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夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第4章「遺跡編」

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託された思い

翌朝。


 朝日が火山の麓を照らし始める頃には、すでに工房の奥から金属を叩く音が響いていた。


 カーン――。


 カーン――。


 今日も朝から、ゼノンが剣を打っている。


 だが、昨日と違うことが一つあった。


「ツバキ〜。そろそろいくぞ〜」


「はい」


 今日は鍛冶場にツバキも加わっていた。


 そして工房の外では――。


 シュッ――。


 シュッ――。


 悠真が昨日に引き続き、剣を振っていた。


 一振り。


 構え直して、もう一振り。


 昨日の夜と同じように、剣の重さを感じる。


 剣先の向きを感じる。


 ただ力任せに振るのではなく、剣がどう動こうとしているのかを意識する。


 まだ答えが分かったわけではない。


 それでも、昨日より剣を振る悠真の姿には、確かな自信があった。


「…………」


 少し離れたところで、フィルがそんな悠真を見ていた。


 そして小さく微笑む。


「頑張ってますね〜」


 それだけ言うと、フィルは魔導書を開き、自分の勉強を始めた。


◇


 その頃、鍛冶場では剣の仕上げが始まろうとしていた。


 炉の中では、魔鉱石から作られた剣が真っ赤に熱せられている。


 ゼノンはその状態を確かめると、ツバキへ声をかけた。


「まずはミスリルだ〜。錬成して炉にぶっ込め〜。あとはこっちで預かる」


「はい」


 ツバキは用意していたミスリルへ手を伸ばす。


 錬金術によって形を変え、ゼノンの指示通り炉へと入れた。


 ゴォォォ――。


 炎が勢いよく燃え上がる。


「よし!」


 ゼノンが剣を取り出す。


 カーン――!


 カーン――!


 槌を振り下ろすたび、火花が飛び散る。


 少し打っては炉へ戻し、熱を加える。


 再び取り出しては打ち込む。


 それを何度も繰り返していく。


「ツバキ! もう一度錬成を頼む!」


「分かったわ」


 ツバキが剣へ手をかざす。


 ミスリルと魔鉱石。


 二つの素材が、少しずつ一つになっていく。


 炉の熱気で二人の身体からは汗が噴き出していた。


 それでも、ゼノンの槌は止まらない。


 カーン――!


 カーン――!


 やがてゼノンが剣の状態を確認する。


「よし……次は逆鱗だ〜。同じように頼む〜」


「はい」


 今度は神龍の逆鱗。


 ツバキはゼノンの指示に従い、慎重に錬成していった。


 ゼノンが打つ。


 ツバキが錬成する。


 炉へ戻す。


 再び打つ。


 二人の作業は長い時間続いた。


 そして――。


「ツバキ〜。ありがとうよ。もう大丈夫だ〜」


「ふぅ〜……」


 ツバキが大きく息を吐く。


「あとは仕上げに入る。悠真を連れてこい」


「分かったわ」


◇


 ツバキは工房の外へ出た。


 火照った身体に朝の風が触れ、気持ちよさそうに息を吐く。


「ふぅ〜……涼しい」


 そして、まだ剣を振り続けている悠真へ声をかけた。


「悠真さん」


 シュッ――。


 悠真が剣を止める。


「はい?」


「ゼノンが呼んでいるわ」


「ゼノンさんが?」


「ええ」


 ツバキは微笑んだ。


「しっかり見届けて」


「……はい!」


 悠真は鍛冶場へ入っていった。


 中では、ゼノンが一人で剣を打っている。


「ゼノンさん」


「…………」


 ゼノンは振り返らない。


 ただ一言。


「そこに座って見てろ」


 悠真は近くに置かれている椅子に無言で座った。


 そして無言のまま、ゼノンの姿を見つめる。


 カーン――!


 カーン――!


