炎のガーディアン
四人は四階層へ続く階段を下りていた。
「次はどんなモンスターが出てくるんですか?」
悠真が尋ねる。
「ヒートキラーファングだな」
「どんな魔物なんですか?」
「こいつらは連携が厄介だ。それに素早い。長い牙には気をつけろよ〜」
「連携ですか……」
悠真は少し考え、三人を見る。
「それじゃ、今回はこちらも連携していきますか?」
「おう。俺が盾役を買ってやる。あとはオメェらが片付けちまえ」
「はい」
「分かりました〜」
「いいわ」
やがて階段が終わる。
四人が四階層へ足を踏み入れると――。
「グルルルル……」
十体のヒートキラーファングが待ち構えていた。
低く身構え、長い牙を剥き出しにしている。
「よし。いくぞ」
ゼノンが大斧を構え、一人前へ出た。
「ガァッ!」
一体が地面を蹴る。
ガキィン――!
ゼノンが大斧で長い牙を受け止めた。
その瞬間――。
「来ます!」
左右から、さらに二体がゼノンに飛びかかる。
「《瞬歩》!」
悠真の姿が消えた。
次の瞬間には、左から迫ったヒートキラーファングの目の前。
ザンッ――!
一閃。
「右は任せてください〜!」
フィルが杖を構える。
「《ウィンドカッター》!」
放たれた風の刃が、右から迫る一体を切り裂いた。
残る一体。
ツバキはその場で床へ手をつく。
「《錬成》」
ゴゴッ――!
「ギャウッ!」
ゼノンが受け止めていたヒートキラーファングの真下から、鋭い岩が突き上がる。
ファングの身体が宙へ浮いたところに。
「おらぁ!」
ズバッ――!
ゼノンの大斧が、その身体を真っ二つにした。
ドサッ。
三体が地面へ倒れる。
「おお、いいじゃねぇか!」
「うまくいきましたね」
「さて、残り七体だ〜。気合い入れろよ!」
「はい!」
残ったヒートキラーファングたちが一斉に動き出した。
今度は二体同時に、ゼノンへ飛びかかる。
「ふんっ!」
ゼノンは大斧を横に構えた。
ガキィン――!
二体の牙が同時に大斧へ食い込む。
「ぐっ……なかなか手応えあんじゃねぇか」
二体がさらに力を込める。
「でも、まだまだだな〜!」
「フィル!」
「はいです〜!」
フィルが杖を振る。
「《アースウォール》!」
ドゴンッ――!
二体の背後に土壁が立ち上がった。
それを見たツバキが床へ手をつく。
「《錬成》」
次の瞬間。
土壁が形を変え――。
無数の石槍が飛び出した。
ドドドドッ――!
「ギャウッ!」
「ギャンッ!」
二体が地面へ倒れる。
「やりました〜!」
「次!」
「はい!」
悠真が駆け出す。
正面から一体が牙を剥いて飛び込んできた。
身体を横へかわす。
すれ違いざま――。
ザンッ!
横腹を斬り裂いた。
直後。
「悠真さん、後ろ!」
「っ!」
振り返る。
もう一体が目の前まで迫っていた。
悠真は踏み込み、その勢いのまま剣を振るう。
ザンッ――!
二体が続けて倒れた。
「あと二体です〜!」
「ガァァァッ!」
残った二体が左右へ大きく分かれる。
そして――。
交差するように走りながら、悠真へ迫ってきた。
「《アイスエンチャント》」
剣を冷気が包む。
悠真は二体の動きを見据えた。
「《見切り》」
右。
左。
二本の長い牙が、同時に迫る。
悠真は一歩踏み込んだ。
そして――。
ザンッ――!
二体が悠真の左右を通り抜ける。
「…………」
ドサッ。
ほぼ同時に地面へ倒れた。
「おう。調子よさそうだな〜」
ゼノンが大斧を担ぎながら近づいてくる。
「この剣は、サイコーですよ」
悠真が嬉しそうに剣を見る。
「それもそうだが……」
「?」
「ま〜、いいか」
ゼノンは大斧を担ぎ直した。
「次いくぞ」
◆
「いよいよですね〜」
五階層へ続く階段を下りながら、フィルが杖を握る。
「土の神殿と同じなら、ガーディアンが待っていますね〜」
「私も腕が鳴るわね」
「本来なら五階には別の魔物がいるんだが……」
ゼノンが先を見ながら言う。
「オメェらの話を聞くと、そういうことなんだな?」
「はい。なので、きっと今回も」
四人は五階層へ下りた。
「……やっぱり」
悠真が足を止める。
そこには――。
炎を纏った巨大なガーディアンが立っていた。
揺らめく炎が巨体を覆っている。
そして、その奥には――。
巨大な扉。
「やはり、いましたね」
「はい。奥に扉もあります〜」
ゼノンは扉を見上げる。
「……あれが」
「ゼノンさん」
「あ?」
「ガーディアンはこちらから何もしなければ動きません」
「ほんとか。」
「はい。土の神殿の時もそうでした」
「なので、慎重にいきましょう」
その時。
悠真の前に文字が浮かび上がった。
――――――――――
【クエスト発生】
炎のガーディアンを討伐せよ。
報酬:????
