表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第4章「遺跡編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/64

ドワーフ流

光とともに、悠真は馬車の中へ戻ってきた。


「……戻ってきた」


 光が収まり、悠真は辺りを見渡す。


「フィル? ツバキさん?」


 しかし、二人の姿はなかった。


「どこ行ったんだ?」


 馬車を降りてみると、目の前には冒険者ギルドらしき建物がある。


 どうやら馬車は、その前に停められているようだった。


 そして――。


「……暑っ」


 むっとした熱気が身体を包む。


 中継地点の村とは、明らかに気温が違う。


「なんだ、ここ……」


 悠真は街を見渡し――目を疑った。


「溶岩……?」


 街の中を、赤々と輝く溶岩が川のように流れている。


 ゴツゴツとした黒い岩で造られた建物。


 その間を縫うようにいくつもの溶岩の水路が走り、街のあちこちから白い蒸気が立ち上っていた。


 遠くを見上げれば、巨大な火山。


 山頂からは黒煙が立ち上り、ときおり赤い光が見える。


 火山は常に小さな噴火を繰り返し、そこから流れ出した溶岩が、この街まで続いているようだった。


「こんなところに街を造ったのか……」


 驚く悠真とは対照的に、街の住人たちは何事もないように溶岩の横を歩いている。


 その多くは、悠真よりも頭一つほど背が低い。


 しかし身体はがっしりとしていて、腕や肩には分厚い筋肉がついている。


 男性の多くは豊かな髭を蓄え、中には胸元まで伸びた髭を編み込んでいる者までいた。


 女性も小柄ながら身体つきはしっかりとしていて、厚手の革服や作業着のような服を身につけている者が多い。


 そして街の至るところから――。


 カンッ!


 カンッ!


 カンッ!


 金属を叩く音が聞こえてくる。


「すごいな……」


 悠真は思わず周囲を見回した。


 その時、目の前のギルドの扉が開いた。


「あっ!」


 聞き慣れた声がする。


「悠真さん!」


 ギルドから出てきたフィルが、悠真を見つけて駆け寄ってきた。


「お帰りなさい!」


「ただいま」


 その後ろからツバキも歩いてくる。


「ちょうどよかったわ。今、ギルドに薬品を納品していたところなのよ」


「そうだったんですね」


 悠真は改めて街を見回した。


「それじゃ、ここは……?」


 フィルが嬉しそうに両手を広げる。


「そうです! ドワーフの国――首都ヴォルカニアです〜!」


「おお……」


 悠真はもう一度、街を見渡す。


「すごいですね〜。本当に街の中に溶岩が流れてますよ」


「それは俺も思った」


 するとツバキが、流れる溶岩へ目を向けた。


「ドワーフたちは、この溶岩の熱を利用して鍛冶をしているのよ」


「溶岩の熱を……?」


「ええ。ここでは昔から、火山の恵みを利用して武器や防具、それに魔道具を作っているの」


「へえ……」


 カンッ!


 カンッ!


 再び金属を打つ音が聞こえてくる。


 悠真の視線が、自然と音のする方へ向いた。


(鍛冶か……)


 現実世界では機械を組み立てる仕事をしている。


 やっていることは違う。


 それでも、金属を加工して何かを作り上げるということには、どうしても興味を惹かれてしまう。


(どんな道具を使ってるんだろう……)


 少しだけ胸が高鳴る。


 その様子を見ていたフィルが笑った。


「悠真さん、なんか楽しそうですね〜」


「え? そうか?」


「顔に出てますよ〜」


「…………」


 否定できなかった。


 するとツバキが、ぱんっと手を合わせた。


「さて。薬品の納品も終わったし、悠真さんも戻ってきたことですから――」


「はい」


「まずは温泉に行きましょう」


「賛成です〜!」


 フィルが即答した。


「この街、暑いので早く汗を流したいです〜」


「温泉……」


 悠真は街のあちこちから立ち上る蒸気を見る。


 火山。


 溶岩。


 そして温泉。


「いいですね」



 三人はヴォルカニアの温泉へ向かった。


 火山の地熱を利用した天然温泉。


 ドワーフたちにとって、仕事を終えたあとに疲れを癒やす憩いの場所でもあるらしい。


 そして、悠真が少し驚いたことが一つ。


「混浴なんだ……」


 男女で浴場が分かれていない。


 ただし、全員が湯浴み用の服に着替えてから温泉へ入るのが、この国の決まりだった。



「は〜……気持ちいいですね〜」


 湯に浸かったフィルが、幸せそうに身体を伸ばす。


「そうね〜。ドワーフの人たちは毎日入れて羨ましいわ」


 ツバキも久しぶりの温泉を楽しんでいるようだった。


「…………」


 悠真は二人から少し離れた場所で、一人静かに湯に浸かっていた。


 それに気づいたフィルが首を傾げる。


「悠真さん。なんでそんなに離れてるんですか〜?」


「いや……」


 悠真はちらりと二人を見る。


(だって、いくら服を着てるからって……)


