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夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第4章「遺跡編」

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鍛治

 翌朝。


 悠真が目を覚ますと、工房の奥から金属を叩く音が聞こえていた。


 カーン――。


 カーン――。


「……もう始めてるのか?」


 まだ少し眠気の残る身体を起こし、悠真は階段を下りていく。


 居間へ向かうと、ツバキはすでに朝食を終え、お茶を飲んでいた。


「おはようございます」


「おはよう〜」


 悠真は鍛冶場の方へ目を向ける。


 カーン――。


 カーン――。


 一定の間隔で、槌を振るう音が響いている。


「早いですね」


 ツバキは小さく笑った。


「あの人、なんだかんだ楽しみなのよ」


「楽しみ?」


「ええ。あれだけ珍しい素材を目の前にしたんですもの。いてもたってもいられないんじゃない?」


「なるほど……」


 悠真も思わず笑った。


 昨日までは、あれほど頑なに剣を打つことを断っていたというのに。


 今では誰よりも早く起きて、槌を振るっている。


「私の出番はまだ先だから、それまでは私と一緒に修行しましょ」


「分かりました。ありがとうございます」


 その時。


「おはようございます〜」


 二階から、眠そうな声が聞こえてきた。


 フィルだった。


 まだ完全には目が覚めていないのか、目を擦りながら階段を下りてくる。


「みなさん、早いですね〜」


 そして、鍛冶場から聞こえてくる音に気づいた。


「あっ。ゼノンさんはもう始めてるんですね〜」


 フィルはそのまま鍛冶場へ歩いていく。


「ゼノンさ〜ん。今は何をしてるんですか〜?」


「おぉ〜? フィルか〜?」


 ゼノンは作業の手を止めずに答えた。


「今はな〜、剣のベースになるところを作ってんだ」


「ベースですか〜?」


「ああ。魔鉱石をあっためては打つ。折りたたんで、またあっためては打つ。それを何度も繰り返してくうちに、少しずつ形になってくのさ」


「へ〜、そうなんですね〜」


 フィルは赤く熱せられた魔鉱石を興味深そうに見つめる。


 カーン――。


 カーン――。


 しばらくすると、ゼノンが手を止めた。


「フィル。ちょっと悠真を呼んでこい」


「はーい」


 フィルが鍛冶場から顔を出す。


「悠真さ〜ん。ゼノンさんが呼んでますよ〜」


「僕を?」


 悠真は鍛冶場へ向かった。


「ゼノンさん、どうしましたか?」


「ちょっと手ぇ出せ」


「手ですか?」


「ああ」


 悠真が手を差し出す。


 ゼノンはその手をじっと見つめた。


 掌。


 指の長さ。


 剣を握ることで硬くなった部分。


 そして、確かめるように何度か悠真の手に触れる。


「…………」


 やがてゼノンは手を離した。


「よし。行っていいぞ」


「え?」


「お前は、自分ができることをしろ」


「……はい!」


 詳しい説明はなかった。


 けれど悠真には、なんとなく分かった。


 ゼノンは今、自分のために剣を作ろうとしている。


 なら、自分も今できることをする。


 悠真はツバキのもとへ戻った。


「よし! ツバキさん! お願いします!」


「ええ。始めましょうか」


◇


 二人は工房の外へ出た。


 朝の空気はまだ涼しく、遠くには火山から煙が立ち昇っている。


「でも……具体的に何をすればいいのか」


 悠真は借りている剣を見る。


「なんせ、夢世界に来るまでは剣なんて振ったことなかったし……」


 これまで実戦の中で剣を振ってきた。


 スキルも手に入れた。


 それでも、誰かから剣の基礎を教わったことは一度もない。


「今度戻った時に、本屋さんでも行ってみよう〜」


「とりあえず、素振りね」


「素振りですか?」


「ええ。全ての基本となりますから」


 ツバキは悠真の構えを見る。


「ただ振るのではなく、一つ一つ丁寧に振るのよ」


「はい」


「点と点をつなぐように」


 悠真は剣を構えた。


 そして――。


 シュッ――。


 一振り。


「もう一度」


「はい」


 シュッ――。


「今のは少し力が入りすぎね」


「分かりました」


 もう一度。


 今度は力ではなく、剣の軌道を意識する。


 シュッ――。


「そう。それを身体に覚えさせるの」


「はい!」


 悠真は何度も剣を振った。


 一振り。


 また一振り。


 ツバキはその傍らで、自分の錬成の練習をしている。


 素材を変形させては戻し、再び違う形へと変えていく。


 それでも、ときどき悠真へ目を向けた。


「悠真さん。今のは少し軌道がずれてますよ」


「あっ……はい!」


 一方、少し離れたところでは――。


「…………」


 フィルが魔導書を開き、黙々と勉強していた。


 悠真は剣。


