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夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第4章「遺跡編」

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決意の先

 レッサードラゴンとの戦いを終え、ゼノンは大きく息を吐いた。


 しばらく倒れたドラゴンを見つめていたが、やがて斧を背負い直す。


「……とりあえず、工房に戻るぞ」


「はい」


 悠真も頷いた。


 二人はレッサードラゴンを回収すると、そのまま山を下り始めた。


 魔鉱石。


 ミスリル。


 剣を作るために必要な二つの素材は揃った。


 そして、思いがけず手に入ったものがもう一つ――。


 悠真は少しだけ嬉しそうに歩いていた。



 山を下り、二人はゼノンの工房へ戻ってきた。


「おかえりなさい。どうでした?」


 フィルが二人を迎える。


 ツバキも悠真とゼノンへ視線を向けた。


 悠真の表情。


 そして、ゼノンの様子。


 それだけで、何となく察したらしい。


「ゼノン。どうだった?」


「どうしたもこうしたもねぇぞ、ツバキ」


 ゼノンは呆れたように悠真を見る。


「どうなってやがる? こいつの戦い方、普通じゃねぇじゃねぇか」


 ツバキは小さく笑った。


「だから言ったじゃない。普通じゃないって」


「……納得だ」


 ゼノンは腕を組み、改めて悠真を眺めた。


「これじゃあ、その辺のもんじゃもたねぇな……」


 しばらく考え込む。


 そして――


「……打ってやるよ」


「え?」


「お前の剣だ。俺が打ってやる」


 悠真の顔が一気に明るくなった。


「いいんですか!? ありがとうございます!」


「その代わり――」


 ゼノンはツバキを見る。


「お前も手伝え」


「私も?」


「ああ。これだけの素材だ。鍛冶だけじゃ駄目だ。お前の錬金術も必要になる」


 ツバキは神龍の逆鱗へ目を向ける。


 そして頷いた。


「ええ。分かったわ」


「それと、お前」


 ゼノンは悠真を見る。


「剣ができるまで、剣の修行をやっとけ」


「分かりました」


 悠真はもう一度、深く頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 そして、少し考えてから続ける。


「その代わり、お礼として今日の夕飯は僕が作ります」


「ほんとですか〜!?」


 真っ先に食いついたのはフィルだった。


「悠真さんの料理はおいしいんですよ〜!」


 悠真はそんなフィルへ近寄る。


「それに今日は、念願の素材が手に入ったんだよ〜!」


「え? 何ですか? それは〜」


「まあ、出来上がるまで楽しみにしてて」


「はいです〜!」



 夕暮れ。


 工房のキッチンでは、悠真とツバキが並んで料理をしていた。


 鍋からは湯気が立ち上り、肉の焼ける香ばしい匂いが漂っている。


「まさか、帰りにそんなことがあったなんてね〜」


「ですね。でも、そのおかげで念願の素材が手に入りましたから」


「そうね」


 ツバキは小さく笑った。


「さて。あの二人が温泉から出てくるまでに仕上げちゃわないと」


「はい」


 悠真は小瓶を取り出し、料理へ振りかけていく。


 それを見たツバキが笑う。


「また、その魔法? の粉、使うのね?」


「はい。もちろんですよ〜」


 しばらくすると――


 ガチャ。


 扉が開いた。


「ん〜! いい匂いです〜!」


 フィルが満面の笑みで戻ってくる。


「いや〜。いいお湯でしたよ〜、ツバキさ〜ん」


「あら、それは楽しみね」


「まさか、ゼノンさんの家の裏に温泉があるなんて思いませんでしたよ〜」


「ガハハハ! フィルはおもしれぇな〜!」


 その後ろから、ゼノンもジョッキを片手に現れた。


 どうやら温泉に入っている間に、すっかり仲良くなったらしい。


「ゼノンさんの背中を流してる時、お父さんみたいで懐かしかったです〜」


「そうか? なら、また頼むわ〜」


「はいです〜!」


 その様子を見て、ツバキが楽しそうに笑った。


「いいわね」


 そして悠真を見る。


「悠真さん。私たちもあとで入りましょ」


「え?」


 悠真の動きが止まった。


「一緒にですか?」


「ええ。背中、流してくれるんでしょ?」


「えぇ〜……」


 悠真は一瞬固まる。


「……分かりました」


 顔がみるみる赤くなっていった。


 ツバキはそんな悠真を見て、楽しそうに微笑んでいる。


「さて、夕食にしましょ」


「はい!」


 悠真は完成した料理をテーブルへ並べていった。


「今日の夕飯は――」


 一つ目の皿を置く。


「フレイボアのシチュー!」


 そして、大皿をテーブルの中央へ。


「それと――レッサードラゴンのステーキです!」


「…………」


 一瞬、静かになった。


「ドラゴンですかー!?」


 フィルの声が工房中に響く。


「おぉ!」


 ゼノンも目を輝かせる。


「こいつはエールにも合いそうだな〜!」


 四人はテーブルを囲んだ。


「いただきます」


 そして全員が、レッサードラゴンの肉を口へ運ぶ。


「…………!」


 悠真の目が見開かれた。


 柔らかい。


 口の中で溶けていくような食感。


 それでいて肉そのものの濃厚な旨味は、しっかりと残っている。


(なんだ、これ……)


