知られざる真実
翌朝。
柔らかな朝日が宿の窓から差し込み、ソレイアの街には心地よい風が吹いていた。
朝食を済ませた悠真たちは、出かける準備を整える。
昨日、リシェルたちはナディアと、騎士団の任務について館で話をする約束をしていた。
ナディアと顔見知りのツバキも同席することになり、悠真たちも一緒に話を聞くことになった。
「それじゃ、行きましょうか」
ツバキの言葉に、悠真たちは宿を出た。
街を抜け、ナディアの館へ向かう。
館へ到着すると、門番に案内され、一行は応接室へと通された。
しばらくすると、ナディアが姿を現す。
「よく来たな。ま〜、座ってくれ」
「今日はよろしく頼むわね」
ツバキがそう言って席につく。
リシェルは姿勢を正すと、ナディアへ改めて挨拶をした。
「王都騎士団隊長、リシェルです。こちらは部下のミリアです」
「よろしくお願いしますであります」
「おう。よろしくな」
ナディアは二人に笑顔を向けると、席についた。
「風の神殿の調査だな。何か王都で進展があったのか?」
「はい」
リシェルが頷く。
「今までの神殿は五階層までしかなく、一階層には魔物がおらず、二階層からだんだん強い魔物が出る。それくらいしか分かっていませんでした」
「ま〜、そうだな」
「それが最近、土の神殿と火の神殿で変化があったと報告が入りました」
ナディアの表情が変わる。
「何!? それはどんなことだ?」
「五階層に扉が出現したと聞いております」
「扉?」
「はい。でも今は固く閉じられており、誰にも開けることができないそうです」
「そうか……」
「それで、王都の騎士団が各地の神殿の再調査を行うことになりました」
リシェルの話を聞きながら、悠真は首を傾げる。
(ん? それって……)
「他に何か分かったことはないのか?」
ナディアが尋ねると、リシェルは小さく首を振った。
「残念ながら……。でも、五階層では何か激しい戦闘の跡があるらしく、通常のCランク相当の魔物との戦闘では考えられないとのことです」
「この国にある風の神殿でも、扉は出ると思うか?」
「分かりません。とりあえず、調査に行ってみたいと思います」
「おう。よろしく頼む」
「あ、あの〜……」
悠真がおずおずと声を上げる。
「何だ?」
「その〜……」
悠真はツバキの方を見る。
ツバキは悠真と目が合うと、小さく頷いた。
「実は〜……土と火の神殿は、僕らが調査した時に扉が出現しまして〜」
「何ー!?」
「どういうことだ!悠真!?」
ナディアとリシェルが驚きの声を上げる。
「え〜と……どうも僕の《夢渡り》っていうのが、鍵? みたいになっているみたいで……」
悠真は頭をかきながら話を続ける。
「僕が神殿に踏み入れると、五階層に扉とガーディアンが出現するみたいなんです」
「ガーディアンだと!それに、何だ?夢渡りとは!」
聞き慣れない言葉に、ナディアが眉をひそめる。
すると、ツバキが口を開いた。
「夢渡りとは、この世界とは違う世界を行き来することのできる存在なんです」
リシェルが何かに気づいたように悠真を見る。
「王都にいた時も、度々光に包まれながら消えたり現れたりしていたな」
ナディアは、首を傾げた。
「そんなことがあるのか? 聞いたことがないぞ……」
「はい、そうなんです」
悠真は少し困ったように笑う。
「それで、扉は適合者がいないと開かないみたいです。土の適合者はツバキさんで、火の適合者はゼノンさんでした」
「適合者か……」
ナディアはツバキとゼノンを見る。
「そして、九階層には神龍がいて、邪悪な何かに取り憑かれそうになっていました。でも、フィルの浄化魔法でなんとか浄化に成功して、救うことができたんです」
その言葉に、リシェルがフィルを見る。
「フィル、そんなすごい浄化魔法まで使えるようになったのか?」
「へへ〜。いっぱい勉強しましたから〜」
フィルは嬉しそうに笑った。
「それから、十階層には祠があって、そこには古文書がありました」
悠真は話を続ける。
「ただ、千年も前の物みたいで、ほとんど読むことができませんでした」
「千年前か……」
