日常の違和感
悠真は、光が消えた場所を見つめていた。
そこには何もない。
先ほどまで淡く揺らめいていた光も、今は跡形もなく消えている。
「何だったんだ……。」
すると、遠くから声が聞こえてきた。
「おーい!」
振り返ると、蓮たち三人が駆け寄ってくるところだった。
悠真は慌ててホーンラビットをアイテムボックスへ収納する。
「突然どうしたんだ?」
蓮が不思議そうに尋ねた。
「びっくりしたんだけど〜。」
陽菜も頬を膨らませる。
「悠真さん、大丈夫ですか?」
美月が心配そうに声をかけた。
「ああ、大丈夫だよ。」
悠真は咄嗟に近くの石を指差した。
「何か、たぬき〜? が出たと思ったんだけど、違ったみたいだ。」
三人は石を見つめた。
「なーんだ。」
「驚かせないでよ〜。」
「よかったです。」
悠真は苦笑した。
「それより、ちゃんと薪拾いしたか?」
すると、陽菜が笑った。
「どっちが?」
四人は笑いながら、BBQをしている場所へ戻っていった。
⸻
(あれは、何だったんだろう。)
悠真は考えていた。
夢世界の魔物が、どうして現実世界に現れたのか。
だが、答えは出なかった。
⸻
「いただきます!」
四人は昼食を始めた。
肉が焼ける香ばしい匂いが辺りに広がる。
仕事の話。
昔の話。
他愛もない話が続いていく。
やがて、食事を終えた四人は川へ向かった。
しばらく4人で遊んでいると。
「うわっ!」
蓮が足を滑らせて川へ転ぶ。
「冷たっ!」
大きな水しぶきが上がった。
「あははは!」
三人は声を上げて笑った。
「何だよ!」
「蓮らしいな。」
すると今度は、陽菜が悠真の背中を軽く押した。
「ほらっ!」
「うわっ!?」
悠真も勢いよく川へ落ちた。
全身がずぶ濡れになる。
「やったな!」
「ふふん。」
二人は顔を見合わせ、思わず笑った。
その様子を見ていた蓮と美月も笑い出す。
四人の笑い声が、山々へ響いていった。
⸻
車へ戻ると、悠真は着替えを取り出した。
「持ってきてよかったな。」
蓮が頷く。
「ああ。」
そして、ふと悠真を見つめた。
「そういえば、お前、そんなに鍛えてたか?」
「えっ?」
「前より体つきが変わった気がする。」
悠真は一瞬だけ言葉に詰まった。
(そういえば……。)
レベルが上がるたびに、体が軽くなっているような気がしていた。
(もしかして、そういうことなのか?)
悠真は慌てて笑った。
「最近、筋トレを始めたんだよ。」
「それにしては変わりすぎじゃないか?」
「気のせいだって。」
蓮が不思議そうな顔をして見てくる。
悠真は恥ずかしくなり、急いで車から飛び出した。
陽菜と美月は、そんな悠真の後ろ姿を、なぜか黙って見つめていた。
⸻
夕方になり、四人は片づけを始めた。
空は赤く染まり、山々は静かに夕闇へ包まれていく。
車内では、疲れて眠っている三人を乗せ、悠真は静かに車を走らせていた。
なぜホーンラビットが現れたのか。
なぜ空間が歪んだのか。
考えても、答えは出なかった。
蓮を送り届け、美月を送り届け、最後に陽菜を家まで送る。
「じゃあね。」
「あんたも気をつけなさいよ。」
「分かってるよ。」
陽菜は笑いながら手を振った。
⸻
家へ帰ると、悠真はシャワーを浴び、ベッドへ腰を下ろした。
「フィルとツバキには、何て説明しようかな。」
頭をかきながら、小さく息を吐く。
「向こうも驚いただろうな。」
考えても、うまい言葉は思いつかない。
「戻ったら、ちゃんと話すか。」
そう呟いて、悠真は天井を見上げた。
そして、不意に白銀の髪が頭に浮かぶ。
「……リシェルは元気かな。」
悠真は、ふっと小さく笑った。
そして、静かに目を閉じた。
⸻
悠真が眠りについた頃。
フィルとツバキは、馬車をゆっくりと進めていた。
「悠真さん……大丈夫でしょうか。」
フィルが不安そうに呟く。
「大丈夫ですよ。」
ツバキは穏やかに微笑んだ。
「必ず戻ると言っていましたから。」
「そうですよね。」
フィルは小さく頷いた。
「でも、驚きました。」
「ええ。」
ツバキは空を見上げた。
「夢渡りが、本当に存在していたなんて。」
しばらくして、フィルが前方を指差した。
「あっ!」
「どうしました?」
「見えてきました!」
山々の向こう。
夕日に照らされた建物が、ぼんやりと見えていた。
馬車は、ゆっくりと山道を進んでいく。




