共闘
オーガが咆哮を上げる。
「グォォォォォォォッ!!」
轟音とともに、大地が震えた。
「来る!」
リシェルが剣を構える。
次の瞬間、オーガは巨体とは思えない速さで間合いを詰めてきた。
ドォォン!!
棍棒と剣が激しくぶつかる。
衝撃で地面がひび割れ、土煙が舞い上がる。
「悠真! 横から!」
「分かった!」
悠真は木の棒を握り、側面へ回り込む。
オーガの脚を狙って叩きつける。
ドコンッ!
「っ……!」
木の棒では皮膚をわずかにへこましただけだった。
まるで岩を叩いたような感触。
「硬すぎる……!」
「十分よ! 気を引いて!」
リシェルは隙を逃さず肩口へ鋭い一撃を叩き込む。
黒い血が飛び散る。
しかし、オーガは怯まない。
怒りに満ちた赤い目が、ゆっくりと悠真を捉えた。
「えっ……。」
「悠真! 離れて!」
もう遅かった。
巨大な棍棒が横薙ぎに振り抜かれる。
ドゴォォォン!!
「がっ!!」
悠真の身体は吹き飛ばされ、木々を何本も折りながら地面を転がる。
「ぐっ……はぁ……。」
息ができない。
腕も足も痺れて動かない。
(痛い……。)
(立て……。)
(立たなきゃ……。)
だが身体は言うことを聞かなかった。
⸻
「悠真!!」
リシェルは叫びながらオーガへ斬りかかる。
「こっちよ!」
怒涛の連撃。
首。
肩。
脇腹。
脚。
確実に傷を増やしていく。
「はぁぁぁっ!!」
鋭い一撃がオーガの胸を切り裂く。
だが、その巨体はなお前へ進む。
「そんな……!」
オーガは棍棒を高く振り上げた。
リシェルは迎え撃つ。
ガギィィィン!!
剣が悲鳴を上げる。
押し負ける。
「くっ……!」
次の瞬間。
巨大な拳がリシェルの腹部を捉えた。
ドォン!!
「きゃあっ!!」
リシェルの身体は宙を舞い、木へ激突する。
剣は地面へ突き刺さった。
「ぐっ……。」
立ち上がろうとするが、膝が震えて力が入らない。
「悠真……。」
苦しそうな声が届く。
「逃げ……て……。」
⸻
悠真はゆっくりと顔を上げた。
目の前では、オーガがリシェルへ歩み寄っていく。
一歩。
また一歩。
(逃げろ……。)
頭ではそう思う。
でも足は動かなかった。
夢だから?
違う。
ここで死ねば、この人は本当に死ぬ。
「……嫌だ。」
悠真は震える足で立ち上がる。
その瞬間。
青いウィンドウが目の前に現れた。
⸻
《条件達成》
魔物の討伐
格上との死闘
スキル《見切り》を習得しました。
⸻
世界が静かになる。
オーガの肩がわずかに動く。
腰が落ちる。
腕に力が入る。
(攻撃が来る……!)
棍棒が振り下ろされる。
悠真は反射的に身体を動かした。
ズドォン!!
地面が砕ける。
避けた。
だが肩をかすめ、服が裂ける。
「まだ……速い!」
もう一撃。
今度は半歩だけ早く動く。
紙一重でかわした。
(見えてる……。)
(全部じゃない。)
(でも、少しだけ分かる!)
オーガは苛立ち、力任せに棍棒を振り回し始めた。
攻撃は荒くなる。
悠真は必死にかわし続ける。
息が切れる。
足が震える。
それでも目だけは敵を追っていた。
(あと一回……。)
(あと一回、大振りになれば――。)
その瞬間だった。
オーガが怒り任せに棍棒を振り抜く。
見切りが反応する。
首元。
ほんの一瞬だけ、防御が空いた。
「今だ!!」
悠真はリシェルの剣へ飛びつく。
両手で柄を握る。
重い。
腕が悲鳴を上げる。
「うおおおおぉぉぉ!!」
全身の力を振り絞り、剣を振り抜く。
白銀の刃が一直線に走った。
ザシュッ!!
刃は首元を浅く切り裂く。
「……浅い!」
致命傷には届かない。
オーガが笑う。
(駄目だ……!)
そう思った次の瞬間。
リシェルがこれまで刻み続けた無数の傷が、一気に裂けた。
黒い血が噴き出す。
巨体が大きく揺れた。
一歩。
二歩。
そして――
ドォォォォン……。
オーガは、大地を揺らしながら崩れ落ちた。
静寂が訪れる。
悠真は剣を手放し、その場に膝をつく。
「勝っ……た?」
リシェルがゆっくり歩いてくる。
剣を拾い上げると、悠真の前に立った。
「最後の一撃……見事だったわ。」
悠真は苦笑しながら首を振る。
「違うよ。」
「俺は最後に剣を振っただけ。」
「勝ったのはリシェルだ。」
「俺一人だったら、最初の一撃で終わってた。」
リシェルは少し驚いたあと、ふっと笑みを浮かべた。
「そういうところ……嫌いじゃない。」
その時、青いウィンドウが浮かび上がる。
⸻
ボス討伐成功
レベルアップ!
Lv.2 → Lv.8
⸻
「……え?」
悠真の身体が淡い光に包まれ始める。
「悠真?」
「ごめん……俺……!」
言葉を言い切る前に、光は強くなった。
リシェルは慌てて手を伸ばす。
「待って!」
「王都で待ってる!」
「必ず行くよ!」
しかし、その指先が届くことはなかった。
悠真の姿は光の粒となって夜空へ消えていく。
リシェルはその場に立ち尽くし、小さく空を見上げた。
「あなたは……本当に、不思議な人ね。」
風だけが静かに森を吹き抜けていった。




