魔道具製作
「おい! 起きろ!」
朝から響いた大声に、悠真は勢いよく目を覚ました。
「……え?」
ぼんやりとした視界の先。
そこには、昨日とまったく同じように仁王立ちするゼノンの姿があった。
「神殿行くぞ!」
「…………」
悠真はしばらくゼノンを見つめる。
(……またか。)
そこへ、眠そうな顔をしたフィルがやってきた。
「ゼノンさん……またですか〜?」
「あぁ? 何がだ?」
「昨日も朝から悠真さんを起こしてたじゃないですか〜」
「いいんだよ。こういうのは早い方が」
「ゼノン!」
今度はツバキの声が飛んできた。
「あ?」
「朝食が先!」
「…………」
ゼノンが黙った。
悠真とフィルは顔を見合わせる。
昨日とほとんど同じ光景だった。
◆
結局。
四人はいつものように食卓を囲んでいた。
「昨日、試し斬りもした。次は神殿だろ? 早く行こうぜ」
朝食を食べながらも、ゼノンは落ち着かない様子だった。
「神殿に行くのは分かったから」
ツバキが呆れたようにゼノンを見る。
「まずは準備が必要でしょ?」
「準備?」
「火の神殿なんでしょ? たぶん中は相当暑いわよ」
「まあな」
「まあな、じゃないわよ」
ツバキがため息をつく。
「悠真さんは平気そうだったけど、私とフィルは昨日の火山でも暑かったのよ?」
「そうですよ〜。あれより暑いところを歩くなんて嫌ですよ〜」
「こんなん普通だろ」
「ゼノンさんの普通と一緒にしないでください〜」
フィルが頬を膨らませる。
「だから、火耐性を持ったマント型の魔道具を作りましょ」
「マント型の魔道具?」
悠真が尋ねる。
「ええ。火属性の素材を組み合わせれば作れると思うわ」
「何が必要なんですか?」
ツバキは少し考える。
「まず、火の魔石」
「それならあるぞ」
ゼノンが即答する。
「工房にいくつか置いてある」
「じゃあ、それは大丈夫ね。あとは火属性の魔物の皮」
「フレアバイソンならどうだ?」
「あら、いいじゃない。皮も上質だし、身体も大きいから……二体あれば四人分作れると思うわ」
「もう一つ必要だな」
ゼノンが続ける。
「炎鉱石だ」
「炎鉱石?」
「火の魔石とマントを繋ぐのに使える」
悠真が頷く。
「どこで採れるんですか?」
「こないだの坑道だ」
「あそこですか」
「おう」
必要な素材は決まった。
火の魔石。
フレアバイソン二体分の皮。
そして炎鉱石。
「なら、まずはギルドね」
ツバキが言う。
「フレアバイソンの居場所を聞きに行きましょ」
「よし! やっと行けるな!」
「だからゼノン」
「あ?」
「朝ご飯、残ってるわよ」
「…………」
またゼノンが黙った。
◆
「フレアバイソンですか?」
冒険者ギルド。
受付嬢は依頼書を確認すると、一枚を取り出した。
「ちょうど討伐依頼が出ていますよ。山の麓で二体確認されています」
「二体?」
ツバキがフィルを見る。
「ちょうどいいわね」
「ですね〜」
「この依頼、受けます」
悠真が答える。
「はい。では、フレアバイソン二体の討伐ですね」
受付嬢が手続きを始める。
その時。
悠真の前に文字が浮かび上がった。
――――――――――
【クエスト発生】
マントの素材を手に入れろ。
報酬:????
