月明かりの下で
夜も更け、月明かりが静かに部屋を照らしていた。
悠真は喉の渇きを覚え、ゆっくりと目を覚ました。
水を飲もうと居間へ向かうと、かすかな明かりが揺れている。
「……ツバキさん?」
机に向かっていたツバキが振り返った。
「あら、悠真さん。起こしてしまいましたか?」
「いえ。」
机の上には、小瓶や薬草が並べられていた。
「まだ起きていたんですね。」
「ええ。明日の準備です。」
ツバキは小さく微笑んだ。
「それに、これが私の日課でもありますから。」
悠真は椅子に腰を下ろした。
「連合国へ行っていたのも、錬金術のためですか?」
ツバキは驚いたような顔を見せ、それから静かに頷いた。
「ええ。」
「錬成した薬品を卸してるってのもあるんですけど。」
「昔のことなんですけどね。」
窓の外では、虫たちの鳴き声が聞こえていた。
「私の夫は、とても優秀な狩人だったんです。」
「私は薬師として、街のみんなを支えていました。」
ツバキは優しく微笑む。
「スズが生まれて、本当に幸せでした。」
その笑顔は、とても穏やかだった。
「でも、ある日、夫は魔物討伐へ向かったんですが…。」
悠真は黙って耳を傾けた。
「ひどい傷を負って帰ってきました。」
「私は必死に薬を作りました。」
「持っていた薬草を全部使い、何度も何度も調合しました。」
ツバキはそっと小瓶へ視線を落とした。
「でも……間に合いませんでした。」
静かな沈黙が流れる。
月明かりが、ツバキの横顔を照らしていた。
「私の錬成した薬では、まだ未熟だったんです。」
「もっと力があれば。」
「もっと知識があれば。」
「助けられたかもしれません。」
悠真は何も言わなかった。
それが、今は正しいような気がしたからだ。
ツバキは静かに続ける。
「だから、それからずっと修業を続けています。」
「月読と連合国を行き来しながら、錬成と錬金術を学び続けているんです。」
「今では母と一緒に、町一番の錬金術師と呼ばれるようになりました。」
そう言って、ツバキは少しだけ笑った。
「でも、まだ足りません。」
「エリクサー。」
「幻の霊薬。」
「そういった幻の薬を精製できなければ、多くの人を救うことはできません。」
「だから、神殿へ向かったんですか?」
悠真が尋ねると、ツバキは真っ直ぐ前を見つめた。
「ええ。」
「古代の神殿には、何かが隠されているはずなんです。」
「古代の知識があれば。」
「私は、もっと多くの人を救いたい。」
「もう二度と、目の前の命を失いたくありませんから。」
悠真は静かに頷いた。
「……強いんですね。」
すると、ツバキは少しだけ困ったように笑った。
「いいえ。」
「母親は、みんな強いんですよ。」
そのときだった。
「ママ……。」
二人が振り返ると、眠そうな目をしたスズが立っていた。
ツバキは優しく微笑む。
「どうしたの?」
「こわい夢を見たの。」
「そう。」
ツバキはそっとスズを抱き上げた。
「大丈夫よ。」
「ママがいるから。」
スズは安心したように目を閉じる。
悠真は、その光景を静かに見つめていた。
月明かりが、親子の姿を優しく包み込んでいた。




