交わる力
悠真たちは階段を下り、三階層へと足を踏み入れた。
周囲を見渡したフィルが、すぐに前方を指さす。
「次は、ストームホークですね。ナディアさんから聞いた通りです」
その先には、三体の魔物がいた。
鷲によく似た姿をしているが、その身体はひと回りもふた回りも大きい。
翼を広げれば、三メートルはありそうだった。
「でかいな……」
悠真が呟いた、その時だった。
一体のストームホークが翼を大きく広げ、こちらへ向かって急降下する。
そして身体を勢いよく回転させながら、悠真たちへ突っ込んできた。
「っ――!」
悠真は咄嗟に手を前へ出す。
「《魔力障壁》!」
ガンッ!
激しい衝撃音とともに、ストームホークが魔力障壁へと激突した。
弾かれたストームホークの身体が大きくよろめく。
その一瞬を、リシェルは見逃さなかった。
「はっ!」
ザンッ!
鋭い斬撃が走る。
ストームホークの身体は、新しく生まれ変わったリシェルの剣によって真っ二つに斬り裂かれた。
「さすが」
悠真が声をかけると、リシェルは剣を構えたまま答える。
「悠真が咄嗟に《魔力障壁》を張ってくれたおかげだ」
仲間を倒された残りの二体は警戒するように距離を取り、左右へと分かれた。
そして同時に翼を広げ、攻撃態勢に入る。
「《アイスアロー》!」
フィルが放った無数の氷の矢が、左側のストームホークへと飛んでいく。
同時に、ツバキが地面へ手をついた。
「《錬成》」
右側のストームホークの足元から、何本もの石柱が一気に伸びる。
左のストームホークは、迫り来る氷の矢を翼を翻しながら次々とかわしていく。
だが――その先には、すでにミリアがいた。
双剣に風を纏わせ、一気に距離を詰める。
「はっ!」
ザザザンッ!
風のような速さで繰り出された三連撃が、ストームホークを斬り裂いた。
そして右側。
地面から伸びる石柱をかわしたストームホークの先へ、ゼノンが踏み込む。
「おらぁ!」
ザンッ!
振り抜かれた斧が、ストームホークを捉えた。
ほぼ同時だった。
左右に分かれていた二体のストームホークが地面へと落ちる。
「……すごい。いつの間にか連携になってましたね」
悠真が感心したように言う。
「はいです〜。さすが、ミリアちゃんです〜」
「いえ、フィルちゃんの魔法のおかげです」
ミリアが微笑む。
ツバキもゼノンへ視線を向けた。
「ゼノンも、よくそこで合わせましたね」
「ツバキならよ、そうくると思ってたからな。ガハハハ!」
その様子を見ていたリシェルも微笑む。
「みんな、すごいです」
悠真は倒れたストームホークを確認すると、奥へと続く道へ目を向けた。
「さて、次の四階層へ行きますか」
「はい」
「はいです〜」
一行はそのまま、四階層へと続く階段へ向かった。
四階層へと続く階段を下りながら、フィルが口を開いた。
「次はゲイルマンティスですね」
その名前を聞いた悠真が、ぴくりと反応する。
「え? マンティスってことは……カマキリ?」
「カマキリは分かりませんが、昆虫系の魔物ですね」
「虫系か……」
悠真の表情が、わずかに曇った。
それを見たゼノンが思い出したように笑う。
「そういや前に、蜘蛛の魔物の時も逃げたっけな」
「そうなのか?」
リシェルが意外そうに悠真を見る。
「悠真も苦手なものがあるんだな」
「そうだったんですか〜? 知らなかったんですけど〜」
フィルが首を傾げ――すぐに何かを思い出した。
「あっ。前に分かれて討伐依頼を受けた時ですね〜」
ニヤニヤしながら悠真の顔を覗き込む。
「……虫系って、なんか苦手なんだよ〜」
