つながるスパイス
朝。
悠真たちは朝食を食べ終えると、出かける支度を始めた。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はいです〜」
「打ち直した剣の確認でしたね〜」
「ああ。それと、せっかく魔物を討伐するなら、食材も確保したいしね」
「それなら、美味しい魔物がいいです〜」
フィルが嬉しそうに答える。
「結局、食べ物なのね」
ツバキが苦笑する。
「お前ら、何しに行くんだ?」
ゼノンが呆れたように言う。
「剣の確認ですよ〜」
「食材もです〜」
「…………」
ゼノンは何も言わず、斧を背負った。
四人は工房を出ると、冒険者ギルドへ向かった。
◇◇◇
ギルドへ入ると、フィルは真っ先に依頼書が並ぶ掲示板へ向かった。
「この依頼がいいです〜」
フィルが一枚の依頼書を指差す。
「フレイムボアの討伐か」
「はいです〜。これなら食材にもなりますよ〜」
「やっぱり食材で選んでるじゃないか」
「えへへ〜」
「まあ、いいんじゃない? これにしましょう」
「おう」
依頼を受けた悠真たちは、フレイムボアが目撃された山の麓へ向かった。
◇◇◇
山の麓へ着き、しばらく辺りを探していると――。
「いました〜」
フィルが指差す。
そこには、二体のフレイムボア。
そして、その奥には一回りどころではない巨大なフレイムボアクイーンがいた。
「相変わらず、クイーンはデカいな〜」
「ですね〜。オスが可哀想になります〜」
「…………」
悠真は苦笑する。
その時。
「こら、離れんか〜」
ゼノンの声が聞こえてきた。
見ると、火の龍核兵はゼノンの肩に乗ったまま、離れようとしていない。
「ふふ。ゼノンはそのままでいて」
「何でだ?」
「ここで炎なんて使われたら、辺り一面が燃えてしまうわ」
「う……分かった」
ゼノンは不満そうに答えた。
悠真はフレイムボアたちへ視線を戻す。
「では、ツバキさんと土の龍核兵は、クイーンを抑えててください」
「フィルと僕で、残りのボアを討伐します」
「分かりました〜」
「分かったわ」
ツバキは地面へ手をついた。
「《錬成》」
地面が大きく隆起し、クイーンの両側から巨大な岩の腕が現れる。
さらに――。
「《物質の昇華》」
岩の腕が硬度を増し、左右からクイーンの巨体を掴んだ。
「ブゴォォォッ!」
クイーンが激しく暴れ、岩の腕を振りほどこうとする。
そこへ土の龍核兵が正面から巨大な盾を押しつける。
クイーンの動きが完全に封じられた。
その時には、悠真はすでに動いていた。
「《アイスエンチャント》!」
手にした剣へ冷気が纏う。
「《瞬歩》!」
一瞬でフレイムボアとの間合いを詰め、そのまま剣を振り抜いた。
ザンッ――!
「ブギィッ――!」
フレイムボアの身体が斬り裂かれる。
綺麗に切れた切断面は、《アイスエンチャント》の冷気によって瞬く間に凍りついていった。
「……やっぱり、前より振りやすい」
悠真は手にした剣を見る。
切れ味だけではない。
握った時の感触も、剣を振った時の重さも、以前よりしっくりと手に馴染んでいた。
その時――。
「ブゴォォォッ!」
もう一体のフレイムボアが、フィルへ向かって突進する。
地面を蹴り上げ、巨体が一直線に迫る。
フィルは慌てることなく杖を構えた。
「《アイススピア》!」
目の前に巨大な氷の槍が形成される。
「いっけぇ〜!」
フィルが杖を振る。
ヒュンッ――!
氷の槍が勢いよく放たれた。
ドスッ――!
「ブギャァァッ!」
フレイムボアの横腹へ深々と突き刺さる。
突進の勢いを失った巨体は、そのまま地面へ倒れ込んだ。
残るはクイーン。
だが――。
「もう終わりよ」
ツバキが再び地面へ手をつく。
「《錬成》」
ズドドドッ――!