 今まで食べてきた肉は何だったのか。


 そう思ってしまうほどだった。


「おいしいです〜!」


 フィルも幸せそうに頬を押さえている。


 悠真は思わず笑った。


(やっと食べられた……)


 以前、ツバキから聞いた。


 魔物は強くなればなるほど、おいしくなる。


 そして――一番おいしいのはドラゴン。


 あの時、悠真は決めた。


 いつかドラゴンを倒して、その肉を食べると。


 それが今日、叶ったのだ。


 すると――


「あっ!」


 フィルが何かに気づいた。


「悠真さん」


「ん?」


「アレは?」


「え?」


「アレはないんですか〜?」


 ゼノンがエールを一口飲みながら首を傾げる。


「アレって何だ?」


 悠真はフィルを見る。


 そして――低い声で答えた。


「……あるよ」


「やったです〜!」


 悠真が取り出したのは――


 あの、魔法のソース。


 ステーキ用のガーリックソースだった。


 フィルはすぐに受け取り、ドラゴンのステーキへかける。


 ジュワッ――。


 ガーリックの香りが一気に広がった。


「おい。俺にもかけてみろ」


 匂いにつられたゼノンも皿を差し出す。


 二人が同時に肉を口へ運び――


「美味い!」


「おいしいです〜! やっぱりコレです〜!」


「この味はエールが止まらねぇぞ〜! ガハハハ!」


 ゼノンが豪快にジョッキを傾ける。


 その隣ではフィルが嬉しそうにドラゴン肉を頬張っている。


 悠真とツバキは顔を見合わせた。


 そして、二人同時に笑った。



 賑やかな夕食が終わった頃。


 悠真とツバキは、工房の裏にある温泉へ来ていた。


 岩に囲まれた露天風呂。


 火山から湧き出す湯から白い湯気が立ち上り、夜空には無数の星が輝いている。


 二人ともドワーフ流の湯浴み着を身につけていた。


 とはいえ――


(……いくら湯浴み着を着てるからって、二人っきりはキツいよ〜)


 悠真の心の叫びなど知る由もなく、ツバキはいつも通りだった。


「悠真さん。お背中流しますから、こっちに来てください」


「…………」


「悠真さん?」


「……はい」


 悠真は諦めた。


 背中を流してもらったあと、二人は温泉へ身体を沈める。


「ふぅ〜……」


 ツバキが気持ちよさそうに息を吐いた。


「本当にいいお湯ね。悠真さん」


「はい」


 悠真も夜空を見上げる。


 温かな湯が、戦いで疲れた身体へ染み込んでいくようだった。


 しばらく静かな時間が流れる。


「それに……ツバキさん」


「はい?」


「ありがとうございました」


 ツバキが悠真を見る。


「僕のために、いろいろしてくれて」


「い〜え」


 ツバキは穏やかに微笑んだ。


「自分のためでもありますから。気にしないで」


「……はい」


「でも、大変なのはこれからよ」


「はい」


 悠真は自分の手を見る。


 折れてしまった剣。


 そして、ゼノンから言われた言葉を思い出す。


 ――お前の腕がよけりゃ、こうはならねぇ。


「僕、剣の使い方をちゃんと考えようと思います」


「あら?」


「剣術のスキルを持ってるだけじゃ、駄目なんだと思います」


 悠真は静かに自分の手を握る。


(僕自身が上手くならないと……)


 どれだけ強い剣を手に入れても。


 使う自分が成長しなければ、その力を本当に引き出すことはできない。


「だから、ちゃんと修行します」


 その言葉を聞き、ツバキは優しく微笑んだ。


「ええ。それがいいと思いますよ」


「ツバキさんも……よろしくお願いします」


「ええ」


 ツバキは温泉の向こうにある火山を見つめる。


「私も、どこまでできるか分からないけど……やってみるわ」


「はい」


 二人は静かに夜空を見上げた。


 火山の麓の夜は、静かに更けていった。

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