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夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第4章「遺跡編」

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託された思い

翌朝。


 朝日が火山の麓を照らし始める頃には、すでに工房の奥から金属を叩く音が響いていた。


 カーン――。


 カーン――。


 今日も朝から、ゼノンが剣を打っている。


 だが、昨日と違うことが一つあった。


「ツバキ〜。そろそろいくぞ〜」


「はい」


 今日は鍛冶場にツバキも加わっていた。


 そして工房の外では――。


 シュッ――。


 シュッ――。


 悠真が昨日に引き続き、剣を振っていた。


 一振り。


 構え直して、もう一振り。


 昨日の夜と同じように、剣の重さを感じる。


 剣先の向きを感じる。


 ただ力任せに振るのではなく、剣がどう動こうとしているのかを意識する。


 まだ答えが分かったわけではない。


 それでも、昨日より剣を振る悠真の姿には、確かな自信があった。


「…………」


 少し離れたところで、フィルがそんな悠真を見ていた。


 そして小さく微笑む。


「頑張ってますね〜」


 それだけ言うと、フィルは魔導書を開き、自分の勉強を始めた。



 その頃、鍛冶場では剣の仕上げが始まろうとしていた。


 炉の中では、魔鉱石から作られた剣が真っ赤に熱せられている。


 ゼノンはその状態を確かめると、ツバキへ声をかけた。


「まずはミスリルだ〜。錬成して炉にぶっ込め〜。あとはこっちで預かる」


「はい」


 ツバキは用意していたミスリルへ手を伸ばす。


 錬金術によって形を変え、ゼノンの指示通り炉へと入れた。


 ゴォォォ――。


 炎が勢いよく燃え上がる。


「よし!」


 ゼノンが剣を取り出す。


 カーン――!


 カーン――!


 槌を振り下ろすたび、火花が飛び散る。


 少し打っては炉へ戻し、熱を加える。


 再び取り出しては打ち込む。


 それを何度も繰り返していく。


「ツバキ! もう一度錬成を頼む!」


「分かったわ」


 ツバキが剣へ手をかざす。


 ミスリルと魔鉱石。


 二つの素材が、少しずつ一つになっていく。


 炉の熱気で二人の身体からは汗が噴き出していた。


 それでも、ゼノンの槌は止まらない。


 カーン――!


 カーン――!


 やがてゼノンが剣の状態を確認する。


「よし……次は逆鱗だ〜。同じように頼む〜」


「はい」


 今度は神龍の逆鱗。


 ツバキはゼノンの指示に従い、慎重に錬成していった。


 ゼノンが打つ。


 ツバキが錬成する。


 炉へ戻す。


 再び打つ。


 二人の作業は長い時間続いた。


 そして――。


「ツバキ〜。ありがとうよ。もう大丈夫だ〜」


「ふぅ〜……」


 ツバキが大きく息を吐く。


「あとは仕上げに入る。悠真を連れてこい」


「分かったわ」



 ツバキは工房の外へ出た。


 火照った身体に朝の風が触れ、気持ちよさそうに息を吐く。


「ふぅ〜……涼しい」


 そして、まだ剣を振り続けている悠真へ声をかけた。


「悠真さん」


 シュッ――。


 悠真が剣を止める。


「はい?」


「ゼノンが呼んでいるわ」


「ゼノンさんが?」


「ええ」


 ツバキは微笑んだ。


「しっかり見届けて」


「……はい!」


 悠真は鍛冶場へ入っていった。


 中では、ゼノンが一人で剣を打っている。


「ゼノンさん」


「…………」


 ゼノンは振り返らない。


 ただ一言。


「そこに座って見てろ」


 悠真は近くに置かれている椅子に無言で座った。


 そして無言のまま、ゼノンの姿を見つめる。


 カーン――!


 カーン――!


