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夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第4章「遺跡編」

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 黒い靄が、神龍の巨体を完全に覆っていた。


 先ほどまで黄金に輝いていた瞳は、今や闇に染まっている。


 神龍は苦しそうに頭を振り、何かに抗うように爪を床へ突き立てた。


 ガリガリと石を削る音が、広間へ響く。


『グ……ォォ……。』


 低いうなり声。


 そこに、先ほどまでの威厳と理性は感じられない。


 ツバキは神龍を見上げたまま、拳を握りしめていた。


『我を……救ってくれ……封印が……。』


 神龍が最後に残した言葉。


 その意味を考える間もなく――。


 悠真の目の前に、青いウィンドウが現れた。



【クエスト発生】


神龍を救え。


報酬:????



「……!」


 悠真は表示を見つめた。


(倒すではなく、救う。)


 その一言で迷いが消えた。


「みんな!」


 フィルとツバキが悠真を見る。


「神龍を助けよう!」


「はい!」


「ええ!」


 その瞬間――。


『グォォォォォォォォォッ!!』


 凄まじい咆哮が広間を震わせた。


「うっ……!」


 悠真の身体が硬直する。


 先ほどまでとは違う。


 身体の奥底から、圧倒的な恐怖が湧き上がってくる。


 逃げろ。


 勝てない。


 殺される。


 そんな感情が頭の中を埋め尽くした。


 その瞬間――。



《精神耐性》



「……!」


(これ……ガーディアンを倒した時に手に入れた……!)


 恐怖は消えていない。


 それでも――身体は動く。


 悠真は顔を上げた。


「フィル!」


「ツバキさん!」


 二人を見る。


 フィルは杖を握ったまま震え、ツバキも神龍を見上げたまま動けずにいる。


「二人とも!!」


「……!」


 二人が我に返った。


「みんな! ガード体勢!」


 邪龍が大きく息を吸い込む。


 その口元へ、禍々しい黒い魔力が集まり始めた。


「来る!」


 悠真は剣を構える。


「アースエンチャント!」


 大量の土が剣を包み込む。


 悠真はその剣を地面へ突き刺した。


「魔力障壁!」


 半透明の障壁が三人の前へ展開される。


「アースウォール!」


 フィルも巨大な土壁を作り出した。


 ツバキは床へ両手をつく。


「――(錬成)!」


 神殿の床が隆起し、さらに分厚い石壁が作り出された。


 次の瞬間――。


 邪龍の口から黒いブレスが放たれた。


 ドォォォォォォン!!


「ぐっ……!」


 三重の防御と黒いブレスが激突する。


 石壁が軋む。


 亀裂が走る。


 ボロボロと表面が崩れていく。


「まだ……続くのか!」


「もちませーん!」


 フィルが叫ぶ。


 黒いブレスは一向に弱まらない。


 ツバキが歯を食いしばった。


「だったら……!」


 再び床へ手を叩きつける。


「――(錬成)!」


 邪龍の顎の真下。


 神殿の床から巨大な石柱が一気に突き上がった。


 ゴォンッ!!


 石柱が邪龍の顎を直撃する。


『グォッ!?』


 邪龍の頭が跳ね上がった。


 黒いブレスが三人から逸れ、天井を直撃する。


「今です!」


「ああ!」


 悠真が地面を蹴った。


「瞬歩!」


 一瞬で邪龍との間合いを詰める。


「アースエンチャント!」


 剣を大量の土が包み込み、巨大なロングソードへ変化した。


「はああっ!」


 ザシュッ!


 土の大剣が邪龍の身体へ突き刺さる。


「浅い……!」


 致命傷には程遠い。


 それでも確実に攻撃は通っている。


 悠真は剣を引き抜き、すぐさま《瞬歩》で距離を取った。


「フィル!」


 ツバキが叫ぶ。


「浄化魔法は!?」


 フィルは首を横に振った。


「普通の浄化魔法じゃ無理です!」


「もっと上級の浄化魔法じゃないと……!」


「使えるの!?」


「まだ試したことがありません〜!」


 フィルは黒い靄に覆われた邪龍を見上げる。


「それに、詠唱にもすごく時間がかかります!」


「それでも構わないわ!」


 ツバキは迷わなかった。


「やって!!」


「……分かりましたー!」


 フィルはポーチから一本の小瓶を取り出した。


 ツバキから預かっていた魔力上昇薬。


 栓を抜き、一気に飲み干す。


「うっ……。」


 フィルの身体から魔力が溢れ出した。


 そして、光属性の魔導書を開く。


「悠真さん!」


「お願いします!」


「分かった!」


 悠真は邪龍を見据える。


「ツバキさん!」


「石の柱をたくさん出してください!」


「分かったわ。」


 ツバキが床へ手をつく。


「――(錬成)!」


 ゴゴゴゴゴゴ――!


