火の神殿
翌朝。
悠真たちは支度を整え、火の神殿へ向けて出発した。
火の神殿があるのは、ヴォルカニアが築かれた山の反対側。
山の麓に沿って、しばらく歩いていく。
「そろそろ見えてくるぞ」
先頭を歩いていたゼノンが言う。
そして――。
「あれか……」
悠真が足を止めた。
山の中腹。
岩肌に囲まれるように、巨大な神殿が建っている。
そして、その入口まで真っ直ぐ伸びているのは――長い長い石造りの階段だった。
「え〜!?」
フィルの声が山に響く。
「また階段ですか〜!?」
「土の神殿でも、いっぱい登ったじゃないですか〜!」
フィルは階段を見上げたまま、露骨に肩を落とした。
どこまで続いているのか分からないほどの階段。
悠真はその横を通り過ぎる。
「さっ、行こう〜」
「行きますよ」
ツバキも悠真に続く。
「…………」
ゼノンも無言で階段へ向かった。
「…………」
取り残されたフィルの肩が、さらに落ちる。
「待ってくださいよ〜!」
◆
どれくらい登っただろうか。
「つ……着きました〜……」
ようやく四人は火の神殿の入口へ辿り着いた。
さすがに全員、疲れた様子を見せている。
「少し休憩してから入りましょ〜」
ツバキが入口近くに腰を下ろした。
「ええ」
「賛成です〜……」
「…………」
ゼノンも黙って座り込む。
しばらく休憩し、息を整えたところで四人は立ち上がった。
「じゃあ、行きます」
まず悠真が神殿へ足を踏み入れる。
その瞬間――。
ゴゴゴゴゴゴ……。
「……!」
足元から振動が伝わってきた。
神殿の奥――いや、さらにその下。
地下深くから何かが動き始めたような、不気味な揺れだった。
「やっぱり……」
ツバキが呟く。
ゼノンが悠真を見る。
「悠真の《夢渡り》ってやつが入ると、神殿が反応するのか?」
「きっとそうですよ〜」
フィルも神殿の奥を見つめる。
「では、行きましょう」
四人は一階層を進んでいく。
「ま〜、一階はいつも通り何もねぇな」
ゼノンが辺りを見回しながら歩いている。
「ゼノンさんは、何回か来ているんですか?」
悠真が尋ねた。
「ま〜な。古代の鍛冶の知識でも眠ってねぇかと思って、何回か調べに来てはいるんだが……何も見つからなかったんだよ」
「そうなんですね〜」
「ああ。だから、オメェらの話を聞いて祠にある古代書が気になってな」
ゼノンは神殿の奥へ目を向ける。
「よし。なら二階層へ行ってみようぜ」
「その前に」
ツバキが三人を止めた。
「さて、ここからはマントを羽織っていきましょ〜」
「はい」
「はいです〜」
「ったく、しょうがねぇな」
四人は昨日作った火耐性のマントを羽織る。
すると――。
「……おお」
悠真は思わず声を漏らした。
さっきまで身体を包んでいた熱気が、嘘のように収まっている。
「涼しいわけではないですが、暑さは感じなくなりましたね」
「ちゃんと効いてるみたいね」
ツバキも満足そうに頷いた。
「さて、行きましょ〜」
四人は地下へ続く階段へ向かう。
階段を下りながら、悠真がゼノンへ尋ねた。
「ゼノンさん。二階層には何が出るんですか?」
「フレイムバットだな」
「コウモリですか〜?」
フィルが反応する。
「ああ。ちょこまかと動くから、めんどくさくてよ〜」
それを聞いたフィルが杖を握った。
「それなら、この階は私に任せてください〜」
「フィル、よろしく頼むよ」
「はいです〜!」
◆
二階層へ到着する。
「キィィッ!」
「キキッ!」
天井付近を、何体ものフレイムバットが飛び回っていた。
赤黒い翼を広げ、縦横無尽に飛び回る。
こちらの様子を窺いながら、隙を見つけると急降下して襲いかかってくる。
「確かに、これは面倒そうだな」
悠真が頭上を見上げる。
「いきますよ〜」
フィルが一歩前へ出た。
杖を構え、魔力を集中させる。
「《アイスアロー》!」
フィルの前に、三十本ほどの氷の矢が現れた。
そして――。
一斉に放たれる。
「キィッ!」
だが、フレイムバットは素早い。
