扉
朝日が月読の街を優しく照らしていた。
悠真たちは、土の神殿へ向かう準備を整えていた。
カエデは玄関先まで見送りに来ている。
「気をつけて行ってきな。」
「はい。」
悠真は笑顔で頷いた。
「行ってきまーす。」
フィルが元気よく手を振る。
「ママ、いってらっしゃい。」
スズが小さな声で言った。
ツバキは優しく微笑む。
「ええ。行ってきます。」
三人は月読をあとにし、土の神殿へ向かった。
◇
「また、階段ですか〜……。」
フィルは大きく肩を落とした。
悠真とツバキは顔を見合わせ、苦笑する。
「仕方ないわ。」
「これも試練ですよ。」
「そんなぁ〜……。」
長い石段を登り切り、巨大な橋を渡る。
そして、三人は再び土の神殿へたどり着いた。
悠真は神殿を見上げる。
「まずは一階層ですね。」
「昨日、調査は終わっています。」
「そのまま二階層へ向かいましょう。」
ツバキが頷く。
「ええ。」
「二階層にはストーンラビットがいます。」
「動きは速いですが、それほど強くはありません。」
◇
二階層へ降りた瞬間だった。
岩陰から、小さな影が飛び出してくる。
「来ましたよ〜!」
フィルが杖を掲げた。
「アイスフィールド!」
床一面が凍りつく。
飛び跳ねていたストーンラビットたちは、次々と足を滑らせて転倒した。
ツバキは静かに床へしゃがみ込んだ。
そして、凍った床へそっと手を当てる。
次の瞬間、床に張られた氷が鋭い棘へと姿を変えた。
ストーンラビットたちは逃げる間もなく、その場に倒れていった。
数分後。
戦いは終わっていた。
「……終わり?」
悠真はぽつりとつぶやいた。
(そりゃあ、床に氷を張られたら何もできないよな……。)
フィルは満足そうに頷く。
「ふふん。」
そして、床に張られた氷を解除した。
「さっ、悠真さん。行きますよ!」
フィルは得意そうに胸を張る。
ツバキも微笑んだ。
「ええ。先はまだ長いですから。」
◇
三階層へ向かう。
「三階層はロックウルフです。」
「ラビットほど楽にはいきませんよ。」
ツバキの言葉が終わるのと同時だった。
複数の影が飛び出してくる。
「来ました!」
ロックウルフたちは連携しながら、一斉に飛びかかってきた。
「魔力障壁!」
悠真はとっさに障壁を展開する。
ウルフたちは壁を蹴り、すぐに体勢を立て直した。
「くっ……。」
「さすがに簡単にはいかないか。」
「ウィンドカッター!」
フィルの風の刃が放たれる。
しかし、ウルフたちは素早く身をかわした。
一匹がツバキへ飛びかかる。
ツバキは短剣を抜き放ち、紙一重で攻撃をかわした。
「なかなか厄介ね。」
悠真も剣を構える。
だが、相手の連携は見事だった。
攻めても、すぐに仲間が援護に入る。
それでも、三人は少しずつ押し返していった。
「今です!」
フィルが杖を振り上げる。
「アイスウォール!」
氷の壁が現れ、ウルフたちの動きを封じた。
「はあっ!」
悠真の剣が閃く。
やがて、最後の一匹も倒れた。
「ふぅ……。」
フィルは魔力回復薬を飲み干した。
「疲れましたね〜。」
「なかなか動きが速くて、魔法が当たりませんでしたよ〜。」
ツバキも小さく息を吐く。
「そうね。」
「あの連携は厄介だったわ。」
しかし、悠真だけは元気そうだった。
「次は四階層ですね。」
「悠真さんは元気ですね〜。」
フィルは驚いた顔をする。
◇
「四階層はアースベアです。」
「単体ですが、力は強いですよ。」
「少し休憩してから行きましょう。」
悠真は壁に刻まれた古代文字を見ながら歩いていた。
「悠真さ〜ん。」
「休憩しないんですか〜?」
「うーん。」
「いろいろ気になってさ。」
ツバキは少しだけ笑った。
「悠真さんは、本当に何にでも興味を持つんですね。」
◇
四階層。
部屋の中央では、巨大なアースベアが待ち構えていた。
「アイスアロー!」
氷の矢が命中する。
しかし、ベアは平然としていた。
「効いてない!?」
悠真は剣を構え、一気に間合いを詰める。
「ガキィィン!」
ベアは巨大な爪を振り下ろした。
「これは……手強そうね。」
ツバキは腰の袋から小瓶を取り出し、ベアに投げつけた。
瓶が砕け、薬品がベアへ降りかかる。
「グル?」
「フィル!」
ツバキが叫ぶ。
フィルは背後へ回り込んだ。
「アイススピアー!」
鋭い氷の槍が突き刺さる。
「グオォォォッ!」
ベアが悲鳴を上げた。
その隙を逃さず、悠真が飛び込む。
「はあっ!」
剣がベアを切り裂いた。
ベアは大きな音を立てて倒れた。
「ツバキさん。」
「あれは何だったんですか?」
「あれは、悠真さんたちに渡した薬とは逆の薬よ。」
「身体能力と魔力を低下させる薬なの。」
「そんなものまであるんですね〜!」
フィルは感心したように頷いた。
「さすがです。」
ツバキは少しだけ照れくさそうに笑った。
「さて……。」
「いよいよ五階層ね。」
「五階層はアースリザードです。」
悠真は頷いた。
「アースリザードとは一度戦ったことがあります。」
「大丈夫だと思います。」
ツバキは真剣な表情を浮かべた。
「油断は禁物ですよ。」
◇
三人は五階層へ足を踏み入れた。
「えっ……?」
悠真たちは、その場で立ち止まる。
そこにいたのは、アースリザードではなかった。
巨大な岩のような塊が、ゆっくりと立ち上がったのだ。
フィルが目を見開く。
「ガーディアン!?」
「学院の本で読んだことがあります!」
ツバキも表情を強張らせた。
「うそ……。」
「そんなことって……。」
そのときだった。
悠真は、その存在に気づいた。
「ツバキさん!」
「ガーディアンの後ろに扉があります!」
「えっ!?」
ツバキは驚き、視線を向けた。
そこには、巨大な石の扉が静かに佇んでいた。
「何故……!?」
静寂が辺りを包み込む。
そして――。
ガーディアンが、ゆっくりと大剣を地面に突き立てた。