 打っては、炉へ。


 熱を入れては、また打つ。


 何度も。


 何度も。


 同じことを繰り返しているように見える。


 けれど――。


(剣になっていく……)


 昨日、自分が振った時には、まだ剣の形をした鉄の塊だった。


 それがゼノンの槌が振り下ろされるたび、確実に一本の剣へと変わっていく。


 悠真は目を離すことができなかった。


 何故なのかは分からない。


 ただ、その姿を見ていると心に感じるものがあった。


 やがて――。


「ふぅ〜……」


 ゼノンが大きく息を吐いた。


 真っ赤に熱せられた剣を持ち上げる。


 そして、そのまま水の中へ。


 ジュウゥゥゥゥ――!


 一気に蒸気が立ち上った。


「…………」


 悠真はじっと見つめていた。


 ゼノンは剣を取り出すと、今度は静かに研ぎ始める。


 シャッ――。


 シャッ――。


 先ほどまで響いていた激しい槌の音とは違う。


 静かな音だけが鍛冶場に響いた。


 しばらくして、ゼノンが口を開いた。


「悠真」


「はい」


「ドワーフが剣を作る時に、剣の使い手を考えるのには理由がある」


 ゼノンは剣を研ぐ手を止めない。


「人が剣を使うんじゃね〜」


 シャッ――。


「剣が人を使うんだ」


「剣が……人を?」


「ああ」


 ゼノンは続ける。


「その剣に使ってもらう人間に合わせる。それが鍛冶職人なんだよ」


「…………」


「重すぎても駄目だ。軽すぎても駄目だ」


 ゼノンが悠真を見る。


「お前、昨日こいつを持った時に重いって感じただろ〜?」


「はい」


「その状態で振りゃ、バランスが悪いんだ」


 悠真は昨日のことを思い出す。


 確かに重かった。


 それでも不思議と手には馴染んだ。


「ま〜、おめえの素振りもまだまだだったが、剣のバランスもまだまだだったんだ」


「……あっ」


 悠真はようやく理解した。


 昨日の――。


 ――まだまだだな。


 あの言葉。


(両方だったのか……)


 ゼノンは再び剣へ目を戻した。


「こいつをおめえに託すんだ。しっかり覚えておけよ」


 シャッ――。


「鍛冶職人の心得ってやつをよ」


「……はい!」


 しばらくして。


 ゼノンが研ぐ手を止めた。


「よし。どうだ。持ってみろ」


「はい」


 悠真は差し出された剣を受け取る。


「…………!」


 握った瞬間だった。


(違う……)