 打っては、炉へ。


 熱を入れては、また打つ。


 何度も。


 何度も。


 同じことを繰り返しているように見える。


 けれど――。


(剣になっていく……)


 昨日、自分が振った時には、まだ剣の形をした鉄の塊だった。


 それがゼノンの槌が振り下ろされるたび、確実に一本の剣へと変わっていく。


 悠真は目を離すことができなかった。


 何故なのかは分からない。


 ただ、その姿を見ていると心に感じるものがあった。


 やがて――。


「ふぅ〜……」


 ゼノンが大きく息を吐いた。


 真っ赤に熱せられた剣を持ち上げる。


 そして、そのまま水の中へ。


 ジュウゥゥゥゥ――!


 一気に蒸気が立ち上った。


「…………」


 悠真はじっと見つめていた。


 ゼノンは剣を取り出すと、今度は静かに研ぎ始める。


 シャッ――。


 シャッ――。


 先ほどまで響いていた激しい槌の音とは違う。


 静かな音だけが鍛冶場に響いた。


 しばらくして、ゼノンが口を開いた。


「悠真」


「はい」


「ドワーフが剣を作る時に、剣の使い手を考えるのには理由がある」


 ゼノンは剣を研ぐ手を止めない。


「人が剣を使うんじゃね〜」


 シャッ――。


「剣が人を使うんだ」


「剣が……人を?」


「ああ」


 ゼノンは続ける。


「その剣に使ってもらう人間に合わせる。それが鍛冶職人なんだよ」


「…………」


「重すぎても駄目だ。軽すぎても駄目だ」


 ゼノンが悠真を見る。


「お前、昨日こいつを持った時に重いって感じただろ〜?」


「はい」


「その状態で振りゃ、バランスが悪いんだ」


 悠真は昨日のことを思い出す。


 確かに重かった。


 それでも不思議と手には馴染んだ。


「ま〜、おめえの素振りもまだまだだったが、剣のバランスもまだまだだったんだ」


「……あっ」


 悠真はようやく理解した。


 昨日の――。


 ――まだまだだな。


 あの言葉。


(両方だったのか……)


 ゼノンは再び剣へ目を戻した。


「こいつをおめえに託すんだ。しっかり覚えておけよ」


 シャッ――。


「鍛冶職人の心得ってやつをよ」


「……はい!」


 しばらくして。


 ゼノンが研ぐ手を止めた。


「よし。どうだ。持ってみろ」


「はい」


 悠真は差し出された剣を受け取る。


「…………!」


 握った瞬間だった。


(違う……)