 一本。


 二本。


 三本。


 巨大な石柱が次々と立ち上がり、邪龍を取り囲んでいく。


「いくぞ!」


「ウィンドエンチャント!」


 風の魔力が悠真の剣と身体を包み込む。


 地面を蹴った。


「瞬歩!」


 一瞬で最初の石柱へ。


 そのまま柱を蹴る。


 次の柱へ。


 さらに次へ。


 風をまとった悠真が、石柱から石柱へ飛び回る。


『グォォォッ!』


 邪龍の巨大な爪が迫る。


 悠真は柱を蹴った。


 直後――。


 バガァンッ!


 今までいた石柱が粉々に砕け散る。


 だが、悠真はすでに次の柱へ移っていた。


 さらに蹴る。


 邪龍の頭上を飛び越える。


「はっ!」


 ザシュッ!


 一撃。


 すぐさま別の柱へ。


 邪龍が振り返る。


 だが、そのときにはもう悠真はいない。


「……凄い。」


 ツバキが思わず呟いた。


 悠真の動きを追いきれない。


 邪龍が苛立ったように尻尾を振るう。


 ドゴォォン!


 石柱がまとめて破壊された。


「壊させない!」


 ツバキが再び床へ触れる。


「――(錬成)!」


 砕けた岩が集まり、再び石柱へと姿を変える。


 悠真が飛ぶ。


 邪龍が壊す。


 ツバキが直す。


 そして、その後方では――。


 フィルが光属性の魔導書を読みながら、必死に詠唱を続けていた。


「フィル!」


「まだか!?」


「あと……もう少しですー!」


(もう少し……!)


 悠真は柱を蹴った。


 邪龍の爪をかわす。


 次の柱へ。


 そして再び蹴り出した。


 邪龍の首元すれすれを通り抜ける。


 その瞬間――。


「……?」


 悠真の視界の端に、黒いものが映った。


 着地する。


 すぐに次の柱へ飛び移りながら、もう一度邪龍の首元を見る。


(あれは……。)


 岩のような鱗。


 その中に一枚だけ、逆向きに生えた鱗がある。


 そして――。


 そこだけが異常なほど黒く染まっていた。


「まさか……!」


 悠真の脳裏に、先ほどの光景が蘇る。


 ツバキが投げた浄化薬。


 黒い靄は確かに薄くなった。


「ツバキさん!」


「龍の首元!」


「黒くなってる逆鱗に、浄化薬を!」


「!」


 ツバキも邪龍の首元を見る。


「あれが……!」


 すぐに腰のポーチから浄化薬を取り出した。


 だが、邪龍までは距離がある。


 ツバキが床へ手をつく。


「――(錬成)!」


 一本の細い石柱が斜めに伸びていく。


 その先端へ薬瓶を乗せる。


「届け!」


 石柱が一気に伸びた。


 薬瓶が弾き飛ばされる。


 そして――。


 パリンッ!!