「はい。今のところ分かっているのは、千年前、古代種、封印、七英雄、古代魔法……そして、『祠は鍵が揃いし時に目覚める』ということです」
ナディアとリシェルは、悠真の話を黙って聞いていた。
「それで、ソレイアに来たついでに風の神殿も調査してみようと思ってたんです」
「そうだったのか」
リシェルは少し考え込む。
「では、鍵は悠真と適合者ってことになるじゃないか……」
「おそらく……」
悠真が頷くと、リシェルは困ったように眉を寄せた。
「では、騎士団が調査に向かったところで何も進展しないではないか」
「そうなるかも……」
悠真は苦笑した。
すると、ナディアが突然豪快に笑い出す。
「ハハハ〜! では悠真は、風の神殿へ行っても扉は出現するが、適合者がいなきゃ結局は空振りになるかもしれないけど来たのか?」
「はい。実はついでと言うか、カレーのスパイスを手に入れるっていうのが目的というか……」
「ハハハ〜。そうか、それはいい〜。おかげで我々もカレーを知ることができたからな〜」
昨日のカレーを思い出したのか、ナディアは楽しそうに笑っている。
「悠真たちは、どうするつもりだったんだ?」
リシェルに尋ねられ、悠真は答える。
「僕たちは、とりあえず神殿に行けば扉は出現するから、それから考えればいいかなと……」
リシェルは少し呆れたように悠真を見る。
「まったく……悠真らしいな」
「ハハ……」
だが、すぐに表情を戻し、ナディアへ向き直った。
「では、私とミリアが悠真たちと一緒に神殿の調査へ向かいます。残りの騎士団は王都へ返し、報告をさせます」
「あんまし、大ごとにしてほしくないんだけど……」
悠真が困ったように言う。
「分かった。そのように伝える」
リシェルが頷くと、ナディアも大きく頷いた。
「では、悠真たちとリシェルたちに風の神殿の調査を任せる!」
「分かりました」
「はい」
「ツバキもよろしく頼む」
「分かったわ、ナディア」
話がまとまったところで、悠真はふと思っていたことを口にした。
「そういえば、どうしてツバキさんたちは知り合いなんですか?」
「それはね――」
ツバキが答えようとしたところで、ナディアが口を開く。
「それは私の娘が、病気になってな!」
「娘さんが?」
「ああ。この国の薬草では助けられなかったんだ。ちょうどそこに、月読の使者として来たのがツバキだったんだよ」
ナディアは当時を思い出しながら話を続ける。
「ツバキは娘の症状を確認して、その場で薬を精製してな。あっという間に治ったってわけよ〜」
「そうだったんですね」
「それからは、ツバキに薬品なんかを頼んで届けてもらったりしているんだ」
「ええ。でも……」
ツバキが呆れたようにナディアを見る。
「頼んだ本人が、いつも留守にしているもんですから……」
「悪いな。いてもたってもいられなくてな! 自分で外に出て解決したくなっちまうんだよ〜」
そんなナディアを見て、ツバキは優しく笑った。
「でも、それもこの人らしさだから、国民もナディアのことを慕っているのかもしれないわね。ふふ」
「そんなじゃね〜よ。照れくさいからやめてくれ」
ナディアは照れくさそうに顔を逸らした。
「今日はありがとうございました。とりあえず、明日は調査の準備をします」
悠真はリシェルを見る。
「リシェルもそれでいいか?」
「ああ、大丈夫だ」
リシェルが頷くと、ナディアが悠真たちを見回した。
「何か必要なものがあったら言ってくれ。なるべくこちらでも用意しよう」
「ありがとうございます」
悠真たちはナディアに礼を言い、館を後にした。
外へ出ると、ゼノンが口を開いた。
「とりあえず、嬢ちゃんたちの武器を強化しないとな〜」
「じゃ〜、明日は素材集めからしましょう」
悠真がそう言うと、リシェルが意外そうな顔をする。
「いいのか?」
「そのくらい、神殿の調査は大変ってことだから」
リシェルは悠真を見つめると、ふっと笑った。
「悠真も言うようになったな」
「ハハ。ま〜ね」
悠真も笑い返した。
頬を撫でる風は、どこまでも心地よかった。
明日もきっと、ソレイアには心地よい風が吹くだろう。




