルが頷いた。
「私とミリアとゼノンで攻撃に回ります。」
「よろしく頼む。」
今までとは明らかに違う神殿。
その異変に戸惑いながらも、悠真たちは次の階層へと進んでいった。