 違和感がまったくない。


 重すぎない。


 軽すぎない。


 まるで最初から自分の手に合わせて作られていたかのようだった。


 そして刀身は、悠真が今まで見たこともない輝きを放っている。


 悠真は構えた。


 昨日の夜。


 そして今日。


 何度も剣を振ってきた。


 ゼノンの言葉を思い出す。


 剣の重さを感じる。


 剣先を感じる。


 そして――。


 気持ちを込める。


 シュッ――。


 一振り。


「…………」


 ゼノンは悠真を見ていた。


 そして――。


「ま〜、悪くはね〜な」


「え?」


「少しは分かったじゃね〜か」


 ゼノンはニヤリと笑う。


「このまま精進するんだな」


「はい!」


「よし。あとは仕上げとくから、お前は素振りでもしてな」


「はい。ありがとうございます!」


 悠真は深く頭を下げ、鍛冶場をあとにした。



 外へ出る。


「あれ?」


 ツバキの姿がなかった。


 代わりに――。


「すぅ……すぅ……」


「…………」


 フィルが魔導書を開いたまま眠っていた。


「……寝てる」


 しかも、とても気持ちよさそうに。


 悠真は苦笑し、再び剣を手に取った。


 シュッ――。


 シュッ――。


 しばらく剣を振っていると、ツバキが戻ってきた。


 どうやら温泉で汗を流してきたらしい。


「悠真さん。どうでした?」


「はい」


 悠真は、鍛冶場で見たことを話した。


 ゼノンが剣を打つ姿。


 鍛冶職人の心得。


 そして、自分のために剣の重さやバランスまで考えてくれていたこと。


「そう」


 ツバキは優しく微笑んだ。


「認めてもらえたのね。よかったわ」


「それは分かりませんが……」


 悠真も少し笑った。


「ツバキさんも、ありがとうございました」


「私は少し手伝っただけですから」


「いいえ」


 悠真は首を横に振る。


「その代わり、今日は僕が夕飯を作りますから」


「あら」


 ツバキが嬉しそうに笑った。


「そう。楽しみね」



 夕暮れ。


 悠真は一人、キッチンで夕飯の支度をしていた。


「よし……」


 準備を終え、窯へ目を向ける。


「あとは、窯で焼くだけっと」


 その時だった。


 鍛冶場の扉が開いた。


「悠真〜」


「はい?」


 ゼノンが出てくる。


 その手には――一本の剣。


「出来たぞ。受け取れ」


「……!」


 悠真は手を拭き、ゼノンの前へ向かう。


 そして両手で剣を受け取った。


「ありがとうございます!」


「ただな」


 ゼノンの表情が少し変わる。


「こいつは、まだ完成じゃね〜」


「え?」


 悠真は剣を見る。


「素材が素材だからな。間違いなくいい剣だ」


 ゼノンは腕を組んだ。


「だが……何かが足りね〜んだ」


「何か……」


「ああ。それに俺は、ツバキからこいつをどこで手に入れたのか、まだ聞いてね〜しな」


「それはね」


 横からツバキが口を挟んだ。


 ツバキはこれまでの出来事を話し始めた。


 土の神殿を調査したこと。


 五階層で、それまで存在しなかった扉が出現したこと。


 九階層には土の神龍がいたこと。


 そして十階層には祠があり、そこに古文書が存在していたこと。


 さらに悠真たち三人が、各地に存在する神殿を調査するため旅を続けていることも。


 話を聞いていたゼノンの目が、徐々に輝き始める。


「ってことは……」


 ゼノンが身を乗り出した。


「火の神殿にも神龍がいて、認められりゃ逆鱗が手に入るのか!?」


「まだ分からないわ」


 ツバキが答える。


「同じように扉が出現するのか。出現したとして、開くのかもね」


 そして悠真を見る。


「ただ、悠真さん。夢渡りが関係してるみたいだから、何かしら進展はあるはずよ」


「はい」


「……待て」


 ゼノンがツバキを見る。


「夢渡りってなんだ?」


「あら? 知らないの?」


「知らね〜な」


 ツバキは悠真へ目を向けた。


「悠真さんは、この世界とは違う世界から来ているのよ」


「違う世界だと?」


「はい」


 悠真が頷く。


「僕は眠ると、この世界に来るんです。そして、しばらくすると元の世界に戻ります」


「…………」


 ゼノンは悠真をじっと見つめた。


「おめえ……そんな奴だったのか」


「はい」


「だから“夢渡り”ってわけか」


「そういうことよ」


 ツバキが答える。


「それで、神殿に現れた扉も悠真さんが関係しているんじゃないかって、私たちは考えてるの」


