それぞれの想い
宿へ戻ると、悠真たちはそれぞれの部屋へと戻っていった。
悠真も自分の部屋へ入り、ベッドに腰を下ろしてひと息つく。
しばらくゆっくりしていると――。
コンコン。
「はい?」
「リシェルだ。今いいか?」
「うん。いいよ」
ガチャ。
扉が開き、部屋着姿のリシェルが入ってくる。
「どうしたの?」
どこか懐かしい感じがして、悠真はそう尋ねた。
「いや……フィルが来て、ミリアと話が盛り上がっていてな……」
その言い方で、悠真はなんとなく察する。
「フィルにどうせからかわれたんだろ?」
「……」
リシェルは気まずそうに視線を逸らした。
(とても、悠真のことでいろいろ聞かれたなんて言えない……)
「そんなことないよ……」
その口調を聞いて、悠真が少し笑う。
「やっと、その口調になったね」
「え?」
「王都にいた時に、二人でいた時の感じ」
「だって、仕方がないじゃないか。みんな居るし……」
二人は顔を見合わせると、自然と笑った。
「確かにね」
少し間を置いて、悠真が尋ねる。
「それで、あの後はどうだった?」
「ああ。あの後、盗賊たちを王都まで護送して報告した後は、特別なこともなく、日々任務についていた感じかな」
リシェルはそこで少し言葉を止める。
「二人で住んでいたから、一人になって……少し寂しかった……」
「え?」
「ち、違う! やっぱり今のは無し!」
リシェルは頬を赤くして、そのまま黙り込んだ。
「そうか……」
悠真も少し照れながら続ける。
「俺も、リシェルと離れてからリシェルのことは気になってたよ」
「ホント?」
「うん。剣が折れて、ゼノンに打ち直してもらった時もさ。リシェルから預かった大事な剣だったから、戻ってきた時は本当に嬉しかった」
「……そうなんだ」
リシェルの頬がさらに赤くなる。
それを見た悠真も、なんとなく照れくさくなった。
「……」
「……」
気まずいような、でも嫌ではない沈黙が流れる。
その時――。
ゴーン!
悠真の頭の中に、鐘の音が鳴り響いた。
(え? 鐘の音!)
「リシェル!」
「はい!」
その直後、悠真の身体が光に包まれ始める。
「ごめん、急だけど行かなくちゃ」
「え?」
「明日のことは頼んでいいか?」
「わかった。いってらっしゃい」
「うん。いってきます」
悠真は光とともに、その場から姿を消した。
◇◇◇
目が覚めると、いつもの部屋だった。
悠真はぼんやりと天井を見つめる。
まだ、アラームが鳴る前だった。
「もう少し、寝てたかったかな……」
さっきまでリシェルと話していたことを思い出しながら、悠真はゆっくりと身体を起こす。
「さて、今日は会社に行って出張の報告しないとな」
ベッドから降りると支度を済ませ、会社へと向かった。
会社に到着した悠真は、そのまま会議室へ向かう。
部屋の前まで来ると、すでに蓮と美月が待っていた。
「おはよ〜」
「おはよ」
「おはようございます」
挨拶を交わしたところで、悠真は美月を見る。
「昨日は……ちゃんとまっすぐ帰りましたか?」
「う、うん」
「レポートはまとめましたか?」
「やったよ」
美月は少し恥ずかしそうにしていたが、いつもの美月に戻っていた。
その後、三人は会議室へ入り、出張の報告を行った。
そして――。
「では、三人ともよろしく頼むよ」
「はい。ありがとうございました」
会議を終え、三人は部屋を出た。
「何とかまとまりそうだな」
蓮が嬉しそうに話す。
「よし、今夜も飲みに行くか?」
「出張でも飲んでたじゃないか」
悠真は呆れたように答える。
「美月だって、そんなに頻繁だと迷惑だろ?」
「悠真さんがいるなら……」
「ん?」
「い、いえ!」
美月は慌てて首を振った。
「そうですね。今夜は帰ってやることがありますから。では、失礼します」
そう言って、美月は足早にその場を離れていった。
蓮は悠真へ顔を向ける。
「なら、悠真はどうだ?」
「ん〜、今日はアウトドアショップに行きたいしな〜」
「そうか。じゃあ、また今度な」
「おう」
それぞれ仕事へ戻り、その日は何事もなく業務を終えることになった。
「今日も作業が捗ったな〜」
悠真は仕事を終えながら、今日一日のことを振り返る。
「レベルが上がって、重たい物も楽に持てるようになったし、《鑑定》で物がどこにあるかすぐに分かるしな〜」
以前なら苦労していたことが、今では当たり前のようにできる。
「なにより《気配察知》で、事故が起こる前に判断できるのはすごく良かったな」
「俺……結構変わったんだな」
悠真は自分の手を見ながら、小さく笑った。
「さて、アウトドアショップに寄って帰ろ」
仕事を終えた悠真は、そのままアウトドアショップへ向かった。
◇◇◇
店に入り、必要な物を物色していると――。
「あんた、そんなに何に使うの?」
聞き覚えのある声に、悠真が振り返る。
「ん〜? 陽菜か?」
「陽菜か? じゃないわよ」
そこにいたのは、幼馴染の陽菜だった。
「こないだもいろいろ買ってったけど、何か多くない? どっか大人数で旅でもするわけ?」
「ち、違うよ。備えあればってやつだよ」
(何か、勘がいいんだよな〜)
「ふ〜ん」
陽菜は少し疑うように悠真を見る。
「ま〜、大事なお客様ですから〜。いいんですけど〜」
「な。ま〜、いいじゃん」
悠真は笑って誤魔化した。
すると陽菜が、少し期待するように悠真を見る。
「ならさ、また今度キャンプに連れてってよ。そしてさ、SUPでもサイクリングでもいいから、一緒にやろ? ね?」
「ん〜。蓮とかもか?」
「……急に誘ったら悪いから、二人で行こ!」
「わかった。なら、今度の連休でいいか?」
「うん! シフト合わせるね」
陽菜は嬉しそうに答えた。
「じゃ〜、店員さん。コレ下さい」
「は〜い。お会計ですね〜。ありがとうございま〜す」
陽菜はすぐに店員の顔へ戻り、悠真の会計を済ませる。
買った物を持って店を出た悠真は、駐車場で荷物を車へ積んでいく。
「悠真!」
声に振り返ると、店から陽菜が顔を出していた。
「ありがとうね! またね!」
「うん。陽菜もな!」
悠真は手を上げて返事をすると、車へ乗り込んだ。
その後も途中でいろいろと買い出しを済ませ、家へと向かった。
家に帰ると、買ってきた物を片付けながら、夢世界で必要になりそうな物を《アイテムBOX》へ入れていく。
「これと……これも入れとくか」
準備を進めながら、悠真はふと手を止めた。
「そういえば……今日は、あの違和感は何もなかったな〜」
ここ最近、現実で感じるようになった不可思議な違和感。
「なんだったんだろうな〜……」
少し考えてみるが、答えは出ない。
悠真は再び手を動かし始めた。
何も起こらなかったことを気にしながら――。




