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夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第4章「遺跡編」

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伝説の鍛治職人

 翌朝。


 悠真たちは豪快な朝食を済ませると、ツバキの案内でゼノンの工房を目指した。


 工房といっても、ドワーフの国では家と工房が一緒になっていることが多い。


 街を離れ、火山の麓を回り込むようにしばらく歩いていく。


 やがて、一軒の工房が見えてきた。


 周囲に他の建物はなく、街から少し離れた場所にぽつんと建っている。


 ツバキは慣れた様子で扉の前まで行くと、軽くノックした。


「ゼノン。いる〜?」


 返事はない。


 だが――


 カァン――。


 カァン――。


 工房の奥から、金属を叩く音が聞こえてくる。


 ツバキは小さく息を吐いた。


「……いつものことね」


 そう言って、今度は返事を待つことなく扉を開ける。


「ゼノン。入るわよ〜」


 悠真とフィルも、その後に続いて中へ入った。


 工房の中には、鉄と煤、そして焼けた金属の独特な匂いが漂っている。


 奥からは相変わらず、


 カァン――。


 カァン――。


 一定の間隔で、槌を振るう音が響いていた。


 ツバキは迷うことなく、その音のする鍛冶場へ向かう。


 悠真たちも後を追った。


 鍛冶場へ入ると、炉の炎が赤々と燃えていた。


 その前に――ひとりのドワーフがいる。


 背丈は低い。


 だが、その背中は分厚く、肩から腕にかけて鍛え上げられた筋肉が盛り上がっている。


 肩ほどまで伸びた茶色の髪。


 そして横顔からでも分かるほど、立派に蓄えられた髭。


 革の前掛けを身につけ、炉の炎を浴びながら、一心に槌を振るっていた。


 カァン――!


 火花が散る。


 その姿には、悠真たちが入ってきたことなど気にも留めていないような、凄まじい集中力があった。


 ツバキが声を張る。


「ゼノン!」


 それでもゼノンは振り返らない。


 槌を振り下ろしながら、ゆっくりと答えた。


「……聞こえてるよ」


 カァン――!


「今、いいところだ」


 もう一度、槌が振り下ろされる。


「待ってろ」


 悠真たちは鍛冶場を離れ、外の部屋でゼノンを待つことにした。


 しばらくの間、


 カァン――。


 カァン――。


 奥から一定の間隔で槌の音が響いていた。


 やがて――その音が止まる。


 静かになった工房で待っていると、しばらくしてゼノンが姿を現した。


「ツバキ〜。今度はなんだ〜? また魔道具か〜?」


 ゼノンは面倒そうに頭を掻きながら、ツバキを見る。


「カエデのばばぁは元気か〜?」


「元気よ。今日はあなたに別のお願いがあって来たのよ」


「別のお願い?」


 ツバキは悠真へ視線を向けた。


「この子の剣を鍛えてほしいのよ」


「そりゃ、お断りだ」


 即答だった。


「お前だって知ってんだろ〜。俺は普通の剣は作らねぇって」


「ええ。知ってるわ」


 ツバキは気にした様子もなく答える。


「それが普通じゃないから、あなたのところに来たのよ」


「あぁ?」


 そこでようやく、ゼノンが悠真を見る。


 百五十センチにも満たないゼノンが、悠真の前まで歩いてくる。


 そして――下から覗き込むように、じろじろと悠真を見た。


「なんだぁ? ひょろひょろのガキにしか見えねぇけどな〜」


「悠真さんは、そんなことないですよ〜!」


 横で聞いていたフィルが、少し頬を膨らませる。


 ツバキも小さく笑った。


「ええ。悠真さんは普通ではないの」


「…………」


 ゼノンはもう一度、悠真を見る。


 悠真はその視線を正面から受け止めた。


「お願いします、ゼノンさん」


 そして、頭を下げる。


「僕に新しい剣を作ってくれませんか?」


「…………」


 ゼノンは答えない。


 悠真の身体つき。


 立ち方。


 腰に差した剣。


 まるで品定めでもするように、上から下までじっくりと眺めていく。


 そして――


「……折れた剣を見せてみろ」


「はい」


 悠真は腰から剣を外すと、ゼノンへ差し出した。


 ゼノンは無言でそれを受け取る。


「……これは」


 刃を光にかざし、折れた断面をまじまじと確認する。


「どんな硬ぇもんと戦ったら、こんなことになるんだ……。岩の塊でも斬ってたのか?」


 悠真は何も答えず、ゼノンの様子を見つめていた。


 ゼノンはさらに刃へ顔を近づける。


「それに……剣に魔力の残滓が残ってやがるな」


 指先で刀身をなぞる。


「お前、魔法でも斬ったのか〜?」


「…………」


 悠真は思わず目を見開いた。


 まだ何も説明していない。


 それなのにゼノンは、折れた剣を見ただけで、そこで何が起きたのかを少しずつ見抜いていく。


「どのみち、こんな使い方してりゃ剣はいかれちまうわ」


 ゼノンは折れた刀身を軽く振る。


「それに――お前の腕も悪い」


「え?」


「お前の腕がもっと良けりゃ、こうはならねぇな」


 容赦のない一言だった。


 だが悠真は言い返さない。


「……すみません。精進します」


「ふん」


 ゼノンは剣を悠真へ返した。


「だからといって、俺がお前の剣を打つ理由にもなんねぇな〜」


「…………」


「俺は古代の知識と技術を研究して、それを磨くことに時間を使ってんだ」


 ゼノンは悠真を見上げる。


「それを、お前みたいな――」


「ゼノン」


 ツバキの声が割って入った。


 その声は、先ほどまでより少し低い。


 ツバキはわずかに苛立っていた。


 自分のことなら気にしない。


 だが、旅を共にしてきた仲間をこれ以上貶されるのは面白くなかった。


 ツバキは腰のアイテムポーチへ手を伸ばす。


「……交渉よ」


「あ?」


 取り出したものを、ゼノンの目の前へ差し出した。


「…………!」


 ゼノンの表情が変わった。


 先ほどまでの気だるそうな目が、大きく見開かれる。


「お前……これ、どうした!?」


 ゼノンが身を乗り出す。


「逆鱗じゃねぇか!」


 さらに食い入るように見つめ――眉を寄せた。


「いや……待て」


 職人の目が鋭くなる。


「こいつは、ただのドラゴンじゃねぇな……」


 ツバキがわずかに笑う。


「さすがね」


 そして告げた。


「これは――神龍の逆鱗よ」


「……何だと!?」


 ゼノンが勢いよく顔を上げる。


「あの伝説の神龍か!?」


「そうよ」


 ツバキは静かに頷いた。


「土の神殿で手に入れたのよ」


 ゼノンは言葉を失った。


 その視線は、ツバキの手にある逆鱗へ釘付けになっている。


 先ほどまで悠真の依頼など相手にしていなかった男が――


 初めて、明らかな興味を示していた。

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