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夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第4章「遺跡編」

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風と予感

悠真たちは神殿を上り、一階層の入口まで戻ってきた。


目の前には、地上へと続く巨大な蔓が伸びている。


それを見たフィルが、思い出したように声を上げた。


「あっ、そうでした〜。今度はこの蔓を下って行かなきゃでした〜」


「ほら、行くよ」


悠真が蔓の上を歩き出す。


「フィルちゃん、行きましょ」


ミリアに促され、フィルもその後に続いた。


「悠真さんはいいですよ〜。空飛んでいけますもんね〜」


「いや、行かないよ。あれは戦闘中だったからさ」


「ホントですか〜?」


疑うような視線を向けるフィルに、悠真は苦笑する。


そうして一行は、巨大な蔓の上を歩きながら地上へ向かって下っていった。


その途中――


突然、激しい突風が吹きつけた。


「っ!」


全員がとっさに姿勢を低くし、風に耐える。


だが――


「キャッ!」


二人の声が上がった。


「ツバキ!」


ゼノンが叫ぶ。


「大丈夫よ。この子がとっさに捕まえてくれたから」


ツバキは、自分の身体を支えている土の龍核兵へ目を向ける。


「ありがとね」


そして、それとほぼ同時に――


「リシェル!」


悠真の声が響いた。


突風に煽られたミリアをとっさに庇ったリシェルが足を滑らせ、その身体が蔓の上から投げ出されていた。


「くっ!」


悠真は迷うことなく足場を蹴った。


そのままリシェルを追って宙へ飛び出す。


「悠真!」


落下するリシェルへ追いつくと、その身体を掴み、強く抱き寄せた。


「悠真! お前まで落ちてしまうぞ!」


「大丈夫だ! ほら、俺、空飛べるみたいだからさ」


悠真はリシェルを抱えたまま、空中で足を踏み込む。


――空を蹴る。


もう一度。


さらにもう一度。


落下する勢いに逆らうように何度も空を蹴りながら、少しずつ二人の落ちる速度を緩めていった。


しばらくすると、眼下に地面が見えてきた。


悠真はリシェルを抱き抱えたまま、落下する勢いをさらに弱めていく。


そして――


最後にもう一度、空を蹴った。


二人の身体がふわりと浮き、そのまま地面へと着地する。


「リシェル。大丈夫か?」


悠真の腕の中で、リシェルがそっと目を開ける。


一度悠真の顔を見て、それから地面へ視線を落とした。


「大丈夫だ。……ありがとう」


「そっか。よかった」


「…………」


リシェルは少しの間、そのままでいたが――


「……悠真、そろそろおろしてもらっていいか?」


「あ、……うん」


悠真はそこでようやく気づいたように、抱えていたリシェルをそっと地面へ下ろした。


「しばらく休んでいようか? まだみんなが降りてくるのは時間がかかると思うし」


「……わかった」


リシェルは少し恥ずかしそうに答えた。


それからしばらくして、巨大な蔓を下ってくる仲間たちの姿が見えてきた。


やがて、まだ少し離れたところからフィルの声が響く。


「リシェルさ〜ん! 大丈夫ですか〜!」


「ああ、大丈夫だ。心配かけたな」


全員が無事に地上へ降りると、ミリアが申し訳なさそうにリシェルへ頭を下げた。


「……すみません。自分のせいでこんなことになってしまって」


「大丈夫だから。それに、ミリアも怪我がなくてよかった」


「ホントに無事でよかった。悠真さんも」


ツバキも二人の無事を確認し、ほっとしたように息をつく。


「お〜、焦ったぞ。でも、悠真が助けたからよかったな」


ゼノンの言葉に、悠真は苦笑した。


するとフィルが、何かを思い出したようにリシェルを見る。


「そういえば、リシェルさんは悠真さんに抱き抱えられたところまで見えたんですけど〜、その後はどうだったんですか〜?」


「どうだったって……普通に降りてきただけだが……」


「そうだよ。普通に降りただけ……」


悠真もどこか歯切れ悪く答える。


