空を駆ける魔物
ロックワイバーンは大きく翼を広げ、鋭い咆哮を上げた。
グオオオオォォォ――ッ!
轟音が神殿中へ響き渡る。
巨大な翼が風を巻き起こし、砂ぼこりが舞い上がる。
「来ますよ〜!」
フィルが叫んだ。
次の瞬間、ロックワイバーンが一気に飛び上がる。
「速い!」
悠真はすぐに剣を構えた。
すると、ツバキが小さな瓶を取り出した。
「まずは動きを鈍らせます。」
瓶が空中へ投げられる。
パリンッ!
紫色の液体がワイバーンの翼へ降り注いだ。
グオッ!?
ロックワイバーンは苦しそうに翼を震わせる。
「今です!」
「瞬歩!」
悠真の姿が消える。
次の瞬間には、ワイバーンの目の前へ移動していた。
「はあっ!」
鋭い一撃が翼を切り裂く。
グオオオッ!
ワイバーンは悲鳴を上げながら大きく体勢を崩した。
「アイススピア!」
フィルの魔法陣から、無数の氷の槍が放たれる。
ワイバーンは身をひねり、攻撃を避けようとした。
しかし、傷ついた翼ではうまく飛べない。
氷の槍が次々と突き刺さった。
怒り狂ったワイバーンが悠真へ突進する。
鋭い牙。
巨大な爪。
そのすべてを、悠真は紙一重でかわしていく。
「見切り!」
横薙ぎの一撃を避ける。
「瞬歩!」
背後へ回り込む。
そして――。
「ウィンドエンチャント!」
風をまとった剣が、ワイバーンの背中を切り裂いた。
グオオオオォォォ――ッ!
ワイバーンは最後の咆哮を上げ、その場へ倒れ込んだ。
◇
「ふぅ……。」
悠真は大きく息を吐いた。
フィルが笑顔を浮かべる。
「悠真さん。」
「最初に翼を狙ったのは正解でしたね〜。」
「もし飛び回られていたら、もっと苦戦していましたよ〜。」
ツバキも頷いた。
「ええ。」
「素晴らしい判断でした。」
悠真は少し照れくさそうに頭をかいた。
「ありがとう。」
「それじゃあ、一度休憩しましょう〜。」
◇
ツバキは小さな火を起こし、お湯を沸かした。
やがて、温かいお茶が三人へ配られる。
「生き返りますね〜。」
フィルが満足そうな表情を浮かべた。
「そうだ。」
悠真はアイテムボックスから細長い包みを取り出した。
「これもどうぞ。」
「何ですか〜?」
「プロテインバーだよ。」
フィルとツバキは顔を見合わせた。
「ぷろ……何ですか〜?」
「簡単に言えば、栄養補給用の食べ物かな。」
悠真は包みを開け、一口かじった。
「甘いぞ。」
「それは気になりますね。」
フィルが恐る恐る口に運ぶ。
「……おいしいです〜!」
続いて、ツバキも小さくかじる。
「甘い……。」
「それに、食べ応えがありますね。」
「しかも栄養があるんだ。」
「こんなにおいしいのにですか〜?」
フィルは驚いた顔をする。
ツバキも感心したように頷いた。
「不思議ですね。」
「もし作り方が分かれば、錬金術で再現できるかもしれません。」
「やめておいたほうがいいと思うぞ。」
「どうしてですか?」
「たぶん、材料を集めるだけでも大変だから。」
ツバキは少しだけ笑った。
「そういえば、悠真さんはどうしてそんなに戦えるんですか〜?」
「ん?」
「剣術を習ったこともないんですよね〜?」
「そうだけど。」
悠真は少し考え込む。
「たぶん、何度も戦ってきたからかな。」
「なるほど〜。」
フィルは納得したように頷いた。
ツバキは静かに微笑む。
「経験は、何よりも大切ですからね。」
◇
休憩を終えた三人は、再び階段を下りていった。
そして――。
「これは……。」
悠真は思わず立ち止まった。
そこには、巨大な岩のような魔物が待ち構えていた。
フィルが顔をしかめる。
「ロックタートルです。」
「動きは遅いですが、とても硬い魔物ですよ〜。」
「しかも、不利になると首や手足を引っ込めて、回転しながら突進してきます〜。」
悠真は剣を構えた。
「なるほど。」
「今度は力比べってわけか。」
ロックタートルはゆっくりと顔を上げた。
その赤い瞳が、三人を見つめていた。




