スズと月読の大冒険
朝日が障子越しに差し込み、庭園には小鳥たちのさえずりが響いていた。
悠真が居間へ向かうと、今日も豪華な朝食が食卓に並んでいた。
焼き魚に温かな汁物、色鮮やかな野菜料理――そして、炊きたてのご飯。
立ち上る湯気とともに、どこか懐かしい香りが漂ってくる。
「ご飯だ。」
悠真は驚いたように目を見開いた。
「どうかしたの?」
ツバキが首をかしげる。
「いや、アスティアではあまり見かけなかったからさ。」
「リシェルにも、珍しい食べ物だって聞いていたんだ。」
すると、ツバキが微笑んだ。
「お米は、この国の特産品なのよ。」
「月読は水が豊かだから、昔から栽培が盛んなの。」
カエデも頷いた。
「薬草と同じさ。手間をかければ、ちゃんと応えてくれる。」
「へえ。」
悠真は感心したように頷いた。
その隣では、フィルとスズがすでに朝食を食べ始めていた。
「おいしいです〜!」
「おいしい〜!」
二人は顔を見合わせて笑っている。
「さて、今日は月読の街を見て回ろうと思うんだ。」
「賛成です〜。」
フィルが元気よく手を挙げた。
すると、スズが勢いよく立ち上がった。
「じゃあ、私が案内してあげる〜!」
「案内?」
「うん!」
スズは胸を張った。
「月読のことなら何でも知ってるんだから〜!」
その様子を見て、ツバキが微笑む。
「私は、おばあちゃんと一緒に薬品を錬成したり、魔道具を作ったりするわ。」
「今回の旅で、ずいぶん消耗したもの。」
そして、優しい声で続けた。
「スズ、お願いね。」
「わかった〜!」
「任せて〜!」
スズは元気いっぱいに答えた。
そして、部屋へ駆け込み、大切そうにぬいぐるみを抱えて戻ってくる。
フィルが首をかしげた。
「その子は誰ですか〜?」
「私のお気に入りのお人形さ〜ん。」
スズは嬉しそうに頬をすり寄せた。
「名前はココ!」
「かわいいですね〜。」
「でしょ〜?」
こうして、スズと月読の大冒険が始まった。
◇
最初に案内されたのは、大きな薬草畑だった。
色とりどりの花が咲き誇り、甘い香りが風に乗って漂っている。
「ここはね、ママが薬草を育ててる場所だよ〜。」
「広いな。」
「すごいです〜。」
すると、遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あら。」
そこにいたのは、作業着姿のツバキだった。
「もう見つかっちゃった。」
ツバキは苦笑する。
「仕事中だったんですか〜?」
「ええ。」
「薬草の状態を見ていたの。」
ツバキはしゃがみ込み、葉を優しく撫でた。
「月読の周りには、さまざまな薬草が生えているのよ。」
「だから、この国の冒険者ギルドでは薬草採取の依頼が多いの。」
「なるほど。」
悠真は感心したように頷いた。
◇
昼になると、ツバキとカエデも合流し、一行は街の食堂へ向かった。
「おいしいです〜!」
「これは驚いたな。」
悠真も目を輝かせる。
「香辛料が独特ですね。」
「隣国との交易品よ。」
ツバキが静かに答えた。
食事を終え、悠真は笑った。
「いろいろな景色を見たいし、明日は薬草採取の依頼を受けてみようかな。」
「いいと思います〜。」
「きっと楽しいわ。」
◇
午後からは、ツバキも一緒に街を見て回った。
神木。
水路。
錬金術工房。
屋台通り。
月読の街は、どこも活気に満ちていた。
そのときだった。
「ん?」
フィルが足を止めた。
「スズちゃん。」
「どうしたの〜?」
「ココはどこですか〜?」
「え?」
スズが辺りを見回す。
そして、その顔が青ざめた。
「……あっ。」
「ない。」
「えっ?」
「ない!」
スズは慌てて鞄の中を探した。
「ココがいない〜!」
みんなで、今日歩いた場所を探し回った。
薬草畑。
水路。
神木。
工房。
屋台通り。
けれど、どこにも見当たらない。
気づけば辺りは暗くなり、街には少しずつ灯りがともり始めていた。
ツバキが優しく声をかける。
「今日は帰りましょう。」
「明日、また探せばいいわ。」
しかし、スズは首を横に振った。
「嫌だもん。」
「どうして?」
ツバキが尋ねる。
スズはぎゅっとココの首飾りを握りしめた。
「お父さんにもらった、大切なお人形なんだもん……。」
みんなは言葉を失った。
そのとき――。
「ツバキー!」
遠くからカエデの声が聞こえてきた。
一同が振り返る。
そして、その手に抱えられていたものを見て、スズは目を見開いた。
「ココ!」
カエデは穏やかに微笑んだ。
「食堂の主人が届けてくれたよ。」
「昼食のあと、忘れていったそうだ。」
実は、みんなが食堂へ探しに行ったときには、店主はすでに家へ向かっている最中だったのだ。
家で薬品を錬成していたカエデは人形を受け取ったものの、一行が帰ってこないことを心配し、探しに来てくれたのだった。
「よかったぁ……。」
スズは目に涙を浮かべながら、ココをぎゅっと抱きしめた。
◇
その夜。
屋敷には再び笑い声が響いていた。
「フィル姉ちゃん、見つかったよ〜!」
「よかったですね〜!」
ツバキとカエデも、安心したように微笑んでいる。
悠真は、そんな様子を静かに見つめていた。
(これも、立派な冒険だったな。)
こうして、スズのちょっとした大冒険は幕を閉じたのだった。