「俺はここで大丈夫です」


「変な悠真さんですね〜」


「ほっといてくれ」


 悠真は少し熱くなった顔を誤魔化すように、肩まで湯へ沈んだ。



 しばらく温泉を楽しんでいると、仕事を終えたドワーフたちが次々と入ってきた。


「今日も疲れたな〜!」


「まずは一杯だ!」


「…………?」


 悠真は彼らの手元を見る。


 ドワーフたちは皆、小さな桶のようなものを持っていた。


 その中には――。


「エール?」


 大きなジョッキが入っている。


 一人のドワーフが悠真に気づいた。


「なんだ若いの。エールも飲まずに湯に入ってるのか?」


「え?」


「ここじゃ湯に入りながらエールを飲むのが常識だぞ〜!」


「そうなんですか?」


 周囲を見れば、確かにドワーフたちは湯に浸かりながら豪快にエールを飲んでいる。


「それじゃ、俺も持ってきます」


 悠真は立ち上がった。


「ツバキさんはどうしますか?」


「お願いできますか?」


「分かりました」


 悠真は二人分のエールを持って戻ってくる。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 ツバキへジョッキを渡し、再び湯へ浸かる。


 そして――。


「いただきます」


 ぐいっ。


「…………」


 温泉に浸かりながら飲む冷たいエール。


「美味い……」


 確かに美味い。


 美味いのだが――。


「…………」


 何かが足りない。


(そうだ)


 悠真は思い出した。


(コンビニで買ったあれがあるな)


 悠真は《アイテムBOX》から、いくつかのおつまみを取り出した。


「悠真さん、それは?」


「エールに合うお菓子とかです」


「お菓子?」


「食べてみます?」


「いただきます」


 ツバキが最初に手に取ったのは、柿ピーだった。


 一口食べる。


「…………ん!」


 もう一つ口へ運び、エールを一口。


「これ、エールと合いますね〜」


「でしょ?」


 さらに悠真は、別のおつまみも取り出した。


「こっちはスモークチーズと、燻製された肉です」


 ツバキが一つずつ食べてみる。


「これも美味しい……。このスモークされたチーズとお肉が、なんとも言えませんね〜」


「温泉に入りながらだと、余計に美味いですね」


 そんな二人の様子を見ていたドワーフたちが、いつの間にか近くへ集まっていた。


「若いの」


「はい?」


「それはなんだ?」


「おつまみですけど」


「俺たちにも分けてくれよ!」


「いいですよ〜」


「おお! 話が分かるじゃねえか!」


 悠真がおつまみを差し出す。


 ドワーフが柿ピーを口へ放り込み、そのままエールを流し込んだ。


「…………!」


「どうです?」


「うん! 美味いな〜!」


 もう一人もスモークチーズを食べる。


「こいつもいい!」


「エールに合うお菓子なんてあるんだな〜!」


 あっという間に、悠真の周りへドワーフたちが集まり始めた。


「若いの、こっちもくれ!」


「俺はその肉だ!」


「はいはい。まだありますから」


 その様子を、フィルは少し離れたところから眺めていた。


 すると、一人のドワーフが声をかける。


「お嬢ちゃんは飲まんのか?」


「私はお酒は飲めないんです〜」


「もったいね〜な〜!」


「美味しいんですか?」


「当たり前だろ! 仕事のあとの温泉とエール! これ以上のもんはねえ!」


「へえ〜」


 いつの間にか、温泉はちょっとした宴会のようになっていた。


「若いの!」


「はい?」


「気に入ったぞ〜!」


「ありがとうございます」


 悠真も笑いながらエールを飲む。


 そして、ふと思い出した。


「そういえば皆さん、ゼノンさんって知ってますか?」


「…………」


 それまで騒がしかったドワーフたちの声が、わずかに止まった。


「何でも、昔は伝説の鍛冶師なんて言われてたって聞いたんですけど」


 一人のドワーフが眉をひそめる。


「……落ちこぼれのゼノンか〜?」


「え?」


 別のドワーフも手を振った。


「やめとけ、やめとけ」


「……?」


「あいつの話をすると、せっかくのエールが不味くなるからよ〜」


「そうなんですか?」


 悠真は思わずツバキを見る。


「…………」


 ツバキは何も言わず、小さく首を振った。


(最強の鍛冶師って聞いてたけど……)


 落ちこぼれ。


 なぜ、そんなふうに呼ばれているのだろう。


(何かわけありなのか……?)


 気にはなった。


 だが、今ここで聞くような雰囲気ではなさそうだ。


 悠真はもう一度、エールへ口をつける。


 火山の麓。


 湯気に包まれた温泉。


 ドワーフたちの笑い声。


 そして時折聞こえてくる、ジョッキのぶつかる音。


 こうして、ヴォルカニアでの最初の夜は更けていった。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