家族
悠真たちは、馬車がすれ違えるほどの大きな橋を渡っていた。
橋の下には澄んだ川が流れ、その先には黒い瓦屋根が立ち並ぶ街並みが広がっている。
どこか和の雰囲気を感じさせながらも、王都アスティアとはまったく異なる景色だった。
建物には紫色の装飾が施され、あちこちに薬草が干されている。
道行く人々の耳は長く尖り、紫色や金色の瞳が印象的だった。
悠真は、和を感じる、でも不思議で綺麗な街に驚いていた。
「すごい。」
「すごいですね〜。」
フィルが目を輝かせる。
「王都とは全然違います。」
「ええ。」
ツバキは少し誇らしそうに微笑んだ。
「ここが、ダークエルフの国、首都、月読よ。」
するとツバキが振り向いた。
「このまま、私の家へ向かいましょうか?」
「もちろんです。」
「もちろんですよ〜。」
二人が頷く。
馬車は街外れへ向かい、やがて大きな屋敷の前で止まった。
門をくぐると、美しい庭園が広がっていた。
色鮮やかな花々が咲き誇り、小さな橋の下では魚が泳いでいる。
そして、池の中央からは澄み切った水が湧き出していた。
「地下水よ。」
ツバキが静かに説明する。
「薬品を錬成するときに使っているの。」
「へえ……。」
悠真は感心したように頷いた。
目の前には、和と中が混ざり合ったような大きな家が建っていた。
そのときだった。
「ママー!」
元気いっぱいの声が響いた。
五歳ほどの女の子が、勢いよく走ってくる。
「おかえりなさーい!」
「ただいま。」
ツバキは優しく微笑んだ。
「元気にしてた?」
「うん!」
「おばあちゃんの言うことも聞いてたし、お手伝いもしたよ!」
「いい子にしていたのね。」
「うん!」
「スズ、えらい〜?」
「えらいえらい。」
ツバキは優しく頭を撫でた。
すると、スズが悠真を見上げた。
「……?」
じっと見つめる。
「新しいパパ〜?」
「ぶふっ!」
悠真は思わず吹き出した。
「ち、違います!」
「そうなの?」
ツバキは苦笑した。
「ママのお友達よ。」
「中継都市から一緒に旅をしてきたの。」
「盗賊から助けてくれたのよ〜。」
すると、フィルがひょいっと前へ出た。
「こんにちは〜。」
「私はフィルって言います。」
「よろしくね〜。」
「俺は悠真。」
「旅の途中で、お母さんに助けてもらったんだ。」
「でしょ〜?」
スズは得意そうに胸を張った。
「私のママは強いんだから〜。」
「もう。」
ツバキは微笑みながら頭を撫でた。
「こちらは、私の娘のスズよ。」
「スズ。」
「ちゃんと挨拶しなさい。」
スズは背筋を伸ばした。
「スズって言います!」
「スズちゃんって言うんだね〜。」
フィルがにっこりと笑った。
すると、家の奥から一人の女性が姿を現した。
「おかえり。」
ツバキをさらに落ち着かせたような雰囲気を持つ女性だった。
「お母さん。」
「ただいま。」
「今回はどうだったい?」
「いつもどおりよ。」
「そうかい。」
「ありがとうね。」
ツバキは二人へ向き直った。
「こちらは母のカエデです。」
「はじめまして。」
悠真とフィルも、それぞれ挨拶を交わした。
「立ち話も何だ。」
「中へ入りなさい。」
カエデに促され、一行は屋敷へ入った。
しばらく談笑したあと、話題は自然と夢渡りの話へ移った。
「そうかい。」
「あんたが夢渡りかい。」
「みたいですね。」
「何か知っていますか?」
悠真が尋ねる。
カエデは静かに首を横に振った。
「私も詳しくは知らないよ。」
「ただ、爺さんが昔、よく遺跡へ通っていたね。」
「遺跡ですか〜?」
「ああ、土の神殿だよ。」
フィルが身を乗り出した。
「何か隠されているんですか〜?」
「さてね。」
「あの人は、あまり話さない人だったから。」
悠真はフィルと顔を見合わせた。
「じゃあ、調べてみようか。」
「そうですね〜。」
すると、カエデがツバキへ視線を向けた。
「ツバキ。」
「一緒に行ってやりな。」
「えっ!?」
スズが声を上げた。
「もっと遊びたい〜!」
フィルは笑顔で手を挙げた。
「じゃあ、スズちゃん。」
「私と遊ぼ〜。」
「いいよ〜!」
二人は元気よく駆け出していった。
それを見送りながら、悠真は苦笑した。
「カエデさん。」
「帰ってきたばかりですし、一日か二日はゆっくりしましょう。」
「僕も、この街を見て回りたいですし。」
「そうかい。」
カエデは穏やかに微笑んだ。
「それなら、その間はここに泊まっていきな。」
「その方が都合もいいだろう。」
「ありがとうございます。」
「それから、ツバキさんもよろしくお願いします。」
「ええ。大丈夫よ。」
「私も、土の神殿の事は気になっていますから。」
ツバキは微笑んだ。
その日の夕食は、とても賑やかだった。
食卓には見たこともない料理が並んでいた。
「これは……。」
「めちゃくちゃ美味しいです。」
悠真は、目を輝かせながら口いっぱいに頬張った。
「フィル姉ちゃん、これも美味しいよ〜!」
「本当ですね〜!」
カエデとツバキは顔を見合わせて笑った。
「どんどん食べな。」
「たくさんありますからね。」
笑い声が家中に響き渡る。
スズは楽しそうにフィルへ話しかけ、フィルも嬉しそうに笑っていた。
ツバキとカエデも、そんな二人を優しい目で見つめている。
(いい場所だな……。)
悠真は温かいお茶を口に運び、静かに微笑んだ。
その夜、ツバキの家には、久しぶりに賑やかな時間が流れていた。