悠真は少し嫌そうな顔をしながら続ける。
「蜘蛛はもっとやばい」
その様子を見ていたツバキが、くすりと笑った。
「それなら、次はこの子たちに任せましょうか?」
するとゼノンが待ってましたと言わんばかりに声を上げる。
「やっと出番か〜」
やがて階段を下りきり、悠真たちは四階層へと到着した。
ツバキはすぐに前へ出る。
「悠真さん、炎鉱石を出してください」
「はい」
悠真が《アイテムBOX》から炎鉱石を取り出す。
ツバキはそれを受け取ると、二体の龍核兵へ手を触れた。
「《古代錬成》」
炎鉱石が形を変え、火の龍核兵を包み込んでいく。
その姿は次第に大きくなり、二メートルほどのリザード型へと変化した。
さらに土の龍核兵には四階層の床を構成する石を使い、その身体を二メートルほどの重騎士型へと作り変えていく。
続けてツバキは石から盾と剣を錬成する。
「《物質の昇華》」
錬成された盾と剣がさらに強化され、土の龍核兵へと手渡された。
重騎士型の龍核兵が、大きな盾を構える。
ツバキがその姿を確認すると、正面へ視線を向けた。
「いいわ。あなたはゲイルマンティスの真正面からいきなさい」
続いてゼノンが、リザード型の火の龍核兵へ声をかける。
「お前は、土の龍核兵がマンティスを抑えたら、腕の鎌の部分を食いちぎれ」
二体の龍核兵は、言葉を理解したように頷く。
そして――
それぞれの役目を果たすため、すぐさま行動へ移った。
土の龍核兵は大きな盾を構え、真正面からゲイルマンティスへと向かっていく。
それに気づいたゲイルマンティスが、両腕の巨大な鎌を振り下ろした。
ガンッ!
鋭い鎌が盾へと叩きつけられる。
さらに何度も鎌を振るうが、強化された盾はびくともしない。
その表面に傷をつけるのが精一杯のようだった。
土の龍核兵は盾で攻撃を受け止めながら、ゲイルマンティスの動きを正面から抑え込む。
その隙に――
火の龍核兵が横から一気に飛びかかった。
ゲイルマンティスの左腕へと噛みつく。
そして、そのまま――
ブチッ!
巨大な鎌を根元から食いちぎった。
片方の鎌を失ったゲイルマンティスの身体が、大きくよろめく。
「今よ!」
ツバキの声が響く。
土の龍核兵は盾を引き、土の大剣を大きく振りかざした。
ザンッ!
大剣がゲイルマンティスの胴体を捉え、その身体を真っ二つに切り裂く。
上下に分かれた身体が、床へと落ちた。
「やった――」
「まだです!」
フィルの声が響く。
「昆虫系の魔物は――」
その時にはすでに、地面へ落ちたゲイルマンティスの上半身が動き出していた。
残された右の鎌を振り上げ、土の龍核兵へ飛びかかろうとする。
「大丈夫だ」
ゼノンは慌てる様子もなく言った。
その直後――
ゲイルマンティスを追うように走り込んでいた火の龍核兵が、背後からその首へと噛みついた。
そして――
ブチッ!
首を食いちぎる。
今度こそゲイルマンティスは完全に動きを止め、その身体が床へと崩れ落ちた。
フィルが目を丸くしてゼノンを見る。
「知ってたんですか?」
「そりゃ〜、な?」
ゼノンがツバキへ視線を向ける。
「ええ。昆虫系の魔物は、首を落とさないとしばらく動くのでしょ?」
「そうだったの? 知らなかったな〜」
悠真が驚いていると、リシェルが小さく笑う。
「悠真はこの世界の人間ではないから、しょうがないよ」
そしてリシェルは、奥へと続く道へ視線を向けた。
「さて、次はいよいよガーディアンか」
「たぶんね」
悠真もその先を見つめる。
「気を引き締めていこう!」
悠真たちは気持ちを切り替え、五階層へと続く道へ歩き出した。