 違和感がまったくない。


 重すぎない。


 軽すぎない。


 まるで最初から自分の手に合わせて作られていたかのようだった。


 そして刀身は、悠真が今まで見たこともない輝きを放っている。


 悠真は構えた。


 昨日の夜。


 そして今日。


 何度も剣を振ってきた。


 ゼノンの言葉を思い出す。


 剣の重さを感じる。


 剣先を感じる。


 そして――。


 気持ちを込める。


 シュッ――。


 一振り。


「…………」


 ゼノンは悠真を見ていた。


 そして――。


「ま〜、悪くはね〜な」


「え?」


「少しは分かったじゃね〜か」


 ゼノンはニヤリと笑う。


「このまま精進するんだな」


「はい!」


「よし。あとは仕上げとくから、お前は素振りでもしてな」


「はい。ありがとうございます!」


 悠真は深く頭を下げ、鍛冶場をあとにした。


◇


 外へ出る。


「あれ?」


 ツバキの姿がなかった。


 代わりに――。


「すぅ……すぅ……」


「…………」


 フィルが魔導書を開いたまま眠っていた。


「……寝てる」


 しかも、とても気持ちよさそうに。


 悠真は苦笑し、再び剣を手に取った。


 シュッ――。


 シュッ――。


 しばらく剣を振っていると、ツバキが戻ってきた。


 どうやら温泉で汗を流してきたらしい。


「悠真さん。どうでした?」


「はい」


 悠真は、鍛冶場で見たことを話した。


 ゼノンが剣を打つ姿。


 鍛冶職人の心得。


 そして、自分のために剣の重さやバランスまで考えてくれていたこと。


「そう」


 ツバキは優しく微笑んだ。


「認めてもらえたのね。よかったわ」


「それは分かりませんが……」


 悠真も少し笑った。


「ツバキさんも、ありがとうございました」


「私は少し手伝っただけですから」


「いいえ」


 悠真は首を横に振る。


「その代わり、今日は僕が夕飯を作りますから」


「あら」


 ツバキが嬉しそうに笑った。


「そう。楽しみね」


◇


 夕暮れ。


 悠真は一人、キッチンで夕飯の支度をしていた。


「よし……」


 準備を終え、窯へ目を向ける。


「あとは、窯で焼くだけっと」


 その時だった。


 鍛冶場の扉が開いた。


「悠真〜」


「はい?」


 ゼノンが出てくる。


 その手には――一本の剣。


「出来たぞ。受け取れ」


「……!」


 悠真は手を拭き、ゼノンの前へ向かう。


 そして両手で剣を受け取った。


「ありがとうございます!」


「ただな」


 ゼノンの表情が少し変わる。


「こいつは、まだ完成じゃね〜」


「え?」


 悠真は剣を見る。


「素材が素材だからな。間違いなくいい剣だ」


 ゼノンは腕を組んだ。


「だが……何かが足りね〜んだ」


「何か……」


「ああ。それに俺は、ツバキからこいつをどこで手に入れたのか、まだ聞いてね〜しな」


「それはね」


 横からツバキが口を挟んだ。


 ツバキはこれまでの出来事を話し始めた。


 土の神殿を調査したこと。


 五階層で、それまで存在しなかった扉が出現したこと。


 九階層には土の神龍がいたこと。


 そして十階層には祠があり、そこに古文書が存在していたこと。


 さらに悠真たち三人が、各地に存在する神殿を調査するため旅を続けていることも。


 話を聞いていたゼノンの目が、徐々に輝き始める。


「ってことは……」


 ゼノンが身を乗り出した。


「火の神殿にも神龍がいて、認められりゃ逆鱗が手に入るのか!?」


「まだ分からないわ」


 ツバキが答える。


「同じように扉が出現するのか。出現したとして、開くのかもね」


 そして悠真を見る。


「ただ、悠真さん。夢渡りが関係してるみたいだから、何かしら進展はあるはずよ」


「はい」


「……待て」


 ゼノンがツバキを見る。


「夢渡りってなんだ?」


「あら? 知らないの?」


「知らね〜な」


 ツバキは悠真へ目を向けた。


「悠真さんは、この世界とは違う世界から来ているのよ」


「違う世界だと?」


「はい」


 悠真が頷く。


「僕は眠ると、この世界に来るんです。そして、しばらくすると元の世界に戻ります」


「…………」


 ゼノンは悠真をじっと見つめた。


「おめえ……そんな奴だったのか」


「はい」


「だから“夢渡り”ってわけか」


「そういうことよ」


 ツバキが答える。


「それで、神殿に現れた扉も悠真さんが関係しているんじゃないかって、私たちは考えてるの」