上下左右へ飛び回り、次々と氷の矢をかわしていく。
ほとんどの矢がフレイムバットの横を通り過ぎた。
「やっぱり速いな……」
悠真が呟く。
しかし。
「まだまだここからですよ〜」
フィルは笑っていた。
「え?」
杖を動かす。
その瞬間。
避けられたはずの氷の矢が――空中で方向を変えた。
「なっ……」
氷の矢が再びフレイムバットへ向かっていく。
「キィッ!?」
逃げる。
追う。
さらに方向を変える。
一本。
二本。
三本――。
氷の矢がフレイムバットを追い続け、次々と撃ち落としていく。
そして。
最後の一体へ氷の矢が突き刺さった。
「キィ……!」
地面へ落ちる。
「やりました〜!」
「すごい! いつの間に!?」
悠真が驚いてフィルを見る。
「やるな〜」
ゼノンも感心したように頷いた。
ツバキは微笑む。
「これを勉強していたのね?」
「はい!」
フィルは嬉しそうに杖を抱えた。
「放った魔法を操ることも、できるようになりました〜!」
「すごいな、フィル」
「えへへ〜」
「よし。それじゃあ、このまま三階層に行きましょ〜」
◆
地下へ続く階段を下りていく。
「次はカニだ」
ゼノンが言った。
「カニですか〜!?」
フィルの目が輝いた。
「ああ。マグマクラブってんだけど、甲羅は硬くて、でけぇハサミが厄介だな」
「フィル?」
悠真が横を見る。
「はい?」
「食べたいの?」
「はい!」
即答だった。
「ふふっ」
ツバキが笑う。
「ま〜、甲羅の周りが燃えてるから、その場ですぐにでも食えるがよ〜」
「いいですね〜!」
「待て待て。お昼まで待て〜」
「は〜い」
少し残念そうなフィル。
「じゃあ、次は私が相手しますね」
「では、お願いします」
◆
三階層。
階段を下りた先の部屋には、三体のマグマクラブがいた。
巨大な甲羅。
左右には大きなハサミ。
その甲羅の周囲には炎が揺らめいている。
ツバキが一人、前へ出た。
そして静かに床へ手を当てる。
「《錬成》」
ゴゴゴゴゴゴ――!
床が激しく音を立てる。
次の瞬間。
マグマクラブの真下から、太く尖った岩が勢いよく突き出した。
ドンッ――!
柔らかな腹部へ突き刺さり、そのまま巨体を宙へ持ち上げる。
「ギギッ……!」
マグマクラブの動きが止まった。
ツバキは床へ手を当てたまま、小さく呟く。
「まずはひとつ」
「…………」
その姿勢のまま、二体目へ視線を向けた。
マグマクラブの両脇から、巨大な岩の腕が伸びる。
ガシッ――!
二本の腕が巨体を挟み込み、その場へ固定した。
直後。
ゴゴゴッ――!
今度は真上の天井が変形する。
巨大な石柱が勢いよく伸び――。
ドゴォォンッ!
マグマクラブの甲羅へ直撃した。
大きな音とともに、その巨体が床へ沈む。
「ふたつ」
「…………」
残る一体。
ツバキが静かに顔を向けた。
周囲の壁が次々と形を変えていく。
無数の石の矢。
そして――その石がさらに強固なものへと変化していく。
「《物質の昇華》」
次の瞬間。
四方八方から石の矢が一斉に放たれた。
ドドドドドドッ――!
強固になった石の矢が硬い甲羅を次々と貫いていく。
やがて。
三体目のマグマクラブも、ゆっくりと倒れた。
ツバキが立ち上がる。
「終わりね」
「…………」
「…………」
「…………」
悠真。
フィル。
ゼノン。
三人とも、何も言えなかった。
「……すご」
最初に声を漏らしたのは悠真だった。
「ツ、ツバキさん、すごいです〜……」
フィルの頬を冷や汗が流れる。
「…………」
ゼノンは相変わらず無言だった。
そんな三人を気にする様子もなく、ツバキが倒れたマグマクラブを指差す。
「悠真さん。《アイテムBOX》にしまって下さい。次いきますよ」
「は、はい〜」
悠真は慌てて三体のマグマクラブを《アイテムBOX》へ収納した。
そして――。
悠真、フィル、ゼノン。
三人は同じことを思い、四階層へ向かうのであった。
(ツバキさんを怒らせるのは、絶対にやめておこう……。)