――――――――――
(マントの素材か)
表示を確認していると、ツバキが声をかける。
「二手に分かれた方が早そうね」
「そうですね」
「私とフィルでフレアバイソンを倒してくるわ。悠真さんはゼノンと炎鉱石をお願い」
「分かりました」
「は〜い」
「おう」
こうして四人は二手に分かれ、それぞれの素材を集めることになった。
◆
「いましたよ〜」
山の麓。
フィルの指差す先に、二体の巨大な魔物がいた。
牛を思わせる巨体。
赤褐色の皮膚。
太く湾曲した角。
身体の周囲では陽炎が揺らめき、地面の草が熱で乾いている。
フレアバイソン。
「大きいですね〜」
「これなら皮も十分取れそうね」
一体が二人の存在に気づいた。
「ブモォォォォッ!」
地面を蹴り、こちらへ突進してくる。
「私が止めるわ」
ツバキが地面へ手をついた。
「《錬成》」
地面が隆起する。
土が形を変え、巨大な二本の腕となってフレアバイソンへ伸びた。
左右から巨体を挟み込む。
「ブモォォォォッ!」
フレアバイソンが暴れる。
「フィル!」
「はい!」
フィルが魔力を集中させる。
だが――。
ジュウウウウ……。
「え?」
土の腕から煙が上がり始めた。
フレアバイソンの身体から放たれる熱で、表面が焼かれている。
ピシッ。
土の腕に亀裂が走った。
「ツバキさん!」
「フィル! 早く!」
「はい!」
フィルは杖を構え、魔力を集中させる。
「《ウィンドカッター》!」
鋭い風の刃が飛ぶ。
ザンッ――!
フレアバイソンの首が落ちた。
巨体が地面へ倒れる。
それとほぼ同時に、拘束していた土の腕も崩れ落ちた。
「危なかったですね〜」
「ええ……普通の土じゃ、この熱には耐えられないみたいね」
残った一体が、倒れた仲間を見て唸る。
「ブモォォォォッ!」
ツバキは崩れた土を見つめる。
「なら――」
再び地面へ手をついた。
「次は――《物質の昇華》」
地面が淡い光に包まれる。
土そのものの性質が変化していく。
より硬く。
より強く。
そして、熱に耐えられる素材へ。
そこから再び二本の巨大な腕が作り出された。
「《錬成》」
二本の腕が伸び、二体目のフレアバイソンを捕らえる。
「ブモォォォッ!」
熱気が周囲へ広がった。
ジュウウウ――。
しかし。
今度は崩れない。
「すごいです〜! さっきと全然違います!」
「素材そのものを一段階上に引き上げたからね」
ツバキがフィルを見る。
「今よ!」
「はい!」
「《ウィンドカッター》!」
ザンッ――!
二体目の首が落ちた。
「やりました〜!」
「これで二体分ね」
ツバキは倒れた二体のフレアバイソンを見る。
四人分のマントに必要な皮。
まず一つ目の素材を確保した。
◆
一方。
悠真とゼノンは、以前訪れた坑道を進んでいた。
「炎鉱石は、この奥ですか?」
「ああ。前に魔鉱石を掘ったところより、もう少し奥だ」
「分かりました」
悠真は《気配察知》を使いながら進む。
しばらくすると――。
カサッ。
「……?」
足を止める。
カサカサカサッ。
「ゼノンさん」
「ああ。いるな」
岩陰から何かが姿を現した。
赤黒い身体。
八本の長い脚。
脚の先には炎のような赤い毛が生えている。
ブレイズスパイダー。
「…………」
悠真の顔が引きつった。
「どうした?」
「…………」
悠真は静かに一歩横へ移動する。
そして。
ゼノンの後ろへ隠れた。
「……おい」
「お願いします」
「はぁ?」
「蜘蛛は無理です」
「お前、レッサードラゴン倒しただろうが」
「ドラゴンと蜘蛛は別です」
「何が違うんだよ!」
「全部です」
「意味分かんねぇよ!」
ブレイズスパイダーが脚を大きく広げる。
そして一気に二人へ迫った。
「ったく!」
ゼノンが背負っていた斧を抜く。
一歩踏み込む。
「ふんっ!」
ズバッ――!