「……そんなことより、ソレイアに戻ろう」


「はーい」


「はい」


「そうね」


「そうだな」


一行は再び歩き出し、ソレイアへと戻っていった。


◇◇◇


しばらく歩いていると、前方にソレイアの街が見えてきた。


「みんな、このまま族長のところへ行ってもかまわないか?」


悠真が尋ねると、リシェルが頷いた。


「私はそのつもりだったから大丈夫だ」


「自分も大丈夫であります」


「はい。大丈夫です〜」


「私もかまわないわ」


それぞれが答える中、ゼノンだけが足を止めた。


「俺はこいつらと留守番しとる」


ゼノンが視線を向けた先には、二体の龍核兵がいる。


戦闘では大型まで巨大化していた龍核兵たちも、ツバキの《古代錬成》によって、今では小さな姿へと戻っていた。


「そうですね。では、よろしくお願いします」


「ああ」


ゼノンと別れた悠真たちは、そのままソレイアの街へ入った。


街を歩き、族長の館へ辿り着く。


しかし、門番にナディアの居場所を尋ねると、返ってきたのは予想外――いや、どこか納得してしまう答えだった。


例のスパイス屋へ向かったという。


「……あいかわらずね」


ツバキが呆れたように呟く。


悠真は少し考えてから、みんなを見た。


「どうせならカレーを食べて帰りますか? ゼノンさんの分はお持ち帰りしましょう」


「そうね」


「いいですね〜」


悠真たちは館を後にし、スパイス屋へ向かった。


店へ近づくにつれ、香ばしいカレーの匂いが漂ってくる。


そして――その香りに負けないほど、ひときわ大きな声が聞こえてきた。


「店主〜! このカレーは美味いな〜! これなら、いつでも外に出せるな〜!」


聞き覚えのある声に、ツバキがため息をつく。


「ナディア! まったくあなたってば。今日は神殿の調査があるって言ってあったでしょ。そしたら、また館に居ないじゃない」


「おう、ツバキじゃね〜か」


ナディアは悪びれる様子もなく振り返った。


「悪いな〜。カレーが完成したって言うから、気になって来てしまったんだよ〜。お前らも座ってカレー食べてけよ」


「やったです〜」


嬉しそうなフィルの声が上がる。


悠真たちも席につき、それぞれカレーを食べ始めた。


「う〜ん」


フィルが幸せそうに頬を緩める。


「はは。美味いか? 悠真のおかげだな!」


「そんなことはないです」


悠真は苦笑しながら答えた。


そして食事をしながら、神殿で起きたことをナディアへ話していく。


一通り話を聞き終えると、ナディアが口を開いた。


「そうか、扉は出現してたか」


「はい」


「で? 開きそうか?」


「いや、そこまでは試してみないと分かりません」


その時だった。


それまでカレーに夢中になっていたフィルが、ふと顔を上げる。


「あの〜、じつはあの時、なんか扉に呼ばれたような気がして……」


全員の視線がフィルへ集まった。


「分からないですけど、なんかそんな感じがしたんです〜」


「……やっぱり、そうだったのね」


ツバキが静かに呟く。


「あの時、あなたを見てそう思ったのよ」


「え?」


「じつは私もね、土の神殿の扉の前で呼ばれてる気がしたの。でも、気のせいだと思ってたんだけど……」


ツバキは少し考えるように間を置いた。


「そうでは、ないみたいね」


「ゼノンさんは何も感じてなさそうでしたけど」


悠真が言うと、ツバキが小さく笑う。


「ゼノンは、そういうことはきっと疎いのよ」


「確かに」


悠真も思わず笑った。


「なら、フィルが適任者なのか?」


ナディアの問いに、悠真はフィルを見る。


「分かりませんが、可能性はありそうですね」


「私もそう思います」


リシェルも頷いた。


「分かった。引き続き神殿の調査は任せる」


「はい」


「分かりました」


話がまとまったところで、フィルが再びカレーを口へ運ぶ。


「やっぱり美味しいです〜」


「お前は切り替えが早いな」


悠真が笑うと、みんなからも笑い声がこぼれた。


神殿の調査は、まだ始まったばかり。


それでも今は――目の前のカレーを楽しむことにした。

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