――――――――――
「準備はいいですか?」
「おう」
「はいです〜」
「ええ」
ツバキが龍核を取り出し、床へ置く。
龍核へ手を触れた。
「《古代錬成》」
ゴゴゴゴゴ――!
床から石が隆起する。
龍核を中心に集まり、巨大な身体を作り上げていく。
やがて――。
炎のガーディアンと同じほどの大きさになった。
「おい、ツバキ。何だそれは?」
ゼノンが龍核兵を見上げる。
「あら。そういえばゼノンは見たことなかったわね」
「だから何なんだよ、そいつは」
「土の神殿で授かった古代魔法よ」
「そんなもんまで授かったのか〜」
「ええ」
「炎を纏ってるから、龍核兵に盾になってもらうわ」
「分かりました。お願いします」
龍核兵が動き出す。
ズン――。
その瞬間。
炎のガーディアンも動いた。
ズン――!
二体の巨体が正面からぶつかる。
ガシィィン――!
巨大な手と手が組み合った。
ズズズズズ……。
足元の石床が軋む。
「……すごいです〜」
「俺たちもいきます!」
悠真が剣を構える。
「《アースエンチャント》!」
剣を岩が覆っていく。
石剣は三メートルほどのロングソードに。
龍核兵が押さえている横へ回り込む。
「はぁっ!」
ガキィン――!
「くっ……!」
手応えはある。
だが、石の刃では表面を削る程度だった。
「なら――」
もう一度振りかぶる。
ガァン――!
それでも、炎に阻まれて深くは踏み込めない。
「私もいきます〜!」
フィルが杖を構えた。
「《アイスニードル》!」
無数の氷の針が飛ぶ。
ジュジュジュッ――!
炎に触れ、次々と蒸気が上がる。
「まだまだいきますよ〜!」
フィルが杖を振る。
再び氷の針がガーディアンへ襲いかかった。
「俺も忘れんなよ!」
火に強いゼノンは、大斧を構えてガーディアンの懐に飛び込む。
「おらぁ!」
ガキィン――!
大斧を叩き込む。
「硬ぇな!」
さらに一撃。
ガァン――!
三人の攻撃を受けても、炎のガーディアンは龍核兵と押し合ったまま倒れない。
「このままじゃ時間がかかるわね」
ツバキは床に手をついたまま呟く。
「《錬成》」
ゴゴゴゴゴ――!
龍核兵の横から石が隆起した。
形を変え、巨大な剣となる。
「《物質の昇華》」
淡い光が石剣を包み、その強度が一段階引き上げられる。
「これを使って」
龍核兵が石剣を掴む。
炎のガーディアンを押し返し――。
一歩下がった。
石剣を大きく振りかぶる。
「いけ!」
ブンッ――!
ガキィィィン――!
炎のガーディアンの左腕が宙を舞った。
「やった!」
その瞬間。
全身を覆っていた炎が大きく揺らぎ――。
一気に剥がれ落ちる。
「悠真さん!」
「はい!」
《アースエンチャント》を解除。
ゼノンが鍛えた剣が姿を現す。
「《瞬歩》!」
悠真が消えた。
次の瞬間――。
ザンッ!
右脚。
返す剣で――。
ザンッ――!
左脚。
ドォォォン――!
両脚を失った炎のガーディアンが倒れた。
「ツバキさん!」
「ええ」
ツバキは床に手をついたまま。
「《錬成》」
ゴゴゴゴゴ――!
ガーディアンの真上。
天井が大きく形を変えていく。
巨大な石柱。
「終わりよ」
ドゴォォォォン――!!
石柱が炎のガーディアンへ叩きつけられた。
床が大きく揺れる。
「…………」
炎が消えていく。
もう、動かなかった。
そして――。
悠真の前に文字が浮かび上がる。
――――――――――
【クエスト達成】
炎のガーディアンを討伐せよ。
レベルアップ
Lv.50 → Lv.57
報酬:《魔力譲渡》
――――――――――
(《魔力譲渡》……?)
悠真は新しく現れたスキル名を見つめた。
「今回もなんとか倒せましたね〜」
フィルが杖を下ろす。
「とりあえず、休憩しましょ〜」
「そうですね」
悠真とフィルがその場へ腰を下ろす。
ツバキも一息ついて――。
「…………」
扉の前を見る。
「ゼノン」
「あ?」
「休憩しないの?」
「しとるじゃねぇか」
「立ってるのは休憩とは言わないのよ」
「…………」
巨大な扉の前。
ゼノンは仁王立ちしたままだった。
「気になるの?」
「ああ」
「ま〜、分からなくもないけどね」
ツバキがお茶を取り出す。
「でも、焦ったってしょうがないわ。お茶でも飲んでから調べましょ」
「……おう」
四人の前にそびえ立つ巨大な扉は――。
まるで何かを訴えかけているように感じられた。