クイーンの真下から巨大な岩の槍が突き上がった。
「ブゴォォォォッ――!」
岩の槍が巨体を貫く。
クイーンはそのまま力を失い、動かなくなった。
「…………」
ゼノンが手にした斧を見下ろす。
「俺の斧はいつ使えるんだ?」
「ゼノンさんが斧を振ると、ボアが丸焼きになっちゃうから、また今度ですね」
「そうですよ〜」
フィルがニヤつきながら言う。
「…………」
ゼノンは不満そうに斧を背負い直した。
悠真は手にした剣をゼノンに見せる。
「ゼノンさん。どうですか?」
ゼノンは剣を見てから、悠真へ目を向けた。
「ああ。問題なさそうだな」
「よかった。これでリシェルから預かった剣も使える」
悠真は安心したように剣を見る。
「ええ。そろそろ戻りましょう」
ツバキの言葉に、みんなが頷いた。
その時――。
――――
【クエスト達成】
フレイムボアを討伐せよ。
LEVEL UP
Lv.57 → Lv.59
報酬:《調合》
簡単な薬品、調味料などが調合できる。
――――
「《調合》か」
悠真は新しく手に入ったスキルを確認する。
(調味料も作れるのか。料理にも使えそうだな)
新しいスキルの使い道を考えながら、悠真は仲間たちと冒険者ギルドへ戻った。
◇◇◇
「はい。確認できました」
受付嬢が討伐の確認を終える。
そして、少し驚いたように顔を上げた。
「クイーンも討伐したんですか?」
「そうなんですよ〜」
フィルが得意げに答える。
「それなら、今回の討伐でフィルさんはCランクに昇格です」
「ホントですか〜? やりました〜!」
フィルが嬉しそうに両手を上げる。
「よかったね、フィル」
「はいです〜」
新しくなったギルドカードを嬉しそうに眺めるフィルとともに、四人はギルドをあとにした。
◇◇◇
ギルドの依頼を終えた四人は、ゼノンの工房へ戻ってきた。
さっそく悠真とツバキは、持ち帰ったボアの解体を始める。
「悠真さんも、解体が上手になりましたね」
「そんなことないですよ。ツバキさんと比べたら、まだまだです」
「ふふ。最初に比べたら、ずいぶん手際がよくなったわよ」
一通り解体を終えると、一部はそのままアイテムBOXへ保存し、悠真は料理の仕込みを始めた。
ボアの肩ロースやバラ肉を大きめに切り分ける。
バラ肉には味をつけ、鍋でじっくりと煮込んでいく。
「悠真さん。これは何の料理ですか?」
「角煮というものです。出来上がりを楽しみにしていてください」
しばらくすると、肉の煮える匂いにつられてフィルがキッチンへ入ってきた。
「いい匂いです〜。ホント、悠真さんの料理は美味しそうです〜」
「あとは、ロースも焼いていきます」
熱したフライパンへ肉をのせる。
ジュウゥゥ――。
香ばしい肉の匂いがキッチンいっぱいに広がった。
「ん〜。これもいい匂いね」
「お酒にも合いそうだわ」
「ですね。きっと合うと思いますよ」
その横で――。
フィルの手が、焼き上がった肉へそっと伸びる。
「フィル」
「…………」
「つまみ食いしないで、テーブルに運んで」
「はーい。分かりました〜」
フィルは伸ばしていた手を引っ込め、皿を持っていった。
◇◇◇
テーブルに料理が並ぶ。
ゼノンも席に着いていたが、すでにエールを飲んでいた。
「はい。では、いただきます」
「いただきま〜す」
ゼノンが目の前の料理を見ながら尋ねる。
「これは何てのだ?」
「角煮です。それと、こっちはボアの生姜焼きです」
フィルがさっそく角煮を口へ運ぶ。
「ん〜! 角煮、柔らかくて美味しいです〜」
ツバキも生姜焼きを一口食べる。
「生姜焼きはご飯にも合うわね〜」
ゼノンはエールを飲みながら頷く。
「うん。美味い」
しばらく料理を楽しんでいると、フィルが口を開いた。
「どの料理も美味しいんですけど〜、そろそろカレー食べたいです〜」
「何だ? そのカレーとは?」
ゼノンが尋ねる。
「スパイスが効いてて、凄く美味しいのよ〜」
ツバキが答える。
「悠真さん、明日はカレーがいいです〜」
「ごめん。カレーの素を切らしててさ〜。買ってくるの忘れてたんだ」
「え〜! おつまみとかは準備がいいのに〜?」
「おい」
悠真は思わずツッコミを入れる。
「でも、リシェルと王都で買い物をしている時に、カレーの材料になるスパイスが売ってて、一度作ったことがあるんだよ」
「ホントですか〜?」
「ああ。その時に聞いたんだけど、そのスパイスは獣人の国から仕入れてきたものらしくてさ」
「獣人の国といえば隣の国じゃないか!?」
ゼノンの言葉に、みんなが顔を見合わせる。
「なら、次は獣人の国へ行ってみましょう」
ツバキの言葉に、フィルも頷く。
「そうですね。獣人の国には、風の神殿もありますから〜」
「スパイスも手に入るかもしれないしね」
「カレーです〜!」
フィルが嬉しそうに声を上げる。
「目的は風の神殿だからな?」
「分かってますよ〜」
悠真は笑いながら頷いた。
「よし。次は獣人の国へ行ってみよう!」
「はいです〜」
「ええ」
「おう」
次の目的地は――獣人の国。
風の神殿。
そして、カレーのスパイス。
新たな目的地へ向けて、悠真たちは再び旅立つことになった。




