地獄の番犬
四人は巨大な扉の前に立っていた。
「まずは、俺が試してみます」
悠真が扉にはめ込まれた魔石へ手を触れる。
ゆっくりと魔力を流してみる。
「…………」
しかし、何も起こらない。
「ダメですね」
「では、私がやってみます〜。火属性ならありますから〜」
フィルが悠真と入れ替わり、魔石へ手を触れた。
「…………」
魔力を流す。
だが――。
「……何で〜?」
魔石は光らない。
「私は火属性ありませんから……」
ツバキが言いかけ――。
三人の視線が、一斉にゼノンへ向いた。
「…………」
「…………」
「…………」
「俺か〜?」
ゼノンが自分を指差す。
「お願いします」
「……おう」
渋々、魔石の前へ立つ。
そして――。
「…………」
一向に手を出そうとしない。
「ゼノンさん?」
「……魔力の出し方が分からん」
「はい?」
「だから……魔力の出し方が分からんって言うとるだろが」
「そうなんですか〜?」
フィルがニヤニヤしながら前へ出る。
「では、この大魔法使いの私が! 教えて差し上げましょう〜」
「誰が大魔法使いだ」
「私です〜!」
悠真とツバキがクスッと笑った。
「まずですね〜、魔力を感じるところからです」
「……分からん」
「目を閉じてください〜」
「こうか?」
「そうです〜。身体の中に流れている魔力を感じて〜」
「…………」
「感じませんか〜?」
「分からん」
「むぅ〜。では、もっと集中してください〜」
「しとるわ!」
しばらくして――。
「おっ……」
「分かりました?」
「これか?」
「そうです、そうです〜! それを手に集める感じです」
「こうか?」
「はい〜。では、やってみてください」
「おう」
ゼノンが魔石へ手を触れた。
教わった通り、ゆっくりと魔力を流す。
すると――。
魔石が光った。
「お?」
光は魔石から伸び、巨大な扉一面へと広がっていく。
ゴゴゴゴゴゴ――。
重い音を響かせながら、巨大な扉がゆっくりと開いていった。
「…………」
「開きましたね……」
「開いたな……」
悠真とゼノンが顔を見合わせる。
「ってことは、ゼノンさんが適合者?」
「俺は知らんぞ〜」
「ま〜、開いたからいいじゃないですか〜」
フィルが胸を張る。
「私のおかげで!」
「…………」
「…………」
「…………」
「何で黙るんですか〜!」
「さ、行きましょう」
「悠真さ〜ん!?」
悠真は扉の奥へ続く階段を下り始める。
「ちょっと待て!」
ゼノンの声に、三人が振り返った。
「こいつはこのままなのか?」
「?」
三人がゼノンの視線を追う。
そこには――。
龍核兵が当然のように後をついてきていた。
「ええ。ここからはこの子も一緒よ」
「それに、何かさっきより縮んでないか?」
「あ〜、大きさも変えられるのよ」
「は〜。そんなもんか〜」
ゼノンは龍核兵をじっと見る。
「…………」
龍核兵もゼノンを見る。
「……何だかな〜」
頭を掻きながら、ゼノンも階段を下りていった。
◆
四人は六階層へ到達した。
「いましたね」
部屋の奥。
一体のサラマンダーがこちらを警戒していた。
「気をつけろよ。サラマンダーは危険を感じると、身体を回転させて炎を飛ばしてきやがる」
「はい」
ツバキが床へ手をつく。
「《錬成》」
ゴゴゴゴッ――!
石が隆起し、大きな盾へと姿を変えた。
さらに――。
「《物質の昇華》」
淡い光が大盾を包む。
「はい」
ツバキが龍核兵へ渡す。
龍核兵は大盾を受け取り、構えた。
「とりあえず、盾役としてはこんなところね」
「…………」
「さて――」
ツバキがサラマンダーを見る。
「まずは、隅っこにいるサラマンダーに出てきてもらいましょ」
再び床へ手をついた。
「《錬成》」
ゴゴッ――!
