必要な素材
宿の一室。
光に包まれながら、悠真は夢世界へと戻ってきた。
ゆっくりと目を開ける。
「戻ってきたか……」
そこは、リシェルと話している途中で現実へ戻った、あの部屋だった。
窓から外を見ると、すでに日は高く昇っている。
「もう、お昼時かな……」
悠真は部屋を出ると、とりあえず一階へ降りてみることにした。
階段を降りていると、ちょうど宿の入口が開く。
「ただいま戻りました〜」
聞き慣れた声とともに、フィルたちが宿へ入ってきた。
「あっ!」
悠真に気づいたフィルが、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「悠真さん、おかえりなさ〜い!」
「ああ、ただいま」
悠真は笑って答えると、その後ろにいたリシェルへ視線を向けた。
「リシェルも、ただいま。今日はありがとな」
「悠真、おかえり」
リシェルは微笑んだ。
「いや、私たちの武器を強化するためだから、むしろ礼を言うのは私たちの方だ」
だが、すぐに驚いたような表情を浮かべる。
「それにしても、お前たちはどんな経験を積んできたんだ!?」
「え?」
「フィルの魔法に、ツバキさんの錬成。それにゼノンさんの盾役と、とどめなんてすごい威力だったぞ!」
リシェルは興奮した様子で話を続ける。
「それに、この子たち!」
そう言って、龍核兵へ目を向けた。
「龍核兵だという説明は受けていたが、急に大きさまで変わった時は驚いたぞ!」
「あ〜……」
「私たちは、ほとんど素材を採取しているだけだった……」
少し複雑そうな表情を浮かべるリシェルに、悠真は苦笑した。
「ま〜、神殿の調査やら何やらで、いろいろありまして……」
「いろいろで済ませるような経験じゃないだろ……」
リシェルは呆れたようにため息をついた。
すると、ゼノンが悠真へ声をかける。
「それより悠真。素材なんだがよ〜」
「はい?」
「リシェルの分はいいとして、ミリアの分はちと足りね〜な」
「どうしてでありますか?」
ミリアが不思議そうに首を傾げる。
ゼノンはミリアが腰に下げているショートソードを見る。
「ミリアはショートソードを使ってるけどな〜。お前はスピードがいい」
「はい」
「だから、もう少し短くして双剣にした方が、お前には合ってるんだよ」
「ホントでありますか?」
ミリアの表情が明るくなる。
「ああ。だから、お前の良さを活かす武器にするためにも、風鉱石が必要なんだ」
「風鉱石?」
「でもよ〜、風鉱石は風の神殿の近くで採れる鉱石だから、この辺じゃ手に入らね〜」
ゼノンは悠真を見る。
「だから悠真。明日、お前が行って採掘してこい!」
「僕が?」
「ああ。俺はその間にリシェルの剣を打ち直してるからよ」
「はい。分かりました」
悠真は頷くと、リシェルを見る。
「それなら、リシェルは武器がないから、ゼノンについていてくれ」
「ああ。分かった」
「ミリアはどうする?」
「自分でありますか?」
ミリアは一瞬驚いたものの、すぐに力強く答えた。
「もちろん行くであります。自分の武器のためでありますから!」
「ミリアちゃんが行くなら、私も行きます〜」
フィルがすぐに手を上げる。
すると、ツバキは少し考えてから口を開いた。
「私は今日採取した薬草を使って、明日は薬品を精製することにするわ」
「分かりました」
悠真は全員を見回す。
「では、そうしましょ〜」
こうして翌日は、それぞれ分かれて準備を進めることになった。
◇◇◇
その日の夜。
悠真たちは宿の食堂で夕食をとることにした。
テーブルには料理が並び、全員で食事を囲んでいる。
そんな中、リシェルは悠真たちのそばにいる龍核兵へ視線を向けた。
「それにしても、この龍核兵とは変わったものだな」
「ん?」
「今は人形みたいで可愛いが、戦闘になると二メートルくらいの重騎士になったぞ!」
興味深そうに龍核兵を眺めるリシェルを見て、悠真は小さく笑った。
「クス。リシェルでも可愛いとか感じることもあるんだな」
「失礼な! 私だって、可愛いと思う時もあるに決まってるだろ……」
そこまで言って、リシェルはハッとする。
みんなの前で言ってしまったことが恥ずかしくなったのか、少し頬を赤くした。
「そうなのか? なら、抱っこするか?」
「なっ……!」
「ツバキさんの娘のスズちゃんなんて、一緒に遊んでたよ?」
「もういい!」
リシェルは顔を赤くしたまま悠真から顔を逸らした。
その様子を見逃さなかった人物が一人。
「あれあれ〜?」
フィルが楽しそうに二人を見る。
「お二人とも、なんか再会した時よりもお仲がよろしくありませんか〜?」
「フィル……」
「そういえば〜、昨日の夜はリシェルさん、どちらに行かれてたんですかね〜?」
フィルはニヤニヤしながら続ける。
「私が部屋にお邪魔した後、いつの間にかいませんでしたけど〜」
「……!」
リシェルの顔がさらに赤くなった。
「フィル」
ツバキが苦笑しながら声をかける。
「あんまりからかうと、リシェルに怒られますよ」
「は〜い」
フィルは素直に返事をすると、すぐ隣へ視線を移した。
「ミリアちゃん、コレでも食べてお話ししましょ〜」
「じ、自分ですか? わかりました」
それまでゼノンのお酌をしていたミリアは、突然話を振られて戸惑いながら返事をした。
普段、騎士団ではほとんど見ることのない隊長の姿。
どう反応すればいいのか分からない様子で、リシェルとフィルを交互に見ている。
そして当の本人は――。
「……」
顔を赤くしたまま黙っていた。
「悠真もフィルも、私をからかわないでくれ……」
「ごめんごめん」
悠真は笑いながら謝る。
「リシェルも可愛いところがあるなと思ってさ〜」
「……」
リシェルは何も答えず、さらに顔を赤くした。
悠真はそんなリシェルを見ながら、龍核兵へと視線を戻す。
「あの龍核兵の核になる部分も、神龍からもらった物なんだ」
「そうなのか?」
「ああ。それと、認められたツバキさんとゼノンさんは、神龍から古代魔法も授かってね」
悠真はツバキとゼノンを見る。
「それで、龍核兵を錬成することもできるようになったんだ」
「そうなのか……」
リシェルは改めて龍核兵を見つめる。
「風の神殿ではどうなんだろうな。適合者ってのに、何か心当たりとかはあるのか?」
「まったく分からないよ」
悠真は首を振った。
「今までもそうだったし。たまたま一緒にいた人が適合者だっただけだよ」
「そうか」
「ま〜、なんとかなるよ。きっと」
その言葉に、リシェルは小さく笑った。
「クス。そうだな。悠真がそう言うなら、そうかもしれないな」
そしてミリアへ目を向ける。
「明日はミリアのためによろしく頼む」
「ああ、分かったよ」
「風の神殿は、この渓谷の山頂を目指した先にある」
悠真は宿の窓から外を眺める。
「ああ。あの雲に覆われているところだね?」
「そうだ」
リシェルは頷いた。
「あの辺はワイバーンなど、飛び回る魔物が多い。気をつけてくれ」
「分かった。ありがとうな」
悠真が答えると、リシェルも小さく頷いた。
食事をしながら交わされる、他愛のない会話。
笑い声が宿の食堂に響く中――。
こうして、ソレイアの夜は更けていった。