「なるほどな〜」


 ゼノンは腕を組む。


 そして、何かを考えるように悠真を見た。


「ってことは、火の神殿でもおめえがいりゃ、何か起きるかもしれね〜ってことか」


「まだ分からないわ。でも、その可能性はあると思う」


「…………」


 ゼノンはしばらく黙っていた。


 そして突然――。


「俺も連れてけ!」


「え?」


「逆鱗もそうだが、古文書も気になる!」


 ゼノンの声が大きくなる。


「もしかしたら古代の鍛冶の知識が残ってるかもしれね〜しな!」


 ツバキが悠真を見る。


「悠真さん。こう言ってますけど?」


「もちろん、僕はいいですけど……」


 悠真はフィルを見る。


「みんなは?」


「わたしも賛成です〜!」


 ツバキも頷く。


「なら、決まりね」


 こうして――。


 悠真たちの旅に、四人目の仲間が加わった。



「じゃ〜、剣の完成と、新しい旅仲間に――」


 悠真がコップを掲げる。


「乾杯!」


「乾杯です〜!」


「乾杯〜」


「ガハハハ! 乾杯だ〜!」


 四人の声が工房に響いた。


 フィルが目の前に置かれた料理を不思議そうに見る。


「悠真さん、これは何ですか〜?」


「ピザだよ」


「ぴざ?」


「そう。とにかく食べてみて」


「はいです〜!」


 フィルが一切れ手に取る。


 ツバキとゼノンも続いた。


 そして――。


「ん〜!」


 フィルが一口かじった瞬間。


 チーズが伸びた。


「んん〜!?」


 さらに伸びる。


「悠真さ〜ん! 噛み切れないです〜!」


「はははっ」


 ようやくチーズを噛み切り、フィルが目を輝かせる。


「おいしいです〜!」


「あら、本当。美味しいわね〜」


 ツバキも嬉しそうに頬張る。


「こいつもエールに合うな〜!」


 ゼノンはピザを片手にジョッキを傾ける。


「ガハハハ! 美味ぇ!」


 今日もまた。


 工房の食卓は、賑やかな笑い声に包まれていた。



 食後。


 四人は工房の裏にある温泉へ来ていた。


「ふぅ〜……」


 悠真は湯に身体を沈め、大きく息を吐く。


 一日中剣を振り続けた身体に、温かな湯が染み込んでいく。


 ツバキは、カエデから預かっていた酒をゼノンの器へ注いでいた。


 ゼノンが一口飲む。


「くぅ〜……」


 そして満足そうに笑った。


「やっぱりカエデの酒はうめ〜な〜!」


「ウフフ。よかったわ。母も喜ぶわよ」


「カエデがか〜?」


 ゼノンは嬉しそうに、もう一口飲んだ。


 悠真はエール。


 フィルは果実水。


 それぞれ飲み物を片手に、夜空を見上げながら温泉を堪能する。


 すると――。


「悠真さ〜ん」


「ん?」


 フィルが悠真を見る。


「あの、おつまみ? はもうないんですか〜?」


「ああ」


 悠真は少し考える。


 そしてニヤリと笑った。


「あるよ〜」


「ほんとですか〜!?」


 悠真が取り出したのは、小さく軽い一口サイズの食べ物。


「その名も――えびせん」


「えびせん?」


「食べてみて」


 フィルが一枚手に取る。


 ポリッ。


「…………」


 ポリポリ。


「美味しいです〜!」


「だろ?」


 もう一枚。


 ポリポリ。


 さらに一枚。


 ポリポリ。


「…………」


 悠真はフィルを見る。


「フィル?」


「止まらないです〜」


「やっぱりか……」


「おい。俺にもくれ」


 ゼノンも一枚取る。


 ポリッ。


「…………」


 もう一枚。


 ポリポリ。


 そしてカエデの酒を一口。


「…………!」


 ゼノンの目が見開かれた。


「なんだこりゃ! 酒に合いすぎるじゃね〜か!」


 ポリポリ。


 グビッ。


 ポリポリ。


 グビッ。


「ゼノン。そんなに美味しいの?」


 ツバキも一枚。


 ポリッ。


「あら……」


 もう一枚。


 ポリポリ。


「本当ね。止まらないわ」


「だろ〜!? ガハハハ!」


「悠真さ〜ん」


「ん?」


「もうないです〜」


「えっ!?」


 悠真が袋を見る。


「早くない!?」


「ガハハハハ!」


 温泉に笑い声が響く。


 新しい剣。


 新しい仲間。


 そして――新しい旅。


 火山の麓の夜は、今日も賑やかに更けていった。


挿絵(By みてみん)

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