「ギャッ!?」
サラマンダーの背後から石柱が突き出した。
そのまま前へ押し出される。
「《瞬歩》!」
悠真が一気に間合いを詰めた。
「《アイスエンチャント》!」
剣を冷気が包む。
「はぁっ!」
ザンッ――!
「ギャァッ!」
斬撃がサラマンダーを捉える。
だが――。
「まだ倒れない!」
「任せてください〜!」
フィルが杖を向ける。
「《アイススピア》!」
巨大な氷の槍が放たれた。
ドシュッ――!
サラマンダーへ直撃する。
「ギャァァッ!」
そのまま地面へ倒れ――。
動かなくなった。
「…………」
フィルが杖を下ろす。
「……炎、飛んできませんでしたね〜」
「そういう時もある!」
「は〜い」
「次行くぞ」
龍核兵も大盾を持ったまま後をついていく。
「…………」
四人は、そのまま七階層へ続く階段を下りていった。
◆
「何がいるか分かりません。慎重にいきます」
「はいです〜」
「おう」
七階層へ到着する。
「…………」
フィルが足を止めた。
「ケルベロス……地獄の番犬じゃないですか〜!?」
そこには、六メートルほどの巨大な魔物が立っていた。
三つの頭。
鋭い牙。
口から漏れる息には、炎が混じっている。
「とにかく噛みつきがヤバいですよ〜」
「来るぞ!」
「グルァァァァァッ!!」
三つの頭が一斉に襲いかかる。
龍核兵が中央へ。
ガァン――!
大盾で真ん中の頭を受け止めた。
「俺は左へ!」
悠真が駆ける。
「なら俺は右だ!」
ゼノンも大斧を構えた。
三方向からケルベロスを押さえる。
フィルは横へ回り込み、杖を構えた。
「多重詠唱を始めます!」
杖の先に魔力が集まっていく。
「みなさん、お願いします!」
「はい!」
「おう!」
「分かったわ」
「…………」
悠真が左の頭を引きつける。
「《瞬歩》!」
牙をかわし、横へ回る。
ゼノンも大斧で右の頭を受け止めた。
ガキィン――!
「おらぁ!」
龍核兵は中央で大盾を押し込んでいる。
「フィル! まだか〜!?」
「もう少しですよ〜!」
「グルァァァッ!」
ケルベロスが暴れる。
龍核兵の巨体が押し戻された。
「ツバキさん! ケルベロスを押さえてください!」
「分かったわ」
ツバキが床へ両手をつく。
「《錬成》!」
ゴゴゴゴゴゴ――!
ケルベロスの左右。
床から巨大な石の腕が現れた。
ガシィィン――!
二本の腕がケルベロスの身体を挟み込み、その場へ押さえつける。
「今よ!」
悠真とゼノンが一気に離れる。
龍核兵も大盾を構えたまま後退した。
フィルが杖を向ける。
「いきますよ〜!」
冷気が集まり――。
細く、長い氷の槍を作り上げる。
「《アイススピア》!」
さらに空気が圧縮されていく。
「《エアープレス》!」
二つの魔法が重なる。
「――《アイスショット》!」
ドンッ――!
氷の槍が凄まじい勢いで撃ち出された。
一直線にケルベロスへ迫る。
そして――。
ザシュッ!!
ケルベロスの胸へ突き刺さった。
その勢いは止まらない。
氷の槍は心臓へ達し――。
背中まで一気に貫通した。
「グ……ルァ……」
巨大な身体から力が抜ける。
ドォォォン――!
ケルベロスが地面へ倒れた。
「…………」
悠真は倒れたケルベロスを見つめる。
「すごい威力だね」
「ええ。凄かったわよ」
ツバキも立ち上がる。
「フィル、やるじゃねぇか」
「はい〜!」
フィルは嬉しそうに杖を握る。
「次も頑張りますよ〜」
「じゃ〜、次の階へ行きましょ〜」
「はい」
「おう」
龍核兵も大盾を持ったまま、四人の後へ続く。
「…………」
四人と一体?は――。
さらに地下、八階層へと進んでいった。




