揺れる帰路
悠真たちは空港へ到着した。
「今回は時間にも余裕がありますね」
美月が時計を確認しながら言う。
「行きの便ではギリギリだったもんな〜」
「今回は、美月もいて助かったよ」
悠真がそう言うと、美月は首を横に振った。
「私は、大したことはしていません」
「悠真がマイペースなんだろ〜」
「そうみたいだね」
悠真は苦笑する。
「俺は少し空港を回ってくるから、蓮と美月は何か見ててよ」
「え?」
(何で?)
美月が不思議そうに悠真を見る。
(少しは気を遣わないとな)
「分かった。なら美月、あっち見てみようぜ」
(悠真、ありがとな)
「…………」
三人はそれぞれの思いを胸に、搭乗時間まで空港をぶらついていた。
◇◇◇
帰りのフライトは順調だった。
座席は行きと同じく、窓側から悠真、美月、蓮の順番で並んでいる。
蓮は早々に眠っていた。
悠真と美月は、仕事のことや福岡での出来事を話していた。
「空港では、一緒に行動してもよかったじゃないですか?」
「い、いや、俺も一人で回りたかったんだよ〜」
その時――。
「……!」
悠真の《気配察知》が何かを捉えた。
(今度は……行きの時よりもでかい!)
大気が揺れ、飛行機が振動し始める。
ポーン。
シートベルト着用のランプが点灯した。
ガタンッ!
突然、機体が大きく高度を落とす。
「きゃあ!」
「うわっ!」
機内のあちこちから悲鳴が上がった。
「うわ……めっちゃ落ちたな〜」
蓮もさすがに目を覚ました。
「…………!」
美月は目を閉じ、無言で悠真にしがみついている。
悠真は窓の外を見た。
「…………」
何かが飛行機の横を飛んでいる。
(何だ? あれは?)
他にも窓の外を見ている乗客はいるが、誰もそれに反応していない。
(俺だけなのか?)
「な〜、美月。外のやつって何か見える?」
「……え?」
美月はそっと目を開け、窓の外を見る。
「空しか見えませんけど?」
「…………」
美月は、はっとして悠真から手を離した。
(やっぱり、他の人には見えていないのか……)
悠真は再び窓の外を見る。
その姿をはっきりと捉えた。
(ワイバーン!?)
夢世界にいるはずの魔物だった。
(何でここに、夢世界の魔物が……)
すると、ワイバーンが機体に向かって突っ込んできた。
「まずい!」
ドォーン!
機体が大きく揺れる。
「きゃあああ!」
周りの乗客が一斉に声を上げた。
何とか機体は持ち直す。
(このままじゃ、墜落する!)
ワイバーンが旋回し、再びこちらへ向かってきた。
(また来る! 次はさっきより勢いがある!)
「《魔力障壁》!」
悠真は小声で唱えた。
ワイバーンが見えない壁に激突する。
ズズンッ!
機体への直撃は防いだものの、衝撃は伝わってくる。
「…………!」
美月は目を固く閉じ、お構いなしに悠真へ抱きついた。
「うおっ!」
蓮もシートにしがみついている。
(でも、このままじゃまずい!)
悠真は機体を見る。
(機体は物質だから……もしかしたら!?)
「《ウィンドエンチャント》……」
小さく唱える。
機体が風の幕に覆われた。
(できた!)
悠真は再びワイバーンを見る。
「《ウィンドカッター》……!」
風の刃がワイバーンを捉える。
その身体は真っ二つに切り裂かれ、海へと落ちていった。
「ふぅ〜……なんとかなったな〜」
悠真は大きく息を吐く。
「美月、蓮。もう大丈夫だぞ」
「…………」
美月はまだ悠真にしがみついたまま震えている。
「…………」
蓮もようやくシートから手を離した。
◇
その後、飛行機は無事に目的地へ着陸した。
「いや〜、なんかすごかったな〜」
機内を出た蓮が振り返る。
「キャビンアテンダントの人たちも大慌てだったな〜」
「ほんと、みんな無事でよかった」
悠真が答える。
「大袈裟だな〜」
蓮はふと思い出したように悠真を見る。
「そういえば悠真。あの時、何で両手広げてたんだ?」
「えっ?」
一瞬、悠真の表情が固まる。
「あ、あれは……危ないって思って、前の席に手を伸ばしたんじゃないかな〜。アハハ……」
「ふ〜ん」
(危なかった……)
悠真は小さく息を吐いた。
「…………」
美月は先ほどのことを思い出し、顔を赤くしていた。
「お、お疲れさまでした。明日も仕事なので、今日は帰ります」
「お疲れさま」
美月は足早に、どんどん先へ行ってしまった。
「さて、俺たちも帰ろーぜ」
蓮が歩き出す。
「どうせ空港から電車で帰るのは、途中まで同じなのにな〜」
「そうだな」
二人も美月のあとを追うように駅へ向かった。
◇
駅のホームへ着くと――。
「あっ」
悠真が足を止める。
「…………」
そこには、電車を待つ美月がいた。
「…………」
悠真と目が合った美月は、気まずそうに視線を逸らす。
「まだ電車来てないのか〜」
蓮が電光掲示板を見上げる。
「そうみたいだね」
三人はそのまま同じ電車に乗り、それぞれの帰路についた。
◇
悠真は家に着いた。
「はぁ〜……」
行きの飛行機といい、帰りの飛行機といい――。
特に帰りの飛行機は、本当に危なかった。
「いったい、何が起こってるんだろう……」
夢世界にいるはずのワイバーンが、現実世界に現れた。
悠真は昨日と今日、現実世界で起こったことを思い返す。
「…………」
そのまま悠真は、ゆっくりと眠りについた。




