一人旅の始まり
柔らかな風が森を吹き抜ける。
木漏れ日が揺れ、小鳥のさえずりが静かな朝を彩っていた。
その時――。
空中に小さな光の粒が現れる。
一つ、また一つと増え、無数の光が渦を巻き始める。
やがて人の形を作ると、眩い閃光とともに一人の青年が姿を現した。
「……戻ってきたか。」
神崎悠真は深く息を吸う。
森の匂い。
鳥の鳴き声。
頬を撫でる風。
もう夢ではなく、この世界の日常になりつつあった。
「リシェル?」
辺りを見回す。
だが、彼女の姿はない。
焚き火の跡だけが静かに残っていた。
近づくと、焚き火の横に革袋と一通の封筒が置かれている。
封筒には綺麗な字で書かれていた。
『神崎 悠真へ』
悠真は封を開いた。
⸻
神崎悠真へ
あなたが戻る前に、騎士団より王都への帰還命令を受けました。
本当は直接伝えたかったのですが、あなたがいつ戻るか分からず、任務を優先することにしました。
勝手に先に行ってしまうことを許してください。
あなたなら、一人でも王都まで辿り着けると信じています。
地図と短剣、少しですが旅の資金を入れておきました。
街道沿いを進めば、いくつか村があります。
困ったことがあれば、冒険者ギルドを頼ってください。
王都アルディアで待っています。
また会える日を楽しみにしています。
――王国騎士団 隊長 リシェル・フォン・アルディア
⸻
悠真は手紙を静かにたたみ、胸ポケットへしまった。
「……リシェルらしいな。」
少し寂しい。
でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
「一人でも来られるって、信じてくれてるんだよな。」
そう呟くと、小さく笑った。
革袋の中には数枚の銀貨と簡単な携帯食も入っていた。
そして王都までの地図と短剣。
「よし。」
「王都まで、一人で行ってみるか。」
その瞬間。
悠真の視界に青白いウィンドウが浮かぶ。
⸻
【メインクエスト】
王都アルディアへ向かえ。
報酬:???
⸻
「また出た……。」
相変わらず、この画面は自分にしか見えない。
何のために表示されるのかも分からない。
「まあ、行けば分かるか。」
悠真は地図を広げ、街道へ向かって歩き始めた。
⸻
昼過ぎ。
街道を歩いていると、一台の荷馬車が追いついてきた。
「兄ちゃん、どこまで行くんだ?」
恰幅のいい商人が声を掛ける。
「王都まで。」
「一人か?」
「はい。」
商人は豪快に笑った。
「若いのに度胸あるな!」
「途中の村で休むといい。」
「最近は街道も物騒だからな。」
「魔物ですか?」
「ああ。」
「特にこの先のリーフ村じゃ困ってるらしい。」
「冒険者も集まってるって話だ。」
リーフ村。
地図にも載っている最初の村だった。
「ありがとうございます。」
商人は手を振りながら去っていく。
悠真は空を見上げた。
青空がどこまでも続いている。
「せっかくだ。」
「この世界を楽しみながら行こう。」
現実世界でも休日になれば、キャンプ道具を車に積み、知らない景色を求めて出かけていた。
山。
湖。
森。
自然の中を歩く時間が好きだった。
この世界にも、きっとまだ見たことのない景色がたくさんある。
戦うためだけじゃない。
旅そのものを楽しみたい。
そんな気持ちが、自然と胸に湧き上がっていた。
やがて夕暮れ。
街道の先に小さな村が見えてくる。
木製の柵に囲まれた、のどかな村。
入口には――
『リーフ村』
と書かれた看板が立っていた。
しかし、その村の空気はどこか重い。
村人たちは不安そうな表情を浮かべ、武装した村人たちが慌ただしく行き来している。
「何かあったのか……?」
悠真は村へ足を踏み入れる。
すると、再び青いウィンドウが現れた。
⸻
【クエスト発生】
リーフ村を救え。
報酬:???
⸻
悠真は苦笑いを浮かべる。
「休憩くらいさせてくれてもいいんだけどな。」
そう言いながらも、足は自然と村の広場へ向かっていた。