振り抜かれた斧がブレイズスパイダーを斬り裂いた。
巨体が地面へ落ちる。
「ほら。終わったぞ」
「ありがとうございます」
「ったく……」
ゼノンが斧を担ぎ直す。
そして、倒したブレイズスパイダーを見下ろした。
「ん?」
「どうしました?」
「……こいつの糸、使えるな」
「糸?」
「ああ」
ゼノンがニヤッと笑う。
「ブレイズスパイダーの糸は炎耐性がある。ちょうど良かったな。マントを縫うのに使えるぞ」
「…………」
悠真が倒れた蜘蛛を見る。
そして、すぐに目を逸らした。
「回収……お願いします」
「あぁ!?」
ゼノンの声が坑道に響いた。
◆
その後。
悠真とゼノンはさらに坑道の奥へ進んだ。
悠真は《鑑定》を使いながら岩壁を確認していく。
そして。
「ゼノンさん。ここです」
「おう」
ゼノンが岩壁を見る。
「間違いねぇ。炎鉱石だ」
二人は採掘を始めた。
カンッ。
カンッ。
坑道に音が響く。
しばらくして。
「これだけあれば十分だ」
「じゃあ、戻りましょう」
「おう」
炎鉱石。
そして予定にはなかったブレイズスパイダーの糸。
二つの素材を手に入れ、悠真とゼノンは坑道を後にした。
◆
夕方。
四人は冒険者ギルドで合流した。
「二体とも倒してきましたよ〜」
フィルが嬉しそうに報告する。
「こっちも炎鉱石は採れたぞ」
ゼノンが答える。
「それと、ちょうどいい素材も手に入った」
「ちょうどいい素材?」
「ブレイズスパイダーの糸だ。炎に強ぇからマントに使える」
「あら、それはいいわね」
「…………」
悠真だけは黙っていた。
「悠真さん?」
「なんでもないです」
受付嬢へフレアバイソン二体の討伐を報告する。
確認が終わり、依頼達成の手続きが行われた。
その時だった。
悠真の前に文字が浮かぶ。
――――――――――
【クエスト達成】
マントの素材を手に入れろ。
レベルアップ
Lv.49 → Lv.50
報酬:《裁縫》
――――――――――
(裁縫……?)
悠真は新しく得たスキルを確認する。
だが、何も言わず三人とともにギルドを後にした。
◆
工房へ戻ると、作業台の上に集めた素材が並べられた。
フレアバイソン二体分の皮。
炎鉱石。
ブレイズスパイダーの糸。
そして、ゼノンが保管していた火の魔石。
「じゃあ、始めましょ」
まずツバキがフレアバイソンの皮へ手を置いた。
「《物質の昇華》」
皮が淡い光に包まれる。
上質だった皮が、さらに強く、しなやかな素材へと変化していく。
火への耐性も、それまで以上に高まっていた。
「これでいいわ」
続いて、四人それぞれの体格に合わせて皮を《錬成》していく。
やがて、作業台には四枚のマントが並んだ。
「次は俺だ」
ゼノンが炎鉱石を炉へ入れる。
熱し。
叩き。
形を整える。
カンッ――!
カンッ――!
工房に槌の音が響き続けた。
加工された炎鉱石に、それぞれ火の魔石を組み込んでいく。
しばらくして。
「よし」
ゼノンが四つの装具を作業台へ置いた。
「これをマントに取り付けりゃ完成だ」
悠真は作業台を見る。
四枚のマント。
四つの装具。
そして――ブレイズスパイダーの糸。
「じゃあ、俺がやります」
「できるのか?」
「はい」
悠真は針と糸を手に取った。
――《裁縫》。
針を通す。
炎耐性を持つブレイズスパイダーの糸で、魔道具の装具をマントへ丁寧に縫い付けていく。
一着。
二着。
三着。
そして――四着目。
「できました」
作業台の上に、四着のマントが並んだ。
「おお。いいじゃねぇか」
「これなら火の神殿でも大丈夫そうね」
「明日は暑くないんですね〜!」
フィルが嬉しそうにマントを手に取る。
悠真も完成した自分のマントを見る。
フレアバイソンの皮。
炎鉱石。
火の魔石。
そして、ブレイズスパイダーの糸。
集めた素材と、それぞれの技術を合わせて作った火耐性のマント。
これで――。
火の神殿へ向かう準備は整った。
明日。
四人はいよいよ、火の神殿へ向かう。