 ツバキは錬金術。


 フィルは魔法。


 そして工房からは――。


 カーン――。


 カーン――。


 ゼノンが槌を振るう音が、絶えず響いていた。


◇


 昼食を終えたあとも、それは続いていた。


 シュッ――。


 シュッ――。


 朝に比べれば、悠真の剣の振りから迷いが消え始めていた。


 一つ一つ。


 丁寧に。


 点と点をつなぐように。


 ツバキは午後から薬品の精製を始め、いくつもの小瓶を並べて作業をしている。


 そしてフィルは――。


「すぅ……すぅ……」


「……寝てる」


 魔導書を開いたまま、お昼寝をしていた。


 悠真は苦笑すると、再び剣を構える。


 シュッ――。


 カーン――。


 シュッ――。


 カーン――。


 二つの音が、しばらく続いていた。


 やがて――。


 カーン――。


「…………」


 工房から聞こえていた音が止まった。


 悠真が振り返る。


 しばらくすると、ゼノンが鍛冶場から出てきた。


 その手には、まだ刃もついていない、剣の形をした鉄の塊が握られている。


「悠真。ちと、これで振ってみろ」


「はい」


 悠真はそれを受け取った。


「……重い」


 今まで使っていた剣よりも、ずっしりと重さを感じる。


 なのに――。


(……あれ?)


 握った瞬間。


 不思議なほど手に馴染んだ。


 朝、ゼノンが自分の手を見ていたことを思い出す。


「振ってみろ」


「はい」


 悠真は剣を構えた。


 今日一日、何度も繰り返してきたことを思い出す。


 点と点をつなぐ。


 一つ一つ、丁寧に。


 シュッ――。


 一振り。


 そして構え直す。


 シュッ――。


 二振り。


「…………」


 ゼノンは黙って見ていた。


 そして一言。


「まだまだだな」


「え?」


 ゼノンはそれ以上何も言わず、ツバキへ目を向けた。


「ツバキ。明日からはお前も手伝え」


「分かったわ」


 ツバキは薬品を片付け始める。


「さっ。今日は終わりにしましょ」


「はい」


 悠真はゼノンが持つ剣へ目を向けた。


(まだまだ……)


 自分の振りが、まだまだなのか。


 それとも――。


 剣の出来が、まだまだなのか。


 ゼノンは何も教えてくれなかった。


◇


 夕食を終えると、皆それぞれの部屋へ戻っていった。


 工房を包んでいた賑やかな声も消え、辺りには静かな夜が訪れる。


 けれど――。


 ただ一人。


 悠真は静かに外へ出た。


「……まだまだ、か」


 どうしても、ゼノンの言葉が頭から離れなかった。


 工房から少し離れた場所で剣を構える。


 そして――。


 シュッ――。


 一つ。


 もう一度。


 シュッ――。


 また一つ。


 昼間に教わったことを思い出しながら、一振りずつ丁寧に振っていく。


(剣を振る……)


 シュッ――。


(なぜ、剣を振る……?)


 悠真は、ふと剣を止めた。


 今までは考えたこともなかった。


 剣を握る。


 構える。


 そして振る。


 それが当たり前だった。


「…………」


 悠真は手の中の剣を見つめる。


 そして、もう一度構えた。


 今度は、ただ自分から振ろうとはしなかった。


 握る手から少し力を抜く。


 剣の重さを感じる。


 剣先の向きを感じる。


 自分がどう振りたいのかではなく――。


 この剣が、どう動こうとしているのか。


 シュッ――。


「…………」


 何かが違った。


 けれど、それが何なのかはまだ分からない。


 もう一度、構える。


 シュッ――。


 一つ。


 また一つ。


 答えを探すように、悠真は静かに剣を振り続けた。


 そんな悠真を、いつの間にか少し離れた場所から見つめている者がいた。


 ゆっくり悠真へ近づくと、その場にしゃがみ込み、じっと見つめていた。


 そして――。


 悠真が最後の一振りを終え、剣を下ろす。


 それを待っていたかのように、フィルが声をかけた。


「悠真さん」


「ん?」


「納得できましたか?」


「…………」


 悠真は少し考えた。


「ん〜……どうかな」


「そうですか〜」


 フィルはいつものように笑った。


「では、また明日頑張りましょ〜」


 そして立ち上がる。


「ほら、寝ますよ〜」


「ああ」


 フィルはそれ以上何も聞かず、工房へ戻っていった。


 悠真はその後ろ姿を見つめる。


 答えは、まだ分からない。


 ゼノンが何を見ていたのかも。


 剣を振るとは何なのかも。


 それでも――。


「……なんだろう」


 さっきまで胸の奥にあったモヤモヤが、少しだけ消えた気がした。


 悠真は手の中の剣へ目を落とす。


 そして、小さく呟いた。


「フィル……ありがとう」


 静かな夜。


 悠真は剣を手に、工房へと戻っていった。

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