「なるほどな〜」


 ゼノンは腕を組む。


 そして、何かを考えるように悠真を見た。


「ってことは、火の神殿でもおめえがいりゃ、何か起きるかもしれね〜ってことか」


「まだ分からないわ。でも、その可能性はあると思う」


「…………」


 ゼノンはしばらく黙っていた。


 そして突然――。


「俺も連れてけ!」


「え?」


「逆鱗もそうだが、古文書も気になる!」


 ゼノンの声が大きくなる。


「もしかしたら古代の鍛冶の知識が残ってるかもしれね〜しな!」


 ツバキが悠真を見る。


「悠真さん。こう言ってますけど?」


「もちろん、僕はいいですけど……」


 悠真はフィルを見る。


「みんなは?」


「わたしも賛成です〜!」


 ツバキも頷く。


「なら、決まりね」


 こうして――。


 悠真たちの旅に、四人目の仲間が加わった。


◇


「じゃ〜、剣の完成と、新しい旅仲間に――」


 悠真がコップを掲げる。


「乾杯!」


「乾杯です〜!」


「乾杯〜」


「ガハハハ! 乾杯だ〜!」


 四人の声が工房に響いた。


 フィルが目の前に置かれた料理を不思議そうに見る。


「悠真さん、これは何ですか〜?」


「ピザだよ」


「ぴざ?」


「そう。とにかく食べてみて」


「はいです〜!」


 フィルが一切れ手に取る。


 ツバキとゼノンも続いた。


 そして――。


「ん〜!」


 フィルが一口かじった瞬間。


 チーズが伸びた。


「んん〜!?」


 さらに伸びる。


「悠真さ〜ん! 噛み切れないです〜!」


「はははっ」


 ようやくチーズを噛み切り、フィルが目を輝かせる。


「おいしいです〜!」


「あら、本当。美味しいわね〜」


 ツバキも嬉しそうに頬張る。


「こいつもエールに合うな〜!」


 ゼノンはピザを片手にジョッキを傾ける。


「ガハハハ! 美味ぇ!」


 今日もまた。


 工房の食卓は、賑やかな笑い声に包まれていた。


◇


 食後。


 四人は工房の裏にある温泉へ来ていた。


「ふぅ〜……」


 悠真は湯に身体を沈め、大きく息を吐く。


 一日中剣を振り続けた身体に、温かな湯が染み込んでいく。


 ツバキは、カエデから預かっていた酒をゼノンの器へ注いでいた。


 ゼノンが一口飲む。


「くぅ〜……」


 そして満足そうに笑った。


「やっぱりカエデの酒はうめ〜な〜!」


「ウフフ。よかったわ。母も喜ぶわよ」


「カエデがか〜?」


 ゼノンは嬉しそうに、もう一口飲んだ。


 悠真はエール。


 フィルは果実水。


 それぞれ飲み物を片手に、夜空を見上げながら温泉を堪能する。


 すると――。


「悠真さ〜ん」


「ん?」


 フィルが悠真を見る。


「あの、おつまみ? はもうないんですか〜?」


「ああ」


 悠真は少し考える。


 そしてニヤリと笑った。


「あるよ〜」


「ほんとですか〜!?」


 悠真が取り出したのは、小さく軽い一口サイズの食べ物。


「その名も――えびせん」


「えびせん?」


「食べてみて」


 フィルが一枚手に取る。


 ポリッ。


「…………」


 ポリポリ。


「美味しいです〜!」


「だろ?」


 もう一枚。


 ポリポリ。


 さらに一枚。


 ポリポリ。


「…………」


 悠真はフィルを見る。


「フィル?」


「止まらないです〜」


「やっぱりか……」


「おい。俺にもくれ」


 ゼノンも一枚取る。


 ポリッ。


「…………」


 もう一枚。


 ポリポリ。


 そしてカエデの酒を一口。


「…………!」


 ゼノンの目が見開かれた。


「なんだこりゃ! 酒に合いすぎるじゃね〜か!」


 ポリポリ。


 グビッ。


 ポリポリ。


 グビッ。


「ゼノン。そんなに美味しいの?」


 ツバキも一枚。


 ポリッ。


「あら……」


 もう一枚。


 ポリポリ。


「本当ね。止まらないわ」


「だろ〜!? ガハハハ!」


「悠真さ〜ん」


「ん?」


「もうないです〜」


「えっ!?」


 悠真が袋を見る。


「早くない!?」


「ガハハハハ!」


 温泉に笑い声が響く。


 新しい剣。


 新しい仲間。


 そして――新しい旅。


 火山の麓の夜は、今日も賑やかに更けていった。


挿絵(By みてみん)

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