 命中。


 浄化薬が黒い逆鱗へ降りかかった。


『グギャァァァァァァッ!!』


「……!」


 今までとは明らかに違う悲鳴。


 黒い逆鱗から大量の靄が噴き出した。


「やっぱり!」


 悠真が叫ぶ。


 その瞬間――。


「できましたー!!」


 フィルが魔導書から顔を上げた。


 広間全体へ、膨大な光属性の魔力が広がっていく。


「いきます!」


 フィルは杖を高く掲げた。


「――サンクチュアリー!!」


 眩い光が広がった。


 フィルを中心に巨大な光のサークルが形成され、邪龍の巨体を包み込んでいく。


『グォォォォォォォォッ!!』


 邪龍が暴れる。


 黒い靄が光を押し返そうと膨れ上がる。


「くっ……!」


 フィルの腕が震え始めた。


「フィル!」


「まだ……です!」


 光と闇がぶつかり合う。


 邪龍の身体から黒い靄が剥がれる。


 しかし、再び逆鱗から溢れ出す。


「そんな……!」


「負けません……!」


 フィルは歯を食いしばった。


「神龍さんから……!」


 杖を握る両手に力を込める。


「離れてくださいー!!」


 光が一気に強くなる。


『グォォォォォォォッ!!』


 邪龍の咆哮。


 ツバキは祈るように神龍を見つめていた。


「お願い……。」


「戻ってきて……!」


 悠真も叫ぶ。


「フィル!」


「もう少しだ!」


「はいー!!」


 光のサークルがさらに輝きを増す。


 黒い靄が少しずつ薄くなる。


 翼から消える。


 四肢から消える。


 そして最後に残ったのは――。


 首元の黒い逆鱗。


 光が集中する。


 黒い逆鱗から、最後の邪気が激しく噴き出した。


『グォォォォォォォォォォッ!!』


 神殿全体を震わせる咆哮。


 そして――。


 黒い靄が光の中へ溶けるように消えていった。


『グ……ォォ……。』


 神龍の巨体がゆっくりと傾く。


 ドォォォン……。


 静寂。


「はぁ……はぁ……。」


 三人の荒い呼吸だけが、広間へ響いていた。


 やがて《サンクチュアリー》の光が消えていく。


 そこに横たわっていたのは――。


 黒い靄をまとった邪龍ではない。


 岩のような鱗。


 穏やかな表情。


 本来の姿を取り戻した神龍だった。


 そのとき――。


 悠真の目の前に、青いウィンドウが現れた。



【クエスト達成】


 神龍を救え。


 報酬:《属性耐性》



 (……属性耐性?)


 悠真が表示を見つめる。


 すると、その意味が自然と頭の中へ流れ込んできた。


 火、水、風、土、木、光、闇――。


 属性を持つ攻撃に対する耐性を得る。


(なるほど……。)


 これまで以上に強力な魔法や攻撃と戦うことになるのなら、役に立つ力なのは間違いない。


 悠真が表示を見つめていると、それは静かに消えていった。


「……やった?」


 悠真が呟く。


「たぶん……。」


 フィルはその場へ座り込んだ。


「もう魔力、空っぽです〜……。」


 ツバキが神龍へ近づいていく。


「ツバキさん!」


 悠真が呼び止める。


「大丈夫よ。」


 ツバキは神龍の傍らへ膝をついた。


 ハイポーションを取り出す。


「今度は……私が助けます。」


 神龍の傷へ静かにかけた。


 淡い光が巨体を包み込む。


 しばらくして――。


 黄金の瞳が、ゆっくりと開いた。


 神龍は身体を起こした。


『我を救いし適合者よ。』


 ツバキが神龍を見上げる。


『汝は我に、その力を示した。』


『ゆえに、我が力をそなたへ授けることができる。』


『だが――受け取るか否かは、そなた自身が決めよ。』


「待ってください。」


 ツバキは真っ直ぐ神龍を見つめた。


「なぜ私が適合者なのですか?」


「なぜ、力を示す必要があったのですか?」


「そして……。」


「あなたは、なぜここに存在しているのですか?」


 神龍はしばらく沈黙した。


 やがて、重々しく口を開く。


『我は――祠を守りし存在。』


「祠……?」


『そうだ。』


『だが、詳しくは我にも分からぬ。』


『我に残されているのは、ここより下に存在する祠を守るという使命のみ。』


「ここより……下?」


 三人が顔を見合わせる。


『汝らは試練を乗り越えた。』


『ゆえに――祠への立ち入りを許そう。』


 そして神龍は、再びツバキへ黄金の瞳を向けた。


『さあ。』


『我が力を受け取るか?』


「……。」


 ツバキはすぐには答えなかった。


 三人は少し離れ、顔を合わせる。


 フィルは興奮を隠しきれない。


「受けた方がいいですよ!」


「きっと古代魔法です!」


「古代魔法……。」


 ツバキは自分の手を見る。


 悠真は静かに口を開いた。


「ツバキさんの気持ちに任せます。」


「ただ……。」


 昨夜、ツバキから聞いた話を思い出す。


「昨日の夜の話を聞いて、俺は思いました。」


「これは、ツバキさんにとって必要な力なんじゃないかって。」


 ツバキが悠真を見る。


「もっと多くの人を救いたいんですよね?」


「……。」


 ツバキは静かに目を閉じた。


 夫を救えなかった、あの日。


 母と続けてきた錬金術。


 そして――。


 国で待っているスズ。


 自分には、まだ救える命がある。


 ツバキはゆっくりと目を開いた。


「……分かりました。」


 神龍を真っ直ぐに見つめる。


「受けます。」


『……よかろう。』


『我の側へ。』


 ツバキはゆっくりと神龍へ近づいた。


 巨大な頭の前へ立つ。


 神龍が黄金の瞳を閉じた。


 その瞬間――。


 神龍の身体が眩い光に包まれた。


「……!」


 土色の光が無数の粒となり、広間へ舞い上がる。


 その光は、ゆっくりとツバキの周囲へ集まり始めた。


 腕へ。


 身体へ。


 そして――。


 ツバキの胸の奥へ。


「……あっ。」


 次々と光が吸い込まれていく。


 悠真とフィルは、ただその光景を見つめていた。


 やがて――。


 最後の光が、ツバキの中へ消えていった